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102/102

102:思いがけぬ懐かしきもの

「随分と大所帯になりましたね」


「いやまったく。最初は私とメイレンだけだったというのに、もはやちょっとした部隊の行軍だぞ」


 目の前に広がる野営の陣。それを眺めて私とメイレンは揃ってどうしてこうなったと肩を揺する。

 いや、経緯は単純明快。

 私が襲撃に来た刺客を都度都度死なない程度に返り討ちにし、そのまま好きにしろと放り出すのを繰り返していた結果だ。

 近い事例ではもはや下ったメンバーによる説得で事後承諾に増員が報告されるようになり、完全に私が叩きのめす行程を省くまでに。

 元が身軽なチームとはいえ、あんまりに大所帯になっても動きが鈍る。

 ということでなるべくは私の本隊に合流させるようにもしている。しかしそうしてでもあまり削れていない。

 むしろ野営の陣を目標にして合流、増員しているまである。


「襲撃者を抱き込んで陣容を賑わすとはさすがレイア様。これでは依頼主も面目丸つぶれですね」


「そちらの方はどう転んでくれても構わん。が、このまま陣地が膨れ上がるに任せているのはまずいな。場所が場所だけにな」


 そう。この野営陣は私が試練を受ける直前のキャンプ地として置いているもの。

 聖地の目と鼻の先にこんな軍の陣地めいたものをいつまでも敷きっぱなしにしておくのは現地民に対して気まずいものがある。

 このままでは聖地観光のための町が出来てしまいかねないからな。


「これは手早く終わらせて引き上げるに限るな。メイレン、彼らの監督は任せるぞ」


「簡単に言ってくれる事で」


「どちらの事だ?」


「そりゃあ両方ですとも。けどもレイア様ならあっさり片付けても驚きはないので、どっちかといえば気安くまとめ役仕事を投げられた事、ですね。私、指揮官仕事には向いてないのですが?」


 承知しているとも。メイレンは面倒見が悪いわけではないが、チーム全体に目を配って細やかに管理出来るタイプではない。

 かろうじて部隊のトップとして形になるなら、自分から一番槍を取りに行く猛将タイプだ。そんななので普段の厨房仕事でも料理長の役職は彼女のものではない。遊撃に回るエースというポジションだ。

 だがだからこそここではメイレンが良い。

 力を示す事で降らせた集団には、抑え込めるだけの力の持ち主を上に据えて置くしかない。メイレンならば腕力に加えて、胃袋からでも手綱を握る事も出来るだろうからな。


「レイア様が任せると言うからには出来ると踏んでの事でしょうからやりますけどもね。じゃ、レイア様も御武運を」


 私に気安く仕事を投げると言ったその口で、軽く送り出してくれるものだ。

 それもまたメイレンからの信頼の顕れではあるか。

 というわけで私は信用の置ける実力の持ち主に後を任せて、獣人連合の聖地とされる遺跡に足を踏み入れる。

 聖地とされている遺跡というのは洞窟だ。

 丘にポッカリと開いた入口を潜り、入り込んだ土砂の下り坂を進んで行けば、程なく金属……それもプロトスティウムの壁と天井、床で覆われた方形の筒状空間に変わる。

 先へ先へと長く伸びるこの空間は、外の明かりが差し込んでいるわけでも無く明るい。しかしその光源は篝火ではない。

 壁や天井そのものが、より正確に言えばそれらに走る波動キーナイトの輝きが地下の通路から闇を払っているのだ。


「近づくにつれて奇妙な気配が強まるとは思っていたがまさかな。明らかに旧世界のものではないか」


 どうしてまた旧世界の構造体がこのプライム大陸に埋まっているのか。それも現生の人類が扱うサイズの通路を備えて。

 いや、もし私と同じタイプであるのなら、超大型のタイプの機体ボディが意識と合流する前の再構築中なのかもしれん。それでこの通路だとされている現在地は単なるクリアランスか。

 尽きぬ疑問とそれに対する推測が私の頭を駆け巡る。が、私一人で予測推測を転がし続けたところでそれ以上には進むまい。ということで頭を切り替え、手近な壁面に手を触れてアクセスを試みる。

