表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/104

50:頼れぬ味方はみんな踊ってる

「堂々と正面から攻めれば良い! 陛下の下に集った正当なるスメラヴィア軍である我らが進めば、その威光に都を占拠しただけの賊軍など!」


「何をお気楽な! 陛下の威光が通じる相手であるらならば、このような暴挙を起こすはずが無いと想像がつくだろう!? それでこちらから出ていったところで無駄な消耗をするばかりだぞ!?」


「ではなんとするッ!? このままにらみ合いを続けよとでも? 長引けば隣国に付け入る隙を与えるばかり……ああ、これは失礼国境の守りを任じられていない中央の冠持ち殿にはこの大任の重さが分かるはずもありませんか」


「何を、言わせておけば!?」


「落ち着かれよ。我が方の兵数が劣る現状、ただ攻勢に出ても都の守りを突破するのは困難である事には違いあるまい」


「だからとアーマンに籠っていたところで、戦況が好転するわけではありますまいが」


「であるから、好転させる策を出さねばならんのだろう!」


 喧々諤々とよくも踊り続けられるものだ。

 落ち延びた皇陛下を支持するとアーマンに集まった、いわゆる皇派閥の貴族たちであるが、会議会議とろくな具体案を出さないままにこの調子である。

 まあ挙げられている状況の不味さについてはどれも理がある。だからこそ短期で決着を。ただし確実に陛下の側が勝つ形で、と理想的な結末を求めるのだ。そしてついでに自分たちの損失は最小限度、報奨は最高にとな。


「……贅沢な話ですよね、姉上」


「そう言ってやるな。彼らには彼らの守るべきものがある」


 ハインリヒの耳打ちも当然の印象である。しかし陛下への忠義に殉ずる義士でござい、などという顔で駆けつけた諸侯であっても、それが本心の者は一割にも届くまい。当然ながら領地貴族にはそれぞれに治める土地があり、暮らしがある。領地に対する認識が甘い汁を搾り上げる土壌か、精根注いで耕し守るべき生業の場か、そのどちらであるかはともかくとして。それを守るに当たって都合が良い。だから武力を差し出す忠義を捧げる側を決めるのだ。それぞれのしがらみをまったくに無視する事はできんよ。


「レイア殿はどう思う?」


 それぞれの都合からの意見のぶつかり合いに、陛下は淡茶色の髭の下から私の名と意見を求める。

 息子に座を追われ、頼った諸侯はこの調子との事で、元々細身の陛下もやつれた様子。しかし打開の鍵として私を見るその青い目には輝きがある。ここは期待に答えて差し上げたいところではある。


「進軍するというのであれば私が精鋭を率いて先陣を切らせていただく。要塞なり野戦に出てきた陣なり、私が楔を打ち込んだところから食い破れば兵力の差など気にする事は……」


「いやいやいやいや!! レイア嬢とその兵は遠くからの強行軍に加えて陛下と姫殿下を保護してのアーマンまでの護衛でお疲れでしょう!? この先は我らにお任せを!!」


「然り然り! レイア嬢はすでに十二分に働かれております。ここでさらに皇軍の嚆矢として出られては我らの立つ瀬がございません故!」


 食い気味の満場一致の意見に、私の提案は封じ込められてしまった。

 しかしそれも当然の事。現状でも皇軍における私の武功が大きすぎる。さらに私の提案した作戦では、全体の犠牲は減っても常に私が一番槍の栄誉を、そして敵将を討ち取るも捕らえる功も受け続ける事になる。

 そうして私が大功を独占してしまえば、残る諸侯が得られるのは兵を出した資金の埋め合わせ程度。領地を離れて兵を出すという多大なコストに見合うリターンではない。その赤字が招くのは諸侯が抱える配下の不満と領内不和。つまりは新たな内乱の火種である。

