表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/103

20:奇妙なる骨格化石

「アレが件の生け贄の祭壇というヤツか」


 私とラーズは草むらに身を隠してすり鉢状に凹んだ地面の底を覗き見る。

 篝火が焚かれ、間に合わせの祭壇として調えられたそこには、半ば土に埋まった肉食性大型爬虫類の骨格が。

 いわゆる古代生物の骨格化石であるが、遠目にも明らかに普通の化石ではない。

 所々に金属光沢が生じ、その上を篝火の灯りの照り返しとは違う光がチラリチラリと走っている。


「そんな……なんて大きな波動……大きな魔獣のだって言っても朽ちた骨からどうしてこんなに……!?」


 ラーズが慄き呟くとおり、あの異常な化石からは膨大なキーナが溢れ出てきている。大きいとはいっても、私の本気には及ばないのであるが。

 アレはおそらく時代は違えど私の同類。かつての同胞(機械生命体)が新たに得た有機生命体の器なのだろうな。もっともひどく不完全な結果に終わったのだろう。巨大な肉体と機体の融合は為されていたが、意識が宿らなかったか飲まれたのか存在せず、ただ強大な融機生命体としてその生涯を全うしたと言ったところか。

 しかしなるほど。生け贄だのなんだのとの話を聞かされて調べて見たがこれは大当たりだ。自力で復活を始めているアレを接収してしまえば、悪くない手駒に使える事だろう。

 そうして私が思いがけない大儲けに内心ほくそ笑んでいる一方で祭壇前に動きが。

 祭司を気取っているのか、派手なローブを着た男の前に、何人もの人間が引っ立てられてくる。老若男女の区別無いそれらを前にして、祭司気取りは白く光る剣を抜き掲げた。


「やっぱり生け贄って、あれを復活させるためのッ!? そんな野蛮は止めなくちゃ!!」


 逸って飛び出そうとしたラーズを私はとっさに捕まえる。非難めいた彼の視線には首を横に振って断固としてダメだと突きつける。

 祭壇回りの守衛の配置を見るに、乱入して倒すことは不可能ではない。が、生け贄にされた者たちは同時に人質にもなる。それどころか生け贄として手早く捧げられてしまう可能性すらある。

 しかし生け贄で復活とはどういう事だ? まったく原始的な。おそらくは贄とした人間の波動を血と共に注いでいるつもりなのだろう。たしかに仮死状態なりで再起動の目あるのなら大量のキーナを注いで回復した事例もある。が、ヒトを生け贄にした程度で本当に同様の効果を出せるのか?

 いや待て、そうだな。復活に必要なエネルギーなら与えてやればいいのだ。


「よし。良い考えを思いついた」


 この素晴らしい閃きを得るなりに私は近くに待機させていた機体ニクスからキーナを放出。それも攻撃性のエネルギーではなく、分け与える形で。

 当然標的は化石化した巨大融機爬虫類。窪地の上から滝の様に落ちたエネルギーの波は生け贄候補はもちろん、それらを捕らえたカルト信者達をも押し流してすり鉢の底の祭壇に収まったモノへ注がれていく。


