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42:大物退治をしてハイおしまいとはいかない

 機械生命体への変化。

 実際に起こっている以上は発生させ得る現象だ。が、現実として目の当たりにし、その波動の絡まりまで分析してみるに、強い魔獣を暴走させてしまえば起きるというほど単純なものではない。

 今回は突然変異的に強力な個体が、同じ場所に数百年単位で生きて土地とその身の波動を馴染ませていた事。そして場となるルシール湖にも強力な波動を放つもの……例えば我が機体はんしんに近しいものが眠っている事。この上でルシルデストロムが己を失う程に暴走していたがために起きた事例。そう見るべきだろう。

 逆に言えば素質、環境、時機。そのすべてが整わなければ起きないと言うこと。魔力キーナを用いる生物という意味では魔獣に類する人類種族。その選りすぐりの天才を狂乱に落としたとて、機械生命体に変異転生する事はあり得まい。

 仮に容易く再現可能であるならば、私がとっくにルシルデストロムを我が水中戦用の強化合体要員としている。

 さておき、私の制御下の外で機械生命体と化した上、人型に変形したルシルデストロムである。全重量を充分に乗せた拳を受け止めた私が捕縛のために肩肘膝から伸ばしたソードウィップ。これをヤツはスルリと退いて回避。置き土産とばかりにビームと杭弾の弾幕をばら蒔いてだ。

 伸ばしたソードウィップと斧とでこれらを払い、私もまたフラッシュブラストを応射。

 しかし水中をその巨体に見合わぬスピードで走り、射撃をばら蒔くルシルデストロムへの決定打とはならない。

 ヤツめ、水を操って自分に都合の良い流れを生み出し、その上でさらに高機能なスクリューを回しているか。そこまで備えてようやく水中適応がある機体だと言えるが。

 対するセレンニクスレイアは水に潜る程度で機能不全は起こさん。起こさんがしかし陸上程には動けん。比較すれば泳げる人間が文字通りに腰を沈めて鰐と対峙している形になる。

 オマケにヤツはただ私を狙ってばら蒔いているだけだが、その弾丸が後方に流れていかぬように迎撃し続けなければならない。私単独であれば、力業で状況をこじ開けて仕留めてやれるものを。

 まあ基本能力に差があるのだ。地形と状況でこれくらいのハンデがある方が適正、か。


「私はしばし大物に集中するが、そちらは凌げるな?」


「もちろんですとも!」


「これを生きて凌げないようじゃ、レイア様にもったいないなんて言われる甲斐もない!」


「危ないところには私も捌くのよりも優先する。だから心配しないでいい」


「それは頼もしい事だ!」


 部下の皆からの後押しを受けて、私は改めて鉄巨人化したルシルデストロムへ。向けた目からのフラッシュブラストの連射。

 機動を読み、合流地点に置く所謂置き撃ちにしたこれはしかし急激な舵取りの連続でで方向転換を繰り返す巨体には掠りもしない。が、そうして私の射撃を掻い潜ったルシルデストロムは最短距離で私に躍りかかる。が、そこで弧を描いて飛ぶレックスアックスの刃と合流。右腕を胸から吹き飛ばして失う事に。

 攻撃をかわす程度に多少は知性を取り戻したようだが、ただ潜り抜けて最短距離を詰めるだけなあたり単純にも程がある。軌道を誘導された事も分からんようではな。

 そうして四肢の一つを失ってバランスを崩したところをソードウィップで絡めとる。

 切っ先が突き刺さり、プロトスティウムを焼き切り食い込む光の刃鞭に、鉄巨人ルシルデストロムは機体を捩る。深まるダメージに構わず、ただこの瞬間のダメージから逃れようと振り絞られたパワー。予想を外れて躊躇の無い出力と、足を取る水流と泥濘。ダメ押しにばら蒔かれた牙とエネルギーの弾丸が流れぬようにと気を取られた事で私も姿勢を崩されてしまう。