 彼らの立つ瀬が無いという言葉は実に切実なものだ。

 であるのでもちろん、私が先陣を切り続けるというのは、最初から通ると思って提示した案ではない。


「お気遣いありがたい。では我が兵は必要に応じて動く遊軍ということで構わぬか? 敵も私の恐ろしさは身に染みた事でしょう。基本の位置を陛下の傍としていれば、迂闊に攻められないでしょう。作戦の上で要望があれば囮をやっても、殿をやっても良い。無くても私の判断で動かせてはいただきますが」


 これでいかがかと見回せば、議場に集まった面々はそれならばと反対の勢いを抑える。

 私と我が兵の武力は彼らにとってもただ遊ばせるには惜しいだろうからな。

 圧倒的な武力を誇る私に、程度はともかくフリーハンド権を与えるのは諸侯にとっては歓迎できないところだろう。だが私が参陣しても最初から出しゃばる事はしない。この契約があるのならば飲み込めない条件ではあるまい。


「異存が無いようであれば、レイア殿の提案した形で控えて貰って良いと思うが?」


 この陛下の後押しもあって、皇派諸侯の意見は一致。私は狙いどおりある程度のフリーハンドを許される形に収まった。

 さてそれでは話を戻さねば。


「では改めて提案させていただく。都の奪還は皆様も重々承知の通りに急いだ方がよろしい。そこで都までの城塞に夜襲、火攻めをかけ、炙り出されたのを控えていた軍勢にて叩いて行くのが良いかと」


 この私の提案に議場にはどよめきが。


「夜襲……それも火攻めとは……」


「被害が皇子派の将兵以外にも広くなりすぎてしまうが……しかし、しかしな……」


「エステリオ皇子側との戦力差。これを埋めるのならば手段を選んではおれんか……」


「バカな! 陛下も諸将もこんな策をッ!? 夜襲に加えて火攻めなどと……戦とはいえそんな非道を、我ら皇に認められた正当なる征伐軍が出来るわけが無いッ!!」


 この私の献策を厭う者が出ることは予想できていた。しかしまさか非道な攻め方だからとは恐れ入った。

 設備と物資の損壊が大きくなりすぎる。しかも国内拠点である事から補給の問題ばかりか修復のコストも取られるから避けたい。と言うのならば分かる。実によく分かる。私とて無駄な破壊と消耗は望むところではないからな。実際陛下を中心に上がる難色の意見はそうした合理によるものだ。

 だが反対意見として大きくなるのは卑怯だ非道だとの声の方。それが理性的にすり合わせて実現しようという意思さえも押し流してしまう。

 これが民の安全を預かる冠持ちか。長く国同士の総力戦もなく、明暗を分けるような内乱も起こらなければ、ここまで呆けて鈍るものか。戦争において、敵がこちらの決めたルールに乗っ取って戦うはずなど無いというのに。

 そう見切った私は弟を促して席を立つ。


「承知した。では次善の策を幾つか上げさせてもらう。それを取捨選択するのは戦場に出た将に任せるとしよう」


「レイア殿、どこへ行くのだ」


「無論備えます。奴らがこのアーマンへ仕掛けるだろう夜襲、焼き討ちに」


 陛下の問いに返す形の宣言に続いて、諸将からは笑い声が。


「なんと、我らが戦乙女は恐ろしく慎重であったか!?」


「恐れ知らずの姫騎士と名高いが、やはりうら若き乙女には違いないか!」


 彼らが心置きなく進軍できるようにするための用心をしてやろうと言うのに、よくも私をここまで嘲弄出来るものだ。侮られているというのは面倒を招くのだが、この場面は逆に都合が良い面もある。好きに言わせておけば良い。

 陛下だけはこの嘲弄に加わらず、私への信を含んだ目を向けて来ている事だけは幸いか。トップからの信用まで無いようでは最悪も最悪だからな。

 というわけで陛下には任せて欲しいと目配せ。笑い続ける諸将に改めて一礼して議場を辞する。

 さて、どこからどれだけ虫が出てくるものか。予想より少なければ良いのだがな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うわあーほんっと邪魔な連中が味方面してらあ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