79:配下と資源の無駄遣いとはまったく感心できん
我々の足止め役として配置された戦闘車両と二輪車をより集めた機械生命体ウォーズガン。
叩き返したヤツ自身のエネルギー砲で顔面を焦がしてよろめくその機体に、私はすかさずに前蹴り。重々しい音を立てた鋼の巨体が足元の木々を薙ぎ倒し、森を押し潰す形で大の字に。
「……貴重な資源の生産地だと言うのに……仕方ない。道の拡大整備と合わせての植林に力を入れるか」
食料のみならず多くの資源を産み出す森林。その損害からの補填に頭を巡らせながら、私は起き上がろうとするウォーズガンの機体に左腕のエナジー・ソードウィップ三本を絡ませ引き起こす。
グンと私のペースで起き上がるその顔面に右の拳を一発。引き寄せと迎え撃ちの勢いを重ねての鉄拳にウォーズガンは縛られながらものけぞり。しかし胸部と腕部に備えた機銃の反撃を。
縛られ殴られた機体で、狙いも何も無いと射撃。でたらめにばら蒔かれた小粒のエネルギー弾程度では、我が機体には何の痛痒も与えぬ。が、それは私相手であればの話。
周囲の森林、そして私が引っ張って来た騎兵たち。私の支配下にある、将来的に収まるべき資源たちは流れ弾ひとつで焼かれてしまう。
だから私は光鞭の手繰りに合わせて自分からも踏み込み組み合い、私自身の機体でもってその銃口を塞ぐのだ。
「レイア様が抑えて下さっている! 今のうちにこの場を離れるのだ!! 遅れたものは置いていくぞッ!!」
ゼロ距離のフラッシュブラストを浴びせてやりながら、私は進行方向への退避を進める部下の声を聴覚センサーに。
さすがの判断だ。私が求めるところを良く汲んでくれる。
と、部下の働きに気分良くなったのもつかの間、ウォーズガンは密着した私を無視して砲口を離れ行く部下に。
「……それを許すと思うのか?」
我ながら冷ややかな囁きと共に左膝のソードウィップにて心臓部を刺し貫いてやる。しかし繋がった部品の側でコントロールをし続けているのでさらに大きく放り投げて。
絡まった光鞭に引き裂かれながら宙を舞ったウォーズガンの巨体はコントロールを失ったエネルギーの暴走で爆発四散。都方面の空に大きな花火を上げる。
それに隠れるように放たれたエネルギー弾。小さく圧縮されているそれが狙うのは私、ではなく育成半ばの騎兵隊だ。
私のモノへの狙撃に、とっさに拡散のフラッシュブラストを放ってダッシュ。しかし光弾は弾幕をすり抜けるように飛んで標的へ一直線。
このままでは間に合わぬ。そう計算した私は分離からのセプターセレンの頭突きでニクスレイアの車体を加速。狙撃弾に体当たりするように割り込む。
「レイア様ッ!?」
「大事無い。見た目よりも傷は浅い。それよりも退避を……射線が通らぬ森の中に身を隠すのだ」
兵らを広く吹き飛ばす。その狙いでの榴弾型だったのが幸いか、私は焼けた機体からシュウシュウと煙を上げながらも、問題なく人型にチェンジ、身構える事ができた。
すかさずに飛来する第二射。大金星たる私を狙った高密度のエネルギー徹甲弾を私はフラッシュブラスト、からの両手のエナジーソードでパリィング。上空へと逃がす。
同時に私のカメラアイが望遠モードで捉えたのは砲身の排熱モードに入った大砲だ。必殺の連撃で息切れを起こしたその砲台は、ちょこまかと手足を動かして岩山の陰に身を隠した。
合体メンバーを揃えていたとはいえ、チームひとつでの待ち伏せなど無駄遣いが過ぎるとは見てはいたが、なるほどあちらが本命か。
あからさまなので目を引いておいて、その隙に私か私の軍勢に狙撃を食らわせてやると。
「アレだけ見せつけてやっていたというのに、見くびられたものだな……」
その一言に続いて、私はスラスターを吹かして跳躍。スナイパーにこの身を見せつけてやる。
