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62:因縁のありそうなところから

 巡回を忠臣たるヘクトル・オーランドに任せた私レイアは、手に入ったカルト教団関与の証拠を手に都へと戻っていた。

 帰還から先触れと身繕いを挟んで陛下への報告を済ませた私は、今度は別の建物へと愛馬を進ませていた。


「まったく酷いものだな」


 私のこぼしたこの一言にセプターセレンもまた黒々とした鬣を靡かせてうなずく。

 そんな私たちの目の前にあるのは国一番の大神殿。十四の大神を合祀した祈りの場……の跡地である。

 皇城に続く高さと敷地を備え、精緻な彫刻で飾られていた荘厳な建物。それはもうまるで蹴飛ばされた砂の城のように跡形もない。

 かろうじて壁の残ったところに屋根を乗せて、雨風をいくらか凌げるように仮の処置を施しているという有り様だ。


「……アイツは本当に小さいヤツだ」


 言うまでも無いが、神殿を破壊させたのはアステルマエロルを宿したエステリオだ。陛下を追い出して、玉座を奪い取ってまずやった事がこれなのだと。

 祀られているのは確かにかつてさんざんに苦渋を舐めさせられてきた相手である。とはいえ都を占拠できたからと、わざわざこんな当たり散らすような真似をするとは。

 まったく、知っていたとはいえ度量の小ささを見せつけられてはため息もでないぞ。

 そんな私の元に、修復の前準備中の神殿跡から高い帽子と白い服を着た面々が。


「ようこそおいで下さいましたミエスク煌冠。陛下と閣下には多大なご支援を頂きながら、未だに瓦礫の片付けも終わっておらぬ有り様で申し訳ない」


「構わぬ。此度の反乱による国難、一朝一夕で過日の姿を取り戻せるものでもあるまい。そちらこそ信仰の場を荒らされながら、災いを被った民を癒しに、隣人を失った心の慰めにと、苦境にあっての献身に感謝する」


 私を迎え、礼の言葉に深々と頭を下げる初老の男。首に下げたものをはじめとして身につけた斧と天秤のシンボルが語るように、十四大神の長である秩序神ディカストを奉ずる大神官である。


「して、この度はどんな御用でしょうか? 使者殿からは内密にとの事でしたが」


「話が早くて助かる。忙しくしている神官殿らにまた手をかけさせる事にはなるが、話しておかぬわけにはいかん話題でな」


 大神官は何の話なのかと考えを巡らせながらも、埃っぽいところで申し訳無いがと下馬した私を神殿跡に案内する。

 そうして通されたのは神を象った像……の残骸が並ぶ本殿の跡、そのディカスト像の前だ。もっとも、ここに建っていた見上げる程の神像も例外なく、いやむしろ他よりも徹底的に攻撃されたようで足首から下が辛うじてといった程度しか残されていない。

 そんな土台部分に小さな像を間に合わせて、祭壇としての体を保っている状態だ。

 秩序の神ディカスト。小さくはあるが出来の良い彫刻で象られたその姿は、右手に斧を左手に天秤を握り、鎧兜を纏った偉丈夫だ。

 角張った兜から覗く厳めしい顔つきの通りに秩序を重んじる厳格な神とされており、神々の間の裁定権に加えて死者の霊魂の裁判権も持つ裁定神である。

 その権能から王権の持ち主らから人気を集め、大神らを統べるリーダー格ともされている。

 かつての世界においても私にとっては敵勢力の頭目であったからな。そのあたりは忠実に引き継がれているらしい。

 しかしディカストの右手の斧はな……かつてはアレで顔面を割られて首を飛ばされたのだと思うと、眉間と首にピリピリとした痛みのような幻覚がくる。


「……どうかなされましたか?」


「いやなに。ディカスト像を目にするといつも、もっと精進せよと叱責を受けているような気がしてな」


「それはそれは……おそらくミエスク煌冠を高く評価しての叱咤激励でありましょう。貴女ならば領内に正しく秩序を保てるはずだと」


 首元に触れ幻痛を訴える私への言葉だが、実に宗教家らしい物言いだな。まあ信奉する神にも手厚い後援者にも角が立たぬように選んだ言葉であるか。

 せっかく私の事も立ててくれたのだ、そちらには当たり障りなく返して本題に入るとしよう。


「まずはそちらに見せたいものがある」


「これは……月の意匠はありますが、時の双子神の物ならば太陽の意匠が無い。十四大神のいずれでも、その他数多の小神たちの中にもこのようなシンボルは寡聞にして……いや、これはたしかディグの邪教団?」


