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24/24

24、愛される幸せ

本編完結後、番外編を二話載せています。



「相変わらず、無茶をするな」


目の前に、アンディ様が立っている。

領主は思った通り、私を殴ろうと手を振り上げていた。その手を、アンディ様が掴んでいた。


「どうしてここに……?」


一年ぶりの、愛しい人の姿。少し、痩せたみたい。

もう二度と会うことはないと思っていた人が、目の前に居る。


「君を、迎えに来た」


アンディ様は、眩しい程の笑顔でそう言った。


「貴様! この手を離せ! 私を無視して会話などしおって、どうなるか分かっているのか!?」


すっかり領主のことを忘れて、アンディ様のことしか見えなくなっていた。


「ああ、すまない。私の愛するロゼッタに、手をあげようとしていたからつい」


笑顔でそう言っているけれど、目が全く笑っていない。

アンディ様が領主の腕を離すと、領主は腰にさしていた剣を抜いた。


「お前の愛する女など、どうでもいい! 私をこけにした報いを受けろ!」


領主が剣を振り上げた瞬間、彼の喉元に剣が突き付けられた。剣を突き付けているのは、ドリアード侯爵だった。


「な、な、な、何なんだこれは……!?」


「お前が剣を振り上げたお方は、この国の国王陛下だ。つまりお前は、陛下に剣を向けた。この意味が分かるな?」


国王陛下と聞いた領主は、白目を向いて倒れてしまった。あんなに威張っていたのに、随分と気弱な領主だった。倒れた領主は、領主の護衛が邸に連れて帰って行った。


「もう一度言う。迎えに来た。共に帰ろう」


目の前に、アンディ様の手が差し出された。

この一年、アンディ様が頑張っていたことは知っているけれど、まさか迎えに来てくれるとは思っていなかった。すごく嬉しい。嬉しいけれど……


「私は、アンディ様の重荷になりたくありません。ですから、お帰りください」


彼に背を向け、そのまま歩き出す。


「重荷かどうかは、私が決めることだ! 先程の子爵は、横領の罪で爵位剥奪になるだろう。あの男が、最後だった。全ての貴族が、君が王妃であり続けることに同意した! 一人一人説得していたから、迎えに来るのが遅くなってしまった。私への気持ちが冷めたというなら、もう一度好きにさせてみせる! だから、一緒に帰ろう!」


私は……アンディ様の側に居てもいいの?

振り返る勇気が出ずに、そのまま動くことが出来ない。

彼の側に居られるなんて、考えたこともなかった。


「時間切れ。君が嫌がっても、二度と離さない」


後ろから抱きしめられて、耳元でそう囁かれる。

アンディ様は、本当にズルい。こんなことされたら、拒否なんて出来ない。


「……私で、いいのですか?」


「ロゼッタじゃないと、ダメなんだ」


私は、彼に相応しくないと思っていた。

愛する人に、必要とされていることが、こんなにも嬉しいなんて……


「アンディ様、お話することがあります」


とりあえず一緒に来て欲しいと、アンディ様を連れて孤児院へと向かう。

その間、彼は私の手を掴んで離さなかった。もう逃げたりしないのにと思いながら、手を繋げることが嬉しかった。


「陛下!? ロゼッタ様、これはいったい……」


事情をアビーに話すと、瞳をキラキラさせながら聞いていた。私がどれほどアンディ様を想っているか、アビーが一番よく知っている。


「そろそろ、話とやらを聞かせてくれないか?」


深呼吸をしてから、覚悟を決めて口を開くと……


「オギャーッ」


お昼寝をしていた赤ん坊が泣き出した。赤ん坊を抱き上げ、軽く揺らしながら泣き止ませようとする。泣き止んだところで、もう一度口を開く。


「この子の名は、クライドといいます。私と、アンディ様の子です」


王宮を出てから三ヶ月後、妊娠していることに気付いた。この子を産む為に、落ち着ける場所を探してこの村にたどり着いた。


「私達の……子……」


アンディ様は、壊れものを扱うようにクライドに触れる。


「君に、良く似ている。ロゼッタ、ありがとう」


クライドは、どちらかというとアンディ様似だ。よほど嬉しかったのか、飽きることなくクライドを見つめるアンディ様。微笑ましくて、そんな二人をずっと見ていた。


私が王宮を出た後、アンディ様は本当に一人一人、貴族を説得していた。それだけではなく、不正などを取り締まって来た。不正を行っていたのは、父の周りだけではなかった。そしてこの地が、最後だったようだ。

領主は信頼出来る者に任せて、孤児院への援助金もきちんと支給された。孤児院には二人のシスターが雇われることになり、人手不足も解消された。

子供達と別れるのは寂しかったけれど、また会いに来る約束をして別れた。


父は最後まで、後悔も反省もしなかったようだ。父の最後を見届けなくて、良かったのかもしれない。処刑された日、お腹の中にはクライドがいたのだから、この子にそんな所を見せなくて済んだ。