「レイアさん!? これは、何をッ!?」


「こちらで復活させてしまえば生け贄を使う必要はあるまい?」


 復活させた私に従う様になる可能性も大きいからな。そうなれば私の忠実な下僕しもべとしてしまえばいい。

 この本命の企みについては隠しておいて、ラーズの幻想は守ってやりながら私はニクスからのエネルギー注入を続ける。

 しかし波打つエネルギーのキーナであるが、祭司気取りとその手下どもも生け贄候補も、もろとも溺れるように翻弄されてしまっているな。


「さてラーズ。この様子、好機では無いか?」


「そ、そうですね!? 助けましょう!」


 言われてみればと飛び出したラーズに続いて私もまたすり鉢地形に飛び込む。

 流れ込むエネルギーの渦であるが、私は当然自分で放っているモノであるからして肉体の内に納めるなり通すなりしてしまえるので何も問題無い。

 当然そうはいかないのがラーズであるが、彼は彼で自身の波動術で波に飲まれずに走っている。それはまさに高波の真上を流れる風の如し。幼くして素晴らしい才だ。

 そうして私はエネルギー奔流をものともせず、少年神官はその波に乗る形で、囚われの人々を窪地の上に導いて行く。


「お、おのれ! 邪魔立てをッ!?」


 当然それに気づいたカルト共が追いかけようとしてくるが、ニクスの波動に溺れ振り回されるばかりだ。


「あ、ありがとうございました。助かりました……命が危うい所を救っていただいたこのお礼は必ず……」


「いえ。これも危急の報せを運んで下さったエピストリ様の御導き。そのお気持ちは無事に日々の営みに戻った後にでも」


 神殿お決まりの遠慮の文句だが、これもなかなか良くできているな。言葉通りに受け取る庶民であれば慎ましやかに、裏の意味を見るような貴族であれば、相応の寄進を暗に求めるような言葉になる。

 これは今はよそ事だから脇に置くとしておいて。


「その気持ちはこちらも骨折り甲斐があったものだが、考えているような謝礼を出せる状況にあるのか?」


 不思議そうに見てくるラーズに対し、生け贄にされかかっていた面々の表情は暗い。この情報をくれた兵の訴えから察するに、彼らもまた身代の大なり小なりの違いはあれど、この地を治める冠持ちの従士だろう。それがこんな仕打ちを受けるとなれば、土地なり何なりの財産が戻るようになっているはずもない。

 しかしそんな深刻になることもあるまい。私の領地に保護される形になれば、とりあえず食うには困らんくらいには扱えよう。仕事は元の身分のプライドが邪魔しなければなにか適正なものが見つかるだろう。そのうちにここも我が領に取り込めば、私から貸し出す形で彼らの手元に戻る事もあるだろう。もっとも、叶うかどうかは私の下での働き次第ではあるがな。

 そんな見立てをかいつまんで話してやれば、生け贄候補の集団達からは安堵の息が。まあ半信半疑ではあるが、半分でも明るい先行きが見えた事で気休めにはなったというところだろう。

 それを認めた所で、私はふと脱力感を覚える。いや肉体の側ではなく、機体ニクスの側にであるが。

 何事かと探ってみたなら、ニクスから垂れ流しにしていたエネルギーで渦巻いていたすり鉢の底がすっかりと静まりかえっている。

 その原因は当然融機爬虫類の化石。私に与えられたエネルギーで活性化し、貪欲にすすり上げ始めているのだ。それはニクスのボディからも引きずり出す勢いで。


「これは……少々見立てが甘かったか?」


 認めよう。この世界に再誕した私に敵うものなどいない。噛みつけるものなど存在しない。己を無敵だと思い上がっていたことは認めざるを得ない。

 胸骨の奥で波動エネルギーの結晶体を脈打つように点滅させ、大地を振りほどいて現れた融機恐竜の骨格。

 それは吸い上げるままに自分に張りついていた祭司気取りとその手下を煩わしげに噛み、踏み潰す。

 そうして吐き出したのと潰したの、それらから溢れた血液と、浴びた砂とで骨の表面を覆い始める。

 あれは、血中の僅かな鉄分と砂鉄か。それらを集めて変異させたプロトスティウムでもって、失った部位を補おうというのか。金属光沢を帯びた骨格と、それを覆いつつある装甲の合間合間から、エネルギーの伝導するパーツが覗いている。

 まだまだフレームと内部メカの露出した不完全な形ながら、甦った融機恐竜は取り戻した力を確かめるようにその二本足を踏み鳴らす。

 脈動するクリスタルの覗く胸部には私の顔を模したエンブレムが生じている。が、奴はそれを前足の爪で掻き削り、こちらを見上げてきている。

 なるほど。我が父、我が生家への反乱を企んでいる噂があるとあの兵から聞いたが、あれもまた反骨心の塊のようだ。


「ラーズ。救出した者たちを連れてこの場を離れられるな?」


 半ば命令する形での確認。それを同行者である少年神官に残した私はニクスレイアへとリユニオンする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、ダ◯ノボットだ。 さあ躾の時間だ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