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76:腰を据えるかと思ったところにこれか

 さて、邪教団回りの調査から流れで融機生命体と化していたナイジェルを討ち取った私だが、陣営としては少々面倒なことになっていた。

 と言っても、謀反が拡大したとか刺激を受けた魔獣による被害が増えたとかそんな事では無い。

 ナイジェルの同類、融機生命体に変異暴走した一門衆。それが数名パサドーブルの各地に出現したのだ。


「討ち取るだけならばそれほど困難では無いが……」


 それこそ(ニクスレイア)が出陣すれば必勝一掃と言うものだ。

 留守居役にメイレンと彼女がホンシンと名づけた記憶喪失のバギーロボ。そしてレックスアックスにブルシールドも控えている。

 出撃中を狙われた所で遅れを取ることはあるまい。


「だからって真っ先に出ていこうとする将軍がいますか、と」


「戦況によっては、将こそが真っ先に最前線に出て兵を引っ張らなくてはならない事もあるぞ?」


「だとしても、今のレイア様の軍には必要ありませんよね?」


「ハッハッハッ! よくぞ言ったミントよ。お前の言う通りだ」


 腹心が見るからに長い耳を下げて呆れの感情を露に指摘した通り、現状の我が軍で私が真っ先に飛び出すのはただの仕事の強奪にしかならん。それも相手が私でしか太刀打ちできぬ大物であるならばともかく、メンツを揃えればどうとでも出来るはずの小粒となればなおのこと。


「だがしかし、一刻も早く掃除してやらねば、領地に刻まれる傷痕は深くなるばかりだ」


 どうにも寄せ集め巨大化の部品作りの一環で、生き物を同類とする機能を持っているようで、適合者を手下に、不適合者を骸にしてしまう事がナイジェルの後始末と調査の中で分かっている。

 手を下すのが遅れれば遅れるだけ私の領地と民が消耗させられてしまうのだ。まったく鬱陶しい手で攻めてくるものよ。


「とにかくそちらについてはメイレン様とホンシンの二人組、そしてレックスアックス、ブルシールドをそれぞれに同行させたハインリヒ様、フィリップ様の隊からの吉報を待つ他ありません。レイア様は一日も早い討伐報告を待って、このミエスクの都で政務に励んでいただきます」


「もはや人事は尽くした、と。道理であるな」


 パサドーブル一州を治める以上、私もいつまでもフットワークの軽い万夫不当の開拓者ではいられんからな。

 しかしかつてのフットワークの軽さが大きな武器であった事もまた事実。

 強大な権力を持ちながら、スピードを死なせずに両立させる事。これを実現させる仕組みの実用化が急がれるな。

 その工夫が成立していない以上は責任者として俯瞰した仕事をするしか無い。ミエスクの工事現場に出したニクスの動作も平行してな。


「そう言えば命じた品の作成はどうなっている?」


「遠話の波動具と、あのカラクリですか? どうにか仕上がった試作品が報告書と一緒に上がってきていたはずです」


 食事と共にお持ちします。と、ミントは執務室を後にする。

 そうしてミントを先頭に侍従ら数人がかりで持ち込まれたのは、一抱え程もある箱が二つだ。

 ツルリとした金属の立方体は波動具で、もう一つの横にハンドル、上から金属竿を伸ばした木箱はいわゆる鉱石ラジオだ。

 見た目には私の授けた設計図の通りであるな。では中身はどうかと試運転のため私は早速ハンドルを回し始める。


「レイア・トニトゥル・エクティエース・ミエスクである。レイア・トニトゥル・エクティエース・ミエスクである。ミエスクは晴天なりミエスクは晴天なり。聞こえたならばハンドルを回して応答どうぞ」


 突然箱に名乗り語りかけ始めた私に、ミントを含む侍従らは訝しげに首を傾げる。

 が、しばしの間を置いてその表情は体ごとひっくり返ることに。


「……お、お姉様? お姉様なのですよね? フェリシア・プリムス・クロネン・スメラヴィアです。ですけど……これなんなのですか? 波動具でない、とは聞いてますけどもなんでこんな?」