分離したセプターセレンには合流ではなくその場で待機、いや反転してのダッシュをウォーズガンから分離したパーツ役に向けて。
そうしてやられたフリからの襲撃を企んでいたのを抑えさせ、私は憂いなく狙撃手へ。
これに慌ててサブウェポンであるチェーンガンを放つスナイパー。対する私は連なり迫るエネルギー弾をソードウィップを回転させたエネルギーシールドで弾き、その光に紛れて車形態にチェンジを。
四輪を唸らせ低い姿勢で縦横に疾走する銀の車体に、スナイパーはチェーンガンを向ける。が、火を吹いたそれが穿つのは土か木々ばかり。私の動きにはまるでついてこれていない。
そうして機体を低くしたまま斜角の下に潜り込んでやろうとする私だが、そこはさすがにスナイパーも必死の抵抗を。
それはそうだろうな。潜り込まれたが最後、ヤツに私を仕留める術はあるまい。
ジリ貧の状況に追い込まれている。それを悟ってはいるのだろうが、それでも踏ん切りをつけられずに私の接近だけはどうにか阻んでいたスナイパーは、ついに人型にチェンジ。スモークとエネルギーチェーンガンによって巻き上げた土煙を目眩ましに。
姿をくらませての仕切り直し。あるいは撤退。
互いの手札と状況からすれば妥当な判断だ。だが遅い!
未だに放たれ続け、もうもうと煙幕を継ぎ足し濃くするチェーンガンをすり抜けて突撃。
まさかの最短距離の正面突破をされるとは思っていなかったのか、スナイパーは複合スコープとのリンクの外れたゴーグルを激しく瞬かせる。
「んなぁッ!?」
ヤツの溢した驚きの声を遮るように体当たり。からの人型へのチェンジで組み付く。そうして勢いに流れた鋼の巨体が転がる中、私はソードウィップをスナイパーの体に突き刺してやる。
機体の内外を蠢くダメージに苦悶の声を上げるスナイパー。その機能、特に火器管制やエネルギーコントロール関係を念入りに断ち切りつつ、私はヤツのメモリーを探る。
だが記憶も意識もあるためだろう、メイレンに預けたバギー・ホンシンのようにはいかん。片手間には手こずりそうな、なかなかに固いプロテクトに守られている。
防御を確かめて良しとした私は、ひとまずスナイパーの動きを封じる事に専念しつつ、機体を転がるに任せる。
そうして完全にブレーキがかかった頃には外れかけた手足と武器とを投げ出すように広げたスナイパーを見下ろす形になる。
「……我が配下を狙う攻撃はこの場は収まったようだな。この場に残っているのはもうお前だけのようだな?」
ここは敵わぬと撤退したのか最初からいなかったのか。それは別にして待ち伏せ奇襲を凌いだようだと認めた私は、周囲への警戒を保ったままスナイパーの尋問に移る。
「貴様らの黒幕はアステルマエロルであろう? 今のヤツの手元にはどれほどの機械生命体戦力が揃っている? ヤツ自身の機体はすでに調達出来たのか? ヤツは都の他にいくつの拠点を持っている? 答えろ」
目下の重要事項はこの三つ。
敵戦力の数と質。そして撤退、潜伏する先。ヤツを今度こそ確実に仕留める。そのためにもこの三つの情報だけは抑えておきたいところだ。
手足の動かなくなったところで身動ぎするスナイパー。その急所である喉元に光の刃を突きつけて答えを求める。
それでも黙して語らぬ狙撃手に、私は腰を据えてのデータ吸い出しに取りかかろうと――したのを止め、一気に飛び退く。
そんな私の機体を爆風と殴りつけるよう熱が襲う。
とっさに身を固めたものの、至近距離の爆発に機体は炙られ、押し流される。
スラスターで無理矢理に踏ん張り、破片を含んだ熱風をやり過ごした私は、正面に大きく土をえぐった爆心地を見る。
「まったく見上げた忠誠心ではないか。そこまで捧げるような相手では無いと思うがな」
自爆までした狙撃手にそう吐き捨てて、私は己の部下が受けた損害の確認に移るのであった。