「ほう。そのように呼ばれているのか? おそらくはそれで間違いはあるまい。以前に同じカルトだろう連中が、金属の巨大骨格に生贄を捧げて復活をさせたのを壊滅させてやった事がある」


 私のこの言葉に天秤の大神官殿は「なんと」と目を見開き、ついで胸の前で手を組み捧げ物にされた人々の霊魂の安らぎを祈る。


「このシンボルはその時のものではない。反乱軍の残党が巣くっていた集落跡地、大きな波動を放つ巨大な何物かを掘り出した痕跡の近くで見つけたのだ」


「その掘り出されたものというのは……やはり?」


「先の戦で都から出た鋼の巨兵らで間違いあるまいな。つまりエステリオはそのディグの邪教団と繋がっている事になる」


 限りなく真っ黒な状況証拠からの推測をハッキリと伝えれば、天秤の大神官は天を仰いで嘆く。


「気持ちは分からんでもない。国の後継者候補が邪宗門と関係を持っていただなどと、醜聞では済まされない事であるからな。が、ただ嘆いていても状況は改善しない」


「……この邪教団が反逆者エステリオの周囲で何かを起こす可能性があるということですな。それを事前に防ぐために協力せよと仰るか」


 さすがに都の大神殿をまとめる人物。話が早い。


「無論、現状では神殿も手を借りられるならば猫でも構わん苦境にあることは先刻承知。神官戦士団を出さぬわけにもいかんだろうが、動かすのを神殿の抱えている分だけに限る事もあるまい。それに邪教についての何かしらの情報を拡散するだけでも大きな貢献には違いあるまい。今は内乱からの再建と再発防止にスメラヴィアが一丸とならねばならん時なのだからな」


「なるほどごもっとも。ミエスク煌冠の仰る通り邪教団の企みが何であれ、再建ばかりにかまけていては立ち直る前に再び崩されかねませぬからな」


 意を決した大神官殿は危急の情報を持ってきた事に感謝を告げて私の手を取る。


「未だ過ぎ去らぬ国難に神殿の更なる協力を約束してもらえたこと頼もしく思う。しかしその働きにたしかに報いねば不義理というもの。というわけで……」


 握手をほどいた私は広く聞こえるように手を鳴らす。

 これを受けて文字通りに飛んできたのは勿論我が半身ニクス

 鋼鉄の女巨人戦士は運搬待ちで集められていた瓦礫を一抱えにして運び去る。


「おお……話には聞いていましたが、アレが戦女神の操る巨神像……なんと優美な……それでいて力強い……!」


「そのように言われてしまうと面映ゆいものがあるが、それで相違無い。神殿の再建に文字通りにアレの手を貸し出させてもらおう。城塞と都市機能回復にも回している故、急な求めに応じられるとは限らんがな」


 瓦礫の撤去に足場作り。建材の運搬から組み立てと重機が入る以上の労働力を提供できる。

 都の攻防戦で手に入れたブルシールドも加えても二機しか出せない数の無さは悩みどころであるがな。


「とんでもない。巨神のお力を借りられるだけでもありがたい……! 感謝いたします! 感謝いたします!!」


「拝むのはやめていただきたい。私はたしかに大層な力を得て生まれているが、大神官殿にそのように拝まれるのは何かこう……違うのだ!」


 私はたしかに現人神相当ではある。あるがしかしディカストらのお仲間扱いされるのは堪らん。平伏しての感謝をされるのは気分が良いけれどもだ!

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