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30:話題と耳目を根こそぎにだ

 夜。月光の射し込むスメラヴィア城の大広間。都の、それも皇家の料理人が腕を振るった料理の乗ったテーブルが並び、耳心地好い管弦楽の鳴る宴席に整えられたこの場に、私レイアの姿はある。

 余人の見上げる視線を集めた私の今宵の装いは、上品な深い青のドレスだ。この場に集まった貴婦人のようにゴテゴテと大きく広がるモノではなく、艶のある生地の質を重んじた動きの制限の少ないデザインの。しかしただシンプルなのではなく、四肢を動かせばそれに伴って袖や裾が大きく翻って動きを強調するモノだ。

 白銀の真っ直ぐな髪も誰もがやっているような結い上げではなく、下ろす形で整えている。

 190弱でよほどの巨漢相手でもなければ埋もれない私の体躯であれば、素で高く大きく見せる必要などどこにも無いのだ。もっともやり過ぎな程に斬新な装いは、貴婦人らからすれば好悪半々といったところだろうがな。が、私は彼女らのような伝統的な華々とは立ち位置が違う。言わば篝火に照らし出された城塞だ。よって取り巻く話題も――


「しかし素晴らしきはレイア嬢の戦ぶり! 自身を含む少数の騎兵でありながら一人一人を手足の如く縦横無尽に陣を食い破って……あれでは野盗団など狩りよりも楽なはず」


「まさにその通り。実際に見るまでは武名高きミエスクの軍が蹴散らされたという噂は話し半分に思っていたが、模擬戦とはいえああも一方的に散らしていくとは。夢でも見せられているのかと思ったぞ」


 このように武骨なもの。しかしながら下心を含んだ世辞ではあろうが、貴族らが我が方の武力に良くも悪くも一目置いたのは間違いあるまい。


「皆様からお褒めに預かり光栄です。それも私の課した鍛練を超え、私の指揮に応えて見せた兵あっての事。我が宝たる精兵への賛辞、彼らにも伝えさせていただきます」


「謙遜召されるな! 兵の練度ももちろん素晴らしいが、特筆すべきはレイア嬢自身の弓の腕前よ。本物であれば鎧丸太三本を抜く威力と、騎射で的に当てた矢を射る精度。アレを向けられていたのが私の率いる手勢であったらと思うとゾッとするぞ」


「だが実際にその本気の矢を受けたのは乱入してきた鉄の魔獣だけであったがな。共に皇に仕える武家として頼もしい限りよ。そう言えば、かの鋼のゴーレムもレイア嬢が操るとか? アレを我が方でも使えれば魔獣の被害は減らせようが」


「アレは完全に私向けに作ってありますので。あの完成品を元に、能力はそれなりでも数を揃えられないものかと研究しておりますが、なかなか満足のいく計画すら……」


 まあ見せれば誰もが望むだろうな。ニクスレイアの力が欲しいと。それを求めて競い研究するのはおおいに結構。それで技術が発展して、巡りめぐってやがては私の下にも還元されるのだからな。答えられる限りは答えようではないか。


「ふむ。参考までにその計画ではいかほどの資金が?」


「一機作り上げるのに数十テオンのプロトスティウムが必要な試算になります。それもロス無しで部品を作れての計算で。そして言うまでもありませんが損耗した部品の交換も必要になりますので」


 ニクスレイアは違うがね。しかし部品から組み上げたゴーレムとして成立させたなら。その場合には必須になる条件は正確に伝えさせてもらう。

 案の定そのコストを知った人物の顔は青ざめる。

 当然だろう。私にとっては大した労も無く生成できる物質だが、一般的には同じ重さの金の数倍の価値のある神秘金属だ。それを山のように使って作っても動かし続けられるか分からんような代物だと聞かされればな。金の動きに理解のある人間ならばそうもなる。


