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54/103

54:懐かしい名を聞いたものよ

 振り向いた私に飛んできたのは鉄拳。

 融機兵を集めて固めてできたそれに私は迎撃のフラッシュブラスト。

 青く輝く目から放たれた破壊光線は、固く結んだつもりだろう五本指を模した融機兵の繋がりを剥がして散らす。そうして焼け熔け飛び散ったのが我が背後で撤退する、皇と皇女とその護衛部隊を狙う――が、我が腕の一振りに伴い舞った光鞭が残らずに叩き切る。


「より集まった事で多少は知能がマシになったか。目の前の敵に気を取られること無く、ターゲットを優先できたのは大したものだ」


 本体を囮とするこの行動に、私は鋼の掌を打ちならして讃える。実際に大したものだ。人間を変異させた段階での獣以下、単細胞生物同然の動きとは比較にならない知性であるからな。


「だがな、私が殿しんがりを引き受けた以上はそんな小細工ごときで通れると思うなよ?」


 単純に考えれば足止めなど無視してしまえば良い。しかし無視できない存在がここから一歩も通さんとやるから殿しんがりとなるのだ。

 さて私という強固な壁役を前にして――もっとも、私は壁と言うには強度と高さはともかく起伏に富んでいるが――鉄拳は逡巡するように拳を握り直し、改めて突撃を。


 遅い。

 私は足裏をその場に沈ませたまま、鉄拳は私に届くずっと前の位置で宙に縛られている。縛っているのはもちろん私のエナジー・ソードウィップ。迷うような余裕を私が与えると思って……それは時と場合によるか。相手の動きを楽しんで問題ないと思っていたなら、その程度の余興はちょくちょく挟んでいたな。うん。

 さて内心に自省する余裕を見せたところで、鉄拳を縛った光の鞭を引く。そうなれば当然食い込んだビーム刃はそのまま捕らえた金属塊をバラバラに焼き切る。というわけで落ちていく残骸にすかさずのフラッシュブラストを連射! 所詮集合体だと知っていて、分離分散を許すワケが無かろうが!

 そして自由になった腕をまた一振り。これでアーマン城方向に伸びた光の鞭が、また飛び上がったモノを焼き切る。

 それは陛下らを狙っていた大鉄拳。だが当然私がつい先ほどに対峙して退治したモノとは別。右手があれば左手があるのもまた自然というわけだ。もっとも、左右一対だけで完成だと思い込むのもまた人間の故のモノだ。と、言うわけでもうひとつをフラッシュブラストで撃ち落としてやる。

 この墜落で私に見切られていると悟ったか、集合体の鉄拳は四方から皇達に襲いかかるのだが、そこにはすでに私が光の鞭で結界を張っている。

 それは蚊帳に当たって落ちる虫の如し。いやただ阻まれるだけの虫と違って、当たると同時に焼き切れて駆除されている分、より悲惨か?

 それにしても順調順調。寄生変異させられた兵の数もずいぶんと減って、後は無事に皇と本体とを合流させれば一息といったところか。また進軍可能になるまで拠点を含めて立て直すのと、反乱軍からの畳み掛けに対処する仕事が待ち受けているのを考えると少々億劫ではあるが。ここは気分転換に思い切り大鍋で思いつきの料理を試してやろうか。上手く仕上がれば私の食欲に良し、兵への振る舞い飯にもなって良しと、良い事づくめであるからな。

 そんな先の事に意識を飛ばしていた私にビーム弾が。波動を察して直撃は避けたものの、私の艶やかな銀色のボディに焼け焦げがついてしまった。

 下手人の姿を確認するまでもなく、私はすでに感知した反応を頼りに目からのビームとエナジー・ソードウィップをお返しに。これはしかし急に三分割した反応に避けられてしまう。

 空を斬った光の鞭を急ぎ戻して手の甲に沿って伸びる光刃に。それと合わせて私は護衛対象の元へと駆けつける。


「姉上、何がッ!?」


「ハインリヒ、陛下と殿下を連れてここを離れてもらわねばならん! だがまだだ。合図を出してから!」


 火の手の上がるアーマン。その上空を旋回する光を灯した翼影三つ。それを目で追う弟達に取るべき行動を指示しつつ、私は両手の光剣を構えて空を睨む。

 我々の合流を待っていたのか、この私の視線を受けて旋回する翼影達からビームが。これを私はフラッシュブラスト、左右の光剣で迎撃。さらに剣を伸ばして回した光の鞭を盾として防ぐ。