 そうして私が絞め損ねたところから、エナジーソードウィップを抜けたルシルデストロムは切断されたパーツを押し出す形で射撃。私の追撃の出端を挫こうと。

 いくらか冷えたとはいえバーサークしたままの、本能任せにしてはやるものだ。しかし甘いな。

 我が装甲に弾ける置き土産を残して再び間合いを開けようとしたルシルデストロム。その潰れた右胸に食いつくモノが。

 それは私が投擲したレックスアックス。私の手甲となっていた頭部も繋がった完全な状態のだ。種や仕掛けというほどのモノではない。さっき投げつけるのに合わせて分離、伏兵として沈めておいただけのことだ。私だけに気を取られていた鉄巨人の虚を突かせるなど造作もない。

 そうして足の鈍ったところへ私は湖水を蹴飛ばしながら無造作に前進。レックスアックスを振り払ったルシルデストロムの機体を掴む。ここで鰐の鉄巨人は掴んだ私を巻き込む形で変形。部品のいくらかを失ったがために完全ではない。が、人型より水中に向いた巨大鰐のモードへ……変わることはなかった。それも当然だろう。私の指がヤツの変形過程、ちょうど長い長い顎の繋ぎ目に割り込んでいるのだからな。

 鰐という生き物は咬合力が自慢であるのだろうが、変形過程に割り込んだものを潰せる程ではないらしい。

 変形の邪魔で、私という脅威から逃れる邪魔をする私の腕に、メカルシルデストロムは変形途上のままに火器を起動。狙いも何もない、もがくに任せたこの射撃は自爆同然にセレンニクスレイアの機体を炙る。ええいうっとおしい! 私の育てた土地と民に犠牲が、損失が出たらどうしてくれる?

 そんな苛立ちに任せて私は、腕に絡まって半端な変形をしたヤツの機体を水中へ。大きく湖水を波立たせたその巨体に膝とそこから出る光の剣を突き入れてやる。

 このダメージに眼をヂカヂカとさせる半端な機体へ、私は右手に戻したレックスアックスを叩き込む。

 急所には入っていない。が、大きく機体を損なったルシルデストロムに、私は変形に割り込ませた腕を捻ってやる。これがたちまちに半端な変形を反転。鰐型になりかけの巨体を鉄巨人に戻してやる。

 そしてすかさず持ち上げた私は目の前にヤツの顔を。鰐の顔の意匠を備えたバイザーフェイスがまるで口づけでもするような至近距離に。

 無論くれてやるのははなむけの口づけ……などではなくフラッシュブラスト、ブラスト! ブラスト!!

 我が冷たく輝く青の目から放たれた破壊光線のゼロ距離連射に、鉄巨人ルシルデストロムの頭はその付け根ごと消えて失くなっている。

 機体のコントロールユニットにあたる頭部をロスト。これを引き金に鉄巨人ルシルデストロムの機体は急激に波動を乱れさせ始める。

 自壊からのエネルギー暴走を起こしつつある残骸に、私は冷静に恐竜斧を叩き込み、その勢いに任せて空へ。

 心臓部コアユニットを両断されて打ち上がった鋼の巨体は斧を受けた裂け目から閉じ込めていたエネルギーを溢れさせて崩壊。ほどなく弾けて大きな光の塊となって空に輝く。

 そしてプロトスティウムの残骸を雨と降らせる形で、湖畔を巻き込んだその暴走を終えるのであった。

 これで一番の大物は仕留めたワケだが、しかしこれでめでたしめでたしで終わりとはならん。暴走を終えたのはルシルデストロムのみ。他の湖住まいの魔獣魔魚らは元湖主の狂乱に引っ張られていたのではなく、それぞれ個々に暴走しているに過ぎないのだ。後始末の第一として、我が部下に任せた連中を片付けなくてはならん。

 そしてそれが終わっても、レイクハウンドをはじめ、被害を受けた居住地の保護、復興をしなくてはならん。

 そのまま接収した上で実効支配し、状況次第では犬耳連中の土地を丸ごといただいて豊かにしてやってもいいか。いいのだが信の置けない新参を加えるというのも、謀反の可能性が高まるか。それならばそれで。

 大物の撃破に湧く兵や民を見下ろしながら、私は先々の後始末に思いを馳せるのであった。

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[一言] >大物撃破 後始末をしっかりしないといけないのが世知辛いのじゃ……
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