「ぬぅう……どうしてもプロトスティウムで無くてはいけないのでしょうか? いえ代用が可能かは当然試しているのでしょうが、念のために」


「あの動きは波動術でのコントロールによるところが大きいので、強度とキーナとの親和性を考えるとどうしても……ただ投石機や破城鎚程度の単純さに限り、一台一台を術師単独でコントロールするという条件であるならば素材のコストは押さえられるかと」


「可能としても攻城兵器一つ一つに専属の術師を必要とするのではな……おまけにそれはそれで高価高級な攻城兵器になる、ということだろう?」


「御慧眼です。これならば伝統的な攻城兵器を用意する方が安上がりとなります。あくまでも現段階ではですが」


 はっきり言って現状では実用するにはコスパの良いモノではない。その現実に聞いていた者たちは皆うめき声をこぼす。そうだろうとも。現実は現実として、夢のような成功例を見せられて放り出す者はいるまい。少なくとも対抗できるなにかを用意できなくては私が、そしてもしも続いて同等のモノを用意できた陣営に一方的なアドバンテージを許すことになる。領地を支配するものとして看過できる状況ではあるまい。


「しかし、ではあの鉄の竜は魔獣の類いなのでしょうか? レイア嬢のお話からすると、どこぞで一から作られたというのはとても……」


「いやあるいは、魔人どもが合成した怪物かもしれん。あのおぞましい連中であればあるいは……」


 おっと話が妙な方向に……いや妥当な所か。私が撃破したダイノボーグという実例があり、長らく戦い続けている異人種が存在するのであればこの流れも自然な形か。

 しかし、魔人族が魔獣をメタル化キメラ化して遊ぶようなおぞましき者どもと来たか。とんだ偏見だな。実物との交流を、戦闘以外で持っていないような層ではこんなものか。只人も魔人も適正と容姿が異なるだけのヒトに変わりはないのだかな。

 しかし偏見と言えば私もかつては、今の世で神々と崇められている連中を暑苦しく頭脳に花畑をインプットした理想論者としか見ていなかったからな。誰しも大なり小なりに抱えるものであるか。

 ともあれ話の舵取りをしなくてはな。


「アレについては、ルザン郡で発掘された古代の金属生命体の遺骸を利用しようとしたものではないかと。その結果として制御しようとした人間が取り込まれてしまったようですが」


「それはたしかな話かねレイア嬢?」


「ええ。発掘された奇妙な金属の骨に何らかのアプローチをかけている集団がいる。そんな情報を聞いたことがあります。戦った時の怨み節も聞き覚えのある声でした」


 噂を耳にしていた、というのはウソだがな。だがこれでいい。ルザンから発掘され、暴走したダイノボーグがあったという事例が事実である以上、この話を知った諸侯らは己の領地の調査なりを進めるだろうからな。手に入れるつもりにせよ、他所に渡らぬよう封じるつもりにせよな。


「私のゴーレム等に興味がありましたら是非協力させて頂きたく思います。なにぶん当方はパサドーブル州の復興でなにかと入り用になりそうですので」


 我らミエスク父娘の間で起こった抗争に対して、陛下から私に申し渡された条件が戦で被害を受けた村落の復興だ。対して父は私に対して軍を差し向ける事と、私主導の州内復興に金品の支援を出すように、と。いかな理由があったとて世を騒がせた事は事実と下された沙汰である。が、まずはパサドーブルの富国強兵を目論む私にとっては何のペナルティにもなっておらず、父の側が賠償金を支払った上にその軍事力と統治能力への信を失った形になる。


「おお、そうでしたな。しかし華々しい兵器に限らずとも、レイア嬢からは今後色々と力を借りることが増えそうですな」


「その通り! これから先を見据えて良い付き合いを持てるようにしておきたいものだ」


 諸侯らの色良い返事に微笑みと礼を送る私に、遠間の父から苦々しげな視線が投げられている。

 今回の件でおとなしく引き下がる父テオドールではないだろうからな。

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