 三方同時、それも頭上からの集中砲火。さすがの私も人間を庇ったままでは、ダメージ覚悟の打開策にも出られずこの場に釘付けにされてしまう。やがて攻撃の余波が周囲の家屋石垣を崩して雪崩に。人の逃げ道を塞ごうとするこれに、私がフラッシュブラストを放とうとしたところへ組み立て固めた石塊が。これは回転する光の鞭で刻めたものの、細切れになった石片に混じって金属光沢を帯びた人が。

 こんな強引な押し込みで我が結界を!?

 侵入を許してしまったと、私はとっさに手繰って鞭の起動を変更。瞬間、これを待ち構えていたとばかりに我が胸を光の弾丸が。衝撃によろけた私に、すかさず別方向からも。我が胴に爪を食い込ませた翼影、飛行機と混ざりあった鉄の大コウモリはぶち当たった勢いに任せて私の機体を空へ浚おうと――


「させるものかよッ!!」


 この動きに私は両手を一捻り。奴の翼の片割れを切り落とした上でフラッシュブラストの連射。たまらず爪が緩んだのに合わせて振りほどいてやる。

 そうして奪った片翼を振り回して周囲を一掃。陛下と我が精鋭の周囲に更地を作る。


「セプターセレンッ!!」


 立て続けの私の声に応じ、我が青毛の愛馬ば全身を金属に変化させつつ巨大化。だが目的は私との合体オーバーユナイトではない。

 巨大な鉄馬は腹の真下に護衛対象を納めたまま直立。周囲へのエネルギー放射を重ねて不動の要塞と化す。


「セプターセレンに蓄えていた分は温存しておきたかったのだがな……よくも使わせてくれたものだな。さすがだと言うほか無い」


 私に虎の子を使わせるまで追い詰めた事。それを褒め称えつつ、私は跳躍。愛馬の背を足場にしての二段飛びで持って夜空に舞い、翼影を眼下に。

 当然私の機動を辿った形のソードウィップが真下の飛行機と鳥の合成物に引っ掛かり、その翼を深々と削り取る。

 この合間に私はまた別の機影にフラッシュブラスト。これまでさんざんに我々に降らせていたののお返しに、三機目の翼影もまた悲鳴のような音を上げて地に落ちる。

 頭上を飛んでいたうるさいトリオを叩き落として、私は巨大ロボ馬となった愛馬の鞍上に降りる。


「やられたフリなど止めよ。お前がこの程度で終わるワケがあるまいが」


 墜落したまま動きを止めていた三機はお見通しだと声をかけたのを受けて集合、合体。

 見破られていると悟った上で晒したその姿は、六つの翼腕を持つ機体だ。下半身は脊椎の連なりのような尻尾型で、全体的な印象は羽のついた蛇か。しかし腕の付け根となる胸部周りは人の上体のようでもあり、頭部も鋭利な牙状の刃が前に突き出て、蛇と人の中間と見える。


「ワワワ……ワガ、アルジ……アステルマエロルノ……ノタメ、コロコロ……コロス……ススス……ッ!!」


「ほう、喋れるのか。しかしアステルマエロルとは、これはまたずいぶんと懐かしい名前を聞いたものだ」


 自信過剰にも程があったかつての上役の名前。その名前がここで出てくるということはやはり、反乱皇子エステリオには何らかの形でヤツが絡んでいると見て間違いあるまい。それが分かっただけ、この一件にも損失ばかりでは無かったワケだ。


「ならばお前にもう用はない。さっさと仕留めさせてもらおうか!」


「ホホ……ホザケェエッ!!」


 叫びと共に吐き出されたビームを私は鞍上から跳んで回避。合体したヤツの脳天に光の剣を突き入れてその頭脳を破壊してやる。


「いきりたっていた割には呆気ないな。バラバラでいた方がまだ手応えがあったぞ?」


 挑発してやってもやはり返事は無く崩れていくばかり。こうして案外にもあっさりとアーマン城への直接攻撃は幕を下ろしたのであった。

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― 新着の感想 ―
遂に前世の顔馴染の関係者が出てきましたね〜 どういう形で元上司が絡んでくるか楽しみです。
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