29:いつ私の本気を見たと思っていたのか
「リユニオン」
敵に跳び膝蹴りを入れ、さらにジャンプして戻ってきた半身と接触。そうして再合一を果たした私に対し、坊っちゃんダイノボーグはその目を激しく瞬かせる。
「そうだ、そうクるよな!? それでいい! そうなってゼンリョクをダせるようになったおマエをタタきツブさないとキがすまないんだよ!!」
「それは何より。なんならあのまま手加減したままで倒してしまえるか試してみても良いかとも思っていたところでな」
「なめやがってッ!! こうなったオレたちがマエのようにいくとオモうな!! ゼンリョクのおマエをツブして……そのチカラでこのクニを、いやタイリクだってシハイしてやる!!」
ほう。私を前に大層な野心を吐いたものだ。まあ野心を抱くのはいい。取り繕って言えば夢と言えるものであり、向上心の燃料ともなる。だが……。
「いつからこれが私の全力形態だと錯覚していた?」
「な、にぃ……ッ!?」
私がアイスブルーに輝く両目を瞬かせての言葉に、坊っちゃんダイノボーグは絶句を。ここからハッタリだと続くのがお約束だが、そんな定番の茶番劇を見てやる理由もない。早速お披露目といこうじゃないか。
「セプターセレンッ!!」
私の呼び声に応じて駆けつけるのは青毛の愛馬。フルアーマーの騎士を乗せて走れる逞しい重種は、その黒光りする馬体を馬蹄の一鳴りごとに膨らます。そうして私が跨がれるサイズになった彼女の馬体もまた鋼のそれに。これこそがセプターセレンの真の姿、そして!
「オーバー……ユナイト」
この宣言と共に私が鞍上から飛び上がるのに続いてセプターセレンが前足で地を鳴らして立ち上がる。
「ナニをするつもりかはシらんがッ!?」
このシークエンスに割り込もうと、我に返った坊っちゃんダイノボーグがセプターセレンに襲いかかる。が、その爪はエネルギーバリアに阻まれる。
いやまったく正しい。戦っている相手を自由にさせないという判断は至極当然。私ももちろん同じ判断を下すだろう。今回の奴は完全に遅きに失したがな。
と言うわけで、地面に刻んだ馬蹄。それを起点とした防御結界の中で我々は手順を進める。
二足で立ち上がったセプターセレンの馬体から首から上が分離。胸部が左右に展開し、前足が両腕に。機体を支える足は脛だったパーツが降りて蹄よりも広い支えを作る。
そうして出来上がった胸から腹にかけて隙間の出来た体に、分離していた馬の顔が前に来る形で収納。そして車型になった私が首の付け根にスライドイン、半ばから折れて背部の一部にも。その上に重なった頭が固定されると、私の意識はこの新たな機体へ拡大。漲る力を確かめるように拳を握り、両の目にアイスブルーの輝きを灯す。
待たせたな。これこそ、この姿こそが現段階における私のフルパワー形態。その名も――
「セレンニクスレイア。とでも名乗らせてもらおう」
名乗るが早いか、私は巨大化した拳で障壁を引っ掻き足掻くダイノボーグの手にぶつける。すると奴の腕はくしゃりと崩れ、肩から先の胴体が隕石の直撃でも受けたかのように吹き飛ぶ。
鋼の巨体を風に吹かれた枯れ葉のように転がしたダイノボーグは無くした腕を抑えながら起き上がる。
「ば、バカなッ!? タイカクにはタイサはない……それどころかまだオレのほうがデカイまである……だのにッ!?」
ああ。そんな事に驚いているのか。確かに質量は絶対だ。大物と小兵の勝負で小兵の勝ちが持て囃されるのは、格差をひっくり返す困難があるからだ。だがこの世界においては波動エネルギーがそれを解決する一手となる。
そしてこの私の体にはその波動エネルギーが満ち満ちている。奴程度とは比べ物にならぬほどにな。例えるならば私が金属のインゴットで奴は同じ大きさに見えるように集めた砂山に過ぎない。この二つがぶつかり合えばどうなるかなど試すまでもない。この辺りが分かっていないということは、奴の融機生命体としての自己の理解はまるで話にならない程度ということだ。
