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39:黒幕は何者か

 魔獣の狂乱暴走スタンピードを、部下とともに危なげなく凌いだ私、レイアである。

 魔獣そのものがまず争い合うレベルで狂乱する所から、同規模の魔獣暴走であれば発生地点次第ではあるものの、さほど恐れるモノでもないというのが我々の実感だ。しかし問題となるのはその発生地点という一点。そこに絡む証拠品の発見だ。


「……コレに入ってたヤツ。残りからして撹乱用の煙玉ですね」


 検証、そして対策のため、競馬場予定地近くの仮拠点に集まった私たち。

 そこで第一に挙げられたのが発生地点の血の海に沈んでいた人だったのだろう遺骸から回収した割れた玉。それを調べたルカの見立てが先の一言である。

 いわゆる魔獣使いの自衛用アイテムで、コントロールの効かない魔獣を、特別に調合した薬物の煙に誘引、混乱させて身を守るために使うモノなのだと言う。


「それにしたって、あの狂い方じゃあ近くにいる方が危ないだろ? 実際使ったんだろう人間はひでえ状態だったって話だしよ」


「基本がそうってだけさ。使い方だって持ったままじゃなくって、投げて他所に意識を向けさせなくちゃだし。それに残ってた分だけみてもこの配合はおかしいって。素人が適当に強い効果を出そうって増やしたってここまでにはならないよ」


 薬も過ぎれば毒になる。ヘクトルの疑問に対するルカの答えを要約すればそんなところか。


「つまりは基本となる製法を知る者がいて、それを目的を持って危険物に改造した品だと、そういうことだな」


「おまけに使い手にさせられたのは、正しい使い方も効果も教わって無い……もしくは承知の上でやらなきゃならないヤツだったって事です」


 私の言葉とルカの補足を受けて、集まった面々の表情が苦く重いものになる。

 これだけでも我々に対する悪意を持ったなにがしかが人為的に魔獣暴走を引き起こした事。民衆を巻き込んでも問題なし。おまけに実行役が犠牲になるのも口封じも兼ねていて良いと考えているのだろう事が察せられる。

 まったくなんたる事、なんたる人材の浪費か。それでやることが魔獣による無差別テロと来ている。正しく処理すれば美味しく食べれて手下を養える資源であるというのに、どこまで無駄な浪費を重ねるというのか!


「とにかくコレを領地に、人間の住むところに持ち込まれて使われたらまずいですよ。流民の持ち物検査は徹底した方がいいと、ウチは進言しますよ」


「もっともであるな。検問に、いやそれだけでは足りんな集落の責任者にも周知しよう」


「巡回部隊にも早馬で報せておきますよ」


 うむ。頼もしきかな我が配下よ。というわけで私は情報をしたためた手紙をミントと共に用意し始める。

 現状スメラヴィアにおいて、集落代表の立場であっても文字が読めない者が当たり前であるが、我が領では教育により代筆代読の出来る人物をそれぞれに配置できているので文書通達でも問題は無い。


「で、取りあえずの対策として、持ち込ませない、使わせない。それはいいんですよ。それはそれとして元を絶つ事も考えないとじゃありませんかね?」


「道理だな。しかし現状、元凶については確たる証拠を探さねば、という段階だぞ?」


「え? そんなのレイア様のパパさんじゃあ無いんです?」


 波動術も使って同じ文面の手紙を量産しながらの私の言葉に、ルカが心底意外だと目を瞬かせながら口を挟む。

 これにこの場に集まった皆も同感なようで、どういうワケで私が決め手がないと言うのかと首をひねっている。

 確かに、私と父テオドールとの関係は最悪だと言っていい。セーブルら「影の刃」に依頼を出したのはほぼ間違い無いだろうし、今回の一件も動機があり、白と言える証拠も無い。だがそこで決めつけてしまっては足元を掬われる。確たる証拠の無い糾弾は仕掛けた側の隙になる。それは糾弾した相手にとっても、我々と父のどちらもを敵と見なしている第三、第四の勢力にとってもだ。


