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43:生き残りを囲め!

「我がニクスの突撃に続いて前進! 森林から侵入した魔獣を撃退しつつ、戦線を上げよ! 防壁は旧来のモノを再利用する形で即席のモノで良い! 生存者の探索も忘れるな!」


「第一に生存者の保護! 第二に安全圏の確保!」


「よろしい! 上陸はじめッ!!」


 甲冑を纏う私の号令と、車から変形した女鉄巨人のビームを放ちながらの突撃。これに負けじと鬨の声を上げた兵たちが、湖上の船から陸地へ。

 それに続いて私もまた船の上から五人張の弦を鳴らして鬼狒々の頭を射貫く。

 湖主ルシルデストロムら湖に住まう者らの狂乱暴走。私がルシルデストロムを討ち果たす事で区切りのついたこの事件だが、我が領土外のルシール湖畔の村落らの被害は甚大であることが予想される。それらを救援すべく、私はスメラヴィアの国土に匹敵する広大な湖へ兵を乗せた船を方々へ出した。

 その内の一つ、私自身が自ら指揮を取る部隊が乗り込んだのは、我が領への襲撃直前に襲われていたのが見えた東方のレイクハウンド。

 ルカの同族である犬獣人型魔人族フンド族自治領の湖漁港であるここは、いまや散々な有り様だ。

 元は石と木で組まれていた家屋たちだったのだろうそれらは、基礎部分だけを残した瓦礫の行列に。

 水中から追われ、そこから立て続けに陸地側からも襲われもみくちゃにされた民の遺骸には五体満足なモノが何一つ無い。いや、それだけが残っているだけでもマシな部類か。

 そんな血なまぐさい惨劇の跡を進みながら、私はまた投槍ジャベリンめいた矢をデカブツに見舞う。大口開けての咆哮で陣を組み対峙する我が兵を威嚇していたのが踏み潰していた家の上に身を横たえる。

 巨体に押し潰された子分の対処に入った我が兵を見届けて、私は上空を旋回する化禿鷲の頭を射貫いておく。

 先に生存者の保護を第一にとは言った。だがここまで獣の餌場にされている様子からするに、この場に居残った上で生き残っている者はまず居まい。

 それを分かっているのだろう。ここで育ち我が下に渡ってきた者、逃げ延びて私という後ろ楯を得てとんぼ返りを志願した者。そのどちらもが生き残りへの呼びかけはしているものの、魔獣対策よりも捜索を優先する事はしない。あくまでも臨時の人員であるとして、私から安全が確保できた範囲に限り捜索に集中する許可も出しているにも関わらずだ。

 ともかく今は復興のために廃墟全体から入り込んだ魔獣を排除し、ここを安全圏としなくては。ここはもちろん、その他にも打撃を受けた湖畔の集落にはいち早く復興して貰わねば、我が領土の経済にも無視できない痛手となる。

 しかしたとえそれが狙いだとしても、今回の一件は最悪に過ぎる。ここまでの打撃を与えては復興にかかるコストもバカにならん。

 それを支払う事が分かっていれば、仮に対岸の火事気分だろう父が黒幕だったとして、こんな被害を出す前にフンド族による妨害牽制の動きが無くてはおかしい。

 もしも仮にだ、仮にそのコストが想定出来なかった、あるいは承知の上で私の妨害のためだけに見逃した、あるいは黒幕として糸を引いたというのなら、愚かにも程がある。

 しかしそうか。恐らくは……。


「フンドの軍の残骸は無いか!? それらしい武器か、折れた旗印でもいい!」


「ハ、いえ! これまでには。そちらも探すように通達しますか!?」


「いや、見つけたら知らせるで良い! なんなら戦闘後の後始末の途中で見つけたのを報告するで構わん!」


「承知しました!」


 手近な部下の返事を聞きながら、私は最前線で大物を蹴散らすニクスをジャンプ。その広く遠くまで見通す視野でもって探し物を。しかし私が無いだろうと予想したそれ、レイクハウンドに駆けつけようとする軍は案の定存在しない。何ならまったく動いていない森の中の城塞都市まで見えた。

 生き残りがいたのならとっくに到着していて救援を訴えている頃。そうでなくても物見から異常を察して偵察、対応に動き出している頃だというのに。

 なるほど。これでフンド族側の考えはある程度絞れた。そのどれにせよハッキリしているのは私と敵対する意思、故あれば私に着くだろう者達を滅ぼしてまで対立する腹積もりであるということだ。