私との差を信じられずとも、機体で思い知らされただろう奴は、我々から遠く、引き離したのに加えてさらに距離を取りつつある父の軍勢に目をつける。が、その頭を私は足の下に。これからは私の力を見せつけるショータイムなんだ。つまらんケチをつけられてはたまらんからな。
「が……ぐ、クソがぁッ!!」
頭を踏みつける私の足をどけようと、奴は残る腕の爪を立ててもがき足掻く。私はカリカリと装甲の上を滑って磨耗するその腕を掴んでちょいと引っ張ってやる。となると当然奴の胴と肩が外れて、その先が私の手の中に。
「ギャァアーーッ!?」
「おっと」
この弾みでダイノボーグは全身、特に潰れた両肩から炎を放出。自爆めいて広がるこの熱量に私はとっさに踏みつけていた足を振る。
地面を焼き焦がし、削りながら滑ったブリキのデカブツはその勢いを使って立ち上がる。
「へ、へへへ……ケトばしやがったな……」
何を勘違いしたのやら、両腕を無くしたままで身構えて目を楽しげにチカつかせている。
私に直接のダメージがあったから離したわけでは無いのだがな、まあ良い。思い上がるだけなら勝手だ。
そう見切りをつけた私の目が冷ややかに輝いたのだろう。見咎めた奴は憤りに任せて火炎弾を連射してきた。対する私は掴んだままであるダイノボーグの腕を一閃。一連なりに並んだ炎を断ち切ってやる。
「ば、バカな……ッ?! な、なんだってんだよ……!?」
届いた余波で切れた装甲を落としながら、ダイノボーグはまたもや絶句。なんとも驚き方がパターンな事だ。別に不思議でも何でもなかろう。奴の炎を断ち切ったのは結晶質の刃を備えた斧。引きちぎった奴の腕を作り替えた立派な戦斧なのだからな。
私が金属をプロトスティウムに作り替える事のちょっとした応用である物質変異。これは融合前のダイノボーグでも既に味わっているはずなのだから、予想できてしかるべきだろうに。
まあ良い。それすら出来ていないと言うのならしょせんその程度の事。このままトドメを刺すことに何も変わりはない。
と言うわけでフラッシュブラスト。我がアイスブルーに輝く眼から放たれた拡散モードの破壊光線がダイノボーグの機体を焼き焦がす。そうして転がる出端と行き先を塞いで挫いた上で私の振りかぶった斧が奴の機体へ。
「イ、イヤだあぁーッ!?」
しかしその直前にダイノボーグが自爆。その余波で外れた頭部が私の腕に噛みつく。そうして絡みついたのはそのまま、人型へとその形を変えていく。
「こうなりゃヤケっぱちだぁッ!!」
金属の骨格標本めいたそれは関節技のつもりか、絡みついた私の肘を全身で正しくない方向に曲げようと。
なるほどなるほど。密着出来たのは弾みの偶然とはいえ、そのままでいれば自傷覚悟で叩くことになるだろうと考えてか。悪くは無い。だが愚かだ。
「が、あ……?」
驚きに目をチカチカとさせた坊っちゃん指揮官のなれの果ては、己の背と胴を見比べる。その胸と腰とを繋ぐ背骨は、私の「肘」から伸びたエナジー・ソードウィップがたった今断ち切ったところだ。
そうして両断されて力を失ったのを振り払って、手首からも伸ばした光の鞭剣の二本で細切れにしてやる。
坊っちゃん指揮官が主体で変化していたのだろう頭パーツはそれで良し。一方の私の斧を受けるよりも先に自爆していたボディの方はと言えば、私の命令に従い、地面を割った腕斧にその残骸を集めて新たな形に生まれ変わりつつある。こうして我が手の内に収まったのだから、反逆からの紆余曲折もまた良しとするか。
さて、思わぬ乱入者によってあやふやになった模擬戦であるが、私の光輝く鋼の巨体が見やれば、さすがに父の軍勢も揃って旗を降ろすことになる。ありがたい。これでもなお挑んで来るのであれば、思い知らせねばならなかったところだ。それならばそれで良しであったがな。