「ではこの魔獣暴走騒動。そもそもの起こりは我が手に落ちていない、父の影響下にあるパサドーブル州内なのだ。父が首謀者であるならば、自身の土地で災害を起こすのは避けたいだろう?」


 領民に犠牲が出ては、領主には損しかないのだ。税を納めるのは民。そして民の犠牲は領主としての能力の無さの証明にもなる。すでに私との戦に大敗している父が、さらに評判を落とす方向を選ぶのはあまりにも捨て鉢が過ぎる。まだ外部から、あるいは内部の野心家の破壊工作と見る方が可能性は高いだろう。

 そんな状況証拠からの考えだと説明したが、皆は理解出来るとしつつも納得しかねる様子でいる。


「お嬢はそうおっしゃるが、お嬢以外の貴族様のお考えでしょう? 枯れかけの村や町から搾り尽くしてまだ搾るのが普通じゃないですか?」


「そうそう。そのギリギリの見極めで自慢してるようなイメージしか無いですよ。そこは魔人のトコも変わんないですけど」


「レイア様のお考えも筋は通っているのですが、正直この件に関しては身内びいきなのでは……としか」


 おお、なんと言うことか。皆の父テオドールへの評価があまりにも、あまりにも低い。

 無理も無いか。我が配下で他の貴族を庶民視点で見てきている者からすれば、私の他の為政者などどれも五十歩百歩になる。自分の領地のでも他所のでも民や配下の犠牲を気まぐれで出すような、な。


「……そうだな。つまりそうお前達が見切る程度には父テオドールの能力は誰からも低く見られていると言うことでもある」


「だから誰ぞが好き放題にやっていても不思議では無い……それはそうなんですがね」


「この残骸が父の命令で作られた証拠か、これを用いた遺骸の受けた命令が遡って父の指示に行き着く証拠が無い限り、黒幕を決めつけるのは危険だと言うだけだ」


 あくまでもまだ確証は無いのだと重ねる私に、まだ皆は腑に落ちない様子ではあるが、まだ無数の可能性がある事は納得してくれたようでうなずいてくれる。とにかくあらゆる方向を警戒していて損はないというだけだからな。


「ともかく暴走誘発の下手人を生け捕りにせねばな。そこから尋問で命令系統を辿っていくことも出来るだろう」


「いつもの我が方に誘う鼻薬をたっぷり嗅がせて尋ねるんです?」


「時と場合によるな。そうして我が懐に潜り込む事を命じられている者も今後は出てくる事だろうからな」


「なるほど確かに。なんにせよ捕まえてからって事ですね。了解です」


 災害を防いだ上で反撃の足がかりを作る。そう目的を定めたヘクトルは、巡回強化の重みを強く認識した上で部下への通達に動き出す。


「頼んだぞ。さて、これで我々も魔獣暴走に当たった当事者である事だし、被害を受けた村落領主らにも文書での相談を持ちかけて行こう」


「それで探りを入れたりレイア様につくように調略をするのですね?」


「滅多な事を言うものではないぞミント。しかし同じ災害の被害を受けた者同士、それで我が方との連携が生まれたり、復興支援から実質的に私が管理する範囲が増える事態はあるかも知れないがな」


「失礼しました。ともかくエピストリ神殿には助けを求める声をレイア様に届けてもらうためまたお勤めをしていただくと」


 誰の仕込みかは別として、私の領土が強大化していく事にはプラスしかない。父の手からこぼれたものは娘として掬い上げてやらねばな。そんな私の意図を受けて、ミントが次なる書状の用意を始めたところで、私は犬耳の少年に目を。


「そしてルカ。お前には故国の師匠からその煙玉について当たってもらいたい」


「そりゃあ構いませんけど。それから分かる事ってあるので?」


 私がやるからには意味はあるのだろう。だがそれでどうなるのか。そんな顔をするルカに私は、もちろんお前のその働きが大切なのだ。と、うなずいてやるのであった。

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