 光って巡る波動を探り、記録領域やこの遺跡の全容を把握しにかかる。もちろん免疫的に外敵と排除されないように仕込みをしてだ。

 が、残念ながら私の目当てのところには届かなかった。

 経年劣化か再生の途上か。波動の巡りが途絶えているポイントがあり、探りきれなかったのだ。

 しかしそれはそれとして、徒歩で行ける範囲のマップは無事に手に入れられた。今回の試練で目指すべき部屋の場所も把握出来た。


「しかしコイツ……私の記憶には無いな……」


 探れたのはおそらくほんの一部。全体を把握すればまた違うのかもしれない。だが旧世界のニクスレイア記憶メモリの中にこんなモノは、繋がるモノすら見つからない。

 私とて最終決戦の最後まで生き残っていたわけではない。

 敵方からはもちろん、味方からも秘密にされたモノが存在した可能性も大いにある。加えて世界そのものの生まれ変わりから、機体ボディの修復と意識が転生を繰り返す過程での記憶の欠落があった事も否定は出来ない。だが何にせよ、これはかつての世界由来ながら、私の知らないモノである可能性が高い。

 しかしまたこの場で転がしても詮無い事にまて考え込んでしまったな。そう己の悪癖を反省しつつ、向かうべき所へ足を向ける。

 自ら発光する通路に、進むべき道筋も分かっているのだから迷うはずも無く、私は目的の部屋の前に辿り着いた。もっとも、闇の中であろうと私の目であれば関係は無いがな。

 さて閉ざされた扉に私は波動を。一定量のエネルギーを受ける事で動作するロックを解除して、私は部屋の中へ。

 ざらついたノイズのさざめく空間に私の靴音が高らかに。そうして一歩一歩、空気を私色に塗り替える心構えで奥へ。

 そうして部屋の中央にまで踏み込んだところで、唐突に巨人が目の前に現れる。


「なんと。たしかにここは聖地であったわけか」


 いきなりに登場した巨人を見上げて私は思わずポロリと口から。

 角張ったシルエットのそれは、ニクスレイアと共通するモノ。我が同胞たる機械生命体。その立体ホログラムである。

 私か、同じく意識を引き継いだ者以外にとっては、これはまさに神秘、神の奇跡であろうな。

 そしてその虚像の口から出た言葉は神の託宣となる訳だ。


「……認可、する……認可する……」


 それが不具合によって繰り返される一節のみであろうとな。

 むしろこれを利用して、さぞ神の後押しがあるようにパフォーマンスに利用した、というのがこの試練の真相で、始まりなのであろうな。

 こう考えを巡らせている間にもホログラムの鉄巨人は延々と承認のセリフを繰り返し続けている。

 陣営は違う相手だが、流石にこの有様は忍びない。そう思った私は再びこの部屋から遺跡にアクセス。今度は全体を探るのでなくこの部屋に集中してだ。

 細やかに波打ち流れる力の具合を見れば、なるほど躓きや淀みを起こした箇所がたしかに。起きている不具合とその原因を探った私は、力を注いで修復していく。


「ア……ガガ……認……認可……最終作戦の、発動を……こ、これはッ!? いったい?」


 手をかけた甲斐があったようだ。ループ状態で捕らわれていたホログラムが動きを取り戻す。

 この戸惑い方を見るに記録映像ではなくここに宿った意識のようだな。その可能性があったからこそ、戯れに私相手にどんな反応をするのかと、意識を掌握するための小細工をせずに修復のみに留めたが、さて?


「どうやら上手くいったようだな。目覚めの気分はいかがかな?」


「お前は……? いやその口ぶりからするに、私を回復させてくれたようだな。感謝する。しかし、その……小さな有機体であるキミがどうやって……?」


 声をかけて見ればその内容から推測、出来るチェックをして疑問を持つか。うむ、ブレーンの巡りに問題は無いようだな。

 しかしそう来るか。見たところ秩序を自称する側に所属しているようなので私の放つ気配から即敵対はともかく警戒が漏れるくらいはあるかと思っていたのだが。

 まあ混乱している現状の改善を優先したということかもしれん。


「私の推測も混じるが、現在の状況については一から説明しよう」


 そう宣言して私は彼が求める情報を込めた波動を流してやるのであった。

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― 新着の感想 ―
おお〜頑張れば動きそうで強力そうな新ロボだ〜
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