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9、リジィの本性



「王妃様……あの……お話ししたいことがあるのですが……」


朝食を作り終えて自室に戻ろうとした私に、配膳を担当しているメイドがそう言った。彼女の顔は強ばっていて、額にはうっすらと汗が滲んでいる。その様子から、この場で話す内容ではないと感じた私は、彼女に部屋に来るように伝えた。


部屋の中に入ると、ドアの前でオドオドしているメイドの手を両手で握り、「大丈夫だから、落ち着いて」と目を見つめながら言う。

何があったのか分からないけれど、彼女が怯えているように見えた。

アビーは気を使って、静かに部屋から出て行った。


「申し訳……ありません。私……恐ろしくて……」


恐ろしい……?

その発言だけでは、内容が想像出来ない。

もう一度彼女の目を見つめてみても、私を恐ろしいと思っているようには見えない。


「ゆっくりでいいから、話してみて?」


彼女はゆっくりと深呼吸をし、口を開いた。


「陛下の前で、平然と嘘をおつきになるリジィ様が恐ろしいのです……」


「嘘? それは、どういうこと?」


リジィは私の憧れで、大好きな存在だ。そのリジィが恐ろしいなんて、私には信じられなかった。


「食事は今、王妃様がお作りになられていますよね。ですが、リジィ様はご自分が作ったのだと陛下にお話しになられていたのです。王妃様がお作りになられていると知らなかったら、完全に信じてしまうでしょう。ですが、私は存じております。リジィ様が嘘をつく時の表情が、とても恐ろしく見えたのです」


彼女が嘘を言っているとは思えない。けれど、素直に信じることも出来ない複雑な気持ちだった。

けれどそれは、すぐに答えが出ることになった。


メイドと話していると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


「はい」と返事をすると、何も返事がないままドアが開いた。そこに居たのは、リジィだった。


「やっぱり、聞いてしまいました?」


メイドの様子に気付き、後をつけていたようだ。

リジィを引き止めようとしていたアビーは、申し訳なさそうに頭を下げる。

彼女が恐ろしいと言った理由が、私にも分かった。

リジィは笑顔を浮かべながら部屋に入り、アビーが入る前にドアを閉めた。

メイドは背を向けたまま、声を聞いただけでぶるぶると震え出した。


「下がっていいわ」


メイドの目を見つめ、そう告げた。勇気を出して私に話してくれた彼女に、これ以上怖い思いをさせたくなかった。


「あら、ダメですよ。そのメイドは、私のことを話しに来たのですよね? 処罰しなくてはなりません」


今目の前に居る彼女は、本当にあの可愛らしかったリジィなのだろうか……

今までは、天使のような笑顔だと思っていたのに、今は完璧な作り笑顔が彼女の人格を物語っている。


「処罰するなど、許さないわ。側室ごときが、王妃の部屋に無断で入るなんて無礼極まりない。あなたこそ、私に処罰されたいの?」


メイドを処罰などさせない。今までのリジィが演技だとしても、王妃は私なのは変わりない。立場も身分も私の方が上だし、彼女が何を考えていたとしても思い通りになどさせない。


「王妃様ったら、演技がお上手ですね。まあいいわ。そこのメイド、邪魔だから出て行きなさい」


メイドは頭を下げ、慌てて部屋から出て行った。

処罰しなくてはと言っていたのにすぐに追い払ったところをみると、彼女が居ては話せない内容なのだろう。


「座ったら?」


リジィと二人きりで話すのは、久しぶりだ。いつも明るくて可愛くて、本当に天使のような子だった。家族からも周りからも愛されていて、私には彼女が眩しかった。

リジィは言われた通りソファーに腰を下ろすと、足を組んだ。側室が、王妃の前で足を組むなどありえない。つまり、私を王妃だとは思っていないし、怖くはないということだ。


「王妃様は、本当はアンディ様がお好きなのでしょう? アンディ様に嫌われていると自覚しながら、それでも彼の側に居たいなんて泣けてきます」


泣けると言いながら、勝ち誇った顔で私を見ている。アンディ様は、自分のものだと言いたげだ。

リジィは、どこまで知っているのだろうか……

アンディ様に料理は自分が作ったと言ったのなら、料理長ではなく私が作っているのだと知っているのだろう。私を見張っていたのは、ドリアード侯爵だけではなかったということか。私を見張っていたとしても、かなり気を付けていたからドリアード侯爵との繋がりは知られていないはず。けれど、好きな素振りなど一度も見せたことはないのに、なぜ私がアンディ様を好きなのだと思ったのか……

 

「何を言っているの? 私はアンディ様を監視する為に、王妃になったのよ。アンディ様への気持ちなんて、これっぽっちもないわ」


リジィは、確信しているように見える。だからといって、素直に認めるつもりはない。


「ではなぜ、アンディ様の八歳のお誕生日パーティーの日に、私の名を騙ったのですか? あのドレス、本当に素敵でした。あの時、私もあの場に居たんです。アンディ様を探しに出たら、先を越されていた……」


あの場に……居た……!?

リジィは最初から、私がアンディ様を想っていることを知っていた。それだけでなく、“リジィ”だと名乗ったことも知っていたということになる。


「知っていましたか? アンディ様は、あの日の()()()に恋をした。だから、王妃様の思い出は、私の思い出になりました」


そんな……そんなの、知るはずがないじゃない……

それが事実だとしたら、私のせいでアンディ様はリジィに騙されたことになる。

私が、リジィだと名乗ってしまったから……


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