 しかし何ということか。組織のトップとしての視座を含めた能力に欠けるばかりか、力の差も、主としてひれ伏す相手も理解できないようではな。これでは徹底的に分からせてやるか、もう少し鼻の利くヤツに頭をすげ替えてやる外あるまい。

 そんな先々に思索を巡らせながら、またまた五人張で大物の魔獣をヘッドショット。そんな私の手元にはみっしりと大矢が詰まった新たな矢筒が。私の手元に矢が届く内は抜刀突撃する事も無いからな。船に積ませた分をどんどんと送り出しているようだ。しかし、私とて特別に作らせた投槍もどきを使いきるのは避けたいからな。どれだけ運ばれても残りの頃合い次第ではあるぞ。

 しかしこの様子ならば私が飛び出す必要もあるまい。レイアの矢の援護と、ニクスの大物狩りの補助があるとはいえ、我が兵たちの働きは、実に機敏だ。


「工兵隊! 防柵を前! 東方面へ!」


「いや、北側にも要る! こっちもまだ塞がないと!」


「そうくるだろうと予想して用意してらぁ! 瓦礫再利用の即席だがなぁ!」


「充分だ!  ありがたい!」


「なんの、こちとら急造は姫様の無茶振りで慣れっこだからな! さっさと村境の防壁まで届けてくれりゃそっちも手早く仕上げてやるさ!」


 そう口を動かしながら、工兵の工作の手も、歩兵隊の弓や槍で魔獣を討ち取る動きは止まらない。私が大物を射貫いた穴を素早くこじ開け、こちらの領分としてくれるのだ。


「それは頼もしいな工兵隊! 前衛部隊はもちろんだが、お前たちの功にふさわしい褒賞がいかほどになるか、楽しみだぞ!?」


「おおっと姫様の耳は魔獣が吠えまくる中でもよく拾ってくれるな! お前ら、姫様のご期待には答えないとだぞ!」


「おうとも、俺らになんかあったらもったいないって思われないとですからね!」


 私に軽口を聞かれていると知ってもその勢いは衰えず、ますますに意気を上げて仕事をしてくれる。

 その様子に私は満足感を感じながら、次に再占領する方角のデカブツをヘッドショットする。

 そうして進撃を進め村と外との境まで間も無くというところで、にわかに兵たちにどよめきが。


「生存者だ! 生きてたぞ!」


「囲め囲め! 魔獣どもを寄せ付けるな!」


 魔獣の攻撃を受け止める境の防壁。石組と太い丸太とで強固に作られたその一部、倉庫役の崩れ残りなのだろうそこを固める我が兵の姿を認めて私も深く踏み込む。

 踏み固められていた地面を割って走った私は、同時に引き絞っていた弦を放つ。鳴弦に乗って飛んだ矢は狙いたがわず、兵らでは犠牲が必至の白背の大狒々の肩へ。

 これで大物が怯んだところへ、私は腰にベルトでぶら下げた太刀を抜き放つ。

 目測五マルト程か。見上げる程の巨体を支える大木のような四肢の内、後脚の一つを我が太刀が両断。この痛みと崩れた姿勢に、白背の大物は肩の矢から立て続けに痛めつけた私に気づく。

 そうして倒れる勢いに乗せて私へ手を伸ばしたなら、それは虫を叩き潰すように私へ落ちる形に。

 対して私はこれをクルリとターンしつつ回避。落ちてくる親指の下に残したのは刃が上向いた太刀ばかり。当然勢いに乗って落ちた大狒々の平手は指の一つを失う事になる。

 すかさず私はジャンプ。喪失に構わずに振るわれた腕に飛び乗り、それを伝って狒々の顔面に刃を。

 苦痛と怒りに荒れる老狒々の体から私はすかさず離脱。だが荒れ狂う魔獣の巨体は、我が兵と彼らが守る生存者へと向かっていく。がそれを塀をハードル跳びに越えたニクスが蹴り飛ばし、宙を舞った大狒々の急所にソードウィップを入れる。

 群れのトップの討死。これを受けて村を襲っていた大狒々魔獣の群れはさらに勢いを失う事に。それを見届けた私はこの状況で生き残って見せた生存者の顔を見に行くのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >白背の大狒々 シルバーバック的な奴ですかね? さーて生存者はどんな人かな?
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