 戸惑い交じりの姫殿下の応答。ノイズの絡んだそれと心を同じくした視線がミントらから集まる。

 私が設計図を書いて用意させたこれはもっとも構造の単純な通信機である。

 通信可能な距離は短いが、現在のスメラヴィアの技術でも製作が可能な無線通信機だ。


「えっと……それを作らせたのはお抱えの波動具技師では……?」


「無論違うぞ? こちらの通信波動具の製作を依頼していたところに、さらに別件を重ねたりはせぬよ。まあ人材の余裕にもよるがな」


 ハンドルを回しながらの私の答えに、ミントらは首を傾げる。


「えっと……波動具でなくとも同じような物が作れた……というのはすごいことだとは思います。けれどどうしてそんなものを?」


「まあ当然の疑問だな。同じサイズのこちらの方が通じる距離も音声の鮮明さも上であることには間違いあるまい」


 だが作り手は限定される。

 比較して性能が良かろうが、職人の一点物や使い手を厳選するような品では数の欲しいところには歓迎されまい。

 対して鉱石ラジオは欠点は多いものの材料があって構造さえ理解出来ていれば、誰でも作れる。それこそ部品に組み立て解説書を添えたものがあれば、構造そのものの理解すら必要ない。

 誰でも作れて誰でも使える。それは状況によっては単純に高性能であることよりも重視される。

 我が配下に普及させておけば、俯瞰する位置に腰を据えずとも戦況が事細かに知れるというものよ。まさに情報戦における革命である。


「以前に聞いたレイア様の弓に太刀、これに対して兵に行き渡らせる武具と同じような話ですね」


「まさにその通り。それにこの鉱石ラジオはあくまでも基礎の基礎。ここからいくらでも性能向上の方法はある」


 それこそ波動具にも匹敵するほどにな。

 では最初からそれを用意すれば良かろう。という話にもなるだろうが、それでは私が通信機作りに忙殺されてしまうではないか。

 後は技師に研究させて改善を任せ、発達を見守るのも一興よ。それが仕事を、産業を生む事にもなるのだから。

 まあ必要に迫られたのならば、都度都度段階を踏んで改良案を出すつもりではあるがな。

 ここまで語って、この場と通信機の向こうからの反応はまちまちだ。

 私との付き合いの長いもの、政治的な視野の持ち主はおおいに納得をしている。しかしそれ以外が今一つの、そういうものなのだろうか程度の顔だ。

 まあそれも無理からぬ事よな。

 そう思ってもう一段柔らかくした解説をしようとした所で、波動具の方から通知音が。


「レイア・トニトゥル・エクティエース・ミエスクである。機能試験の打ち合わせをしたタイミングからは早いが何事か?」


「こちら神殿……ミエスクの大神殿です! 火急の報せが入りました! ディグの邪教団を追わせていた者の生き残りから……」


 通信ごしにも分かる切羽詰まったこの調子に、耳にした者が息を飲む。


「生き残りとは穏やかではないな。詳しく聞きたい。繰り返しになっても構わぬ。ひとつひとつ落ち着いて話してくれ」


「あ、ありがとうございます……」


 火急だからこそ間違いない情報が欲しい。そう宥めつつ先を促せば、通信具向こうの神官は深呼吸を挟み、命からがらの情報を伝えてくれる。

 所々につまづきながらも伝えられたその内容を受けて、私は思わず銀髪頭をかきむしりたくなってしまった。

 皇都近郊に潜伏していた邪教団の拠点に鋼の邪神像を発見。その場にいた謀反人エステリオが邪神像に接触。調査していた部隊は阻止しようとしたものの、動き始めた邪神像によって邪教団の拠点ごと吹き飛ばされてしまった。と。

 こんな絶望的なニュースを聞かされて頭を抱えずにいられるか!

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