私はローガン公爵家の養子となり、王妃に戻ることになった。アンディ様のおかげで、反対されるどころか、大歓迎された。

王宮に戻った瞬間、臣下達に囲まれた。


「よくお戻りになられました! ロゼッタ様がいらっしゃるなら、陛下も王宮から出る機会が減りますね!」

「ロゼッタ様ー! お待ちしておりました! 早速で申し訳ないのですが、陛下を説得してください!」


臣下達が私の帰りを喜んで? くれている。


「これは……?」


「実は、ロゼッタ様が王宮を去ってから、陛下が王宮にいらっしゃることがほとんどなくなってしまい、王宮での仕事が山のようにたまっているのです」


そう教えてくれたのは、ブレナン侯爵。

アンディ様は国の害となる貴族を取り締まる為にほとんど王宮には戻らず、書類仕事は臣下に任せ切りだったようだ。その為、王の許可が必要な書類がたまり、アンディ様を王宮に繋ぎ止めることが出来る私を待っていたということらしい。


「アンディ様は、不器用な方ですね……」


それでも、私の為に頑張ってくれた彼が愛しい。


「ということですので、もう二度と王宮を出て行ったりはしないでくださいね。我々が、苦労します!」

「王妃様は、ロゼッタ様以外ありえません! 陛下を……いいえ、私達を見捨てないでください!!」


これは、陛下の頑張りなのか分からなくなって来たところで、アンディ様が不機嫌そうに私達の間に入って来る。


「ロゼッタが困惑している。部屋で休ませるから離れろ」


「アンディ様、臣下達が困っております。私のことはお気になさらず、お仕事をなさってください」


私の言葉に、アンディ様はなぜかさらに不機嫌な顔になった。


「一年ぶりに会えたというのに、冷たいな。私への想いは、冷めてしまったのか?」


不機嫌になったと思ったら、悲しそうな表情を見せる。

冷たくしたいわけではない。愛されることに慣れていないから、どう接していいのか分からないのだ。不器用なのは、私の方かもしれない。


「アンディ様への想いが、消えることなどありえません。誰よりも、アンディ様を愛しております」


わああああと、周りから歓声が沸き起こる。臣下や使用人の見ている前で、愛の告白をしてしまったのだと気付く。耳まで真っ赤に染まり、恥ずかしくて下を向いたまま顔を上げれない。

すると、大きくてあたたかい胸に抱き寄せられていた。


「その言葉が、ずっと聞きたかった……。ロゼッタ、愛している」


愛されることは望んでいなかったはずなのに、彼を離したくないと思った。心の中では、彼に愛されることを望んでいたのかもしれない。



END




〖番外編 甘い時間〗



王宮に戻って来て、一ヶ月が過ぎた。

まだまだアンディ様は書類仕事に追われていて、一緒に過ごせる時間があまりなかった。


「ロゼッタ不足で、もう頑張れない……」


それでも、時間を作って会いに来てくれる。二人きりになるとすごく甘えてくれて、こんな姿を見せてくれるのは、私にだけなのだと思うと顔がニヤケてしまう。


「アンディ様は、クライドよりも甘えん坊ですね」


ソファーに座っている私の太ももの上に頭を乗せて横になるアンディ様の頭を、よしよしと撫でてあげると、気持ちよさそうに目を閉じる。

本当はものすごく恥ずかしいけれど、一年会えなかった上にたまりまくった仕事を頑張っているアンディ様を、癒してあげたかった。

アンディ様が部屋に来た時は、アビーがクライドを散歩に連れて行ってくれる。たった三十分の、二人きりの時間。三十分と短い時間だからこそ、彼の要望に出来るだけ応えてあげたい。


「クライドは、一日中ロゼッタをひとりじめしているのだから、少しくらいは私だけのロゼッタでいてくれ」


アンディ様の自由に出来る時間は、一時間だけ。午前の三十分は二人きりで過し、午後の三十分は親子三人で過ごす。あまり休める時間がなくて、アンディ様の身体が心配になる。


「クライドに嫉妬ですか?」


「クライドも、男だからな」


冗談のつもりだったのに、思いもよらない答えが返ってきた。

拗ねたように唇を尖らせながら、私の顔を見上げる。


「アンディ様は、分かっていませんね。私が、どれほどアンディ様を想っているのか……。

こんなに胸が高鳴るのは、アンディ様だけです。クライドに、胸が高鳴ったりはしないでしょう?」


アンディ様は手を伸ばし、私の頬に触れた。


「私の胸も、ずっと高鳴っている。だが、不安なんだ。君がまた、私の側から離れて行ってしまうのではと……」


頬に触れている彼の手に自分の手を重ねる。


「もう二度と、アンディ様のお側を離れたりしないとお約束します。だから、安心してください」


アンディ様が望むなら、いつまでも側に居たい。こんなにも自分が、欲張りになってしまうなんて思わなかった。


「じゃあ、約束の証としてキスをして欲しい」


「…………え?」


彼は目を閉じたまま、私からキスをするのを待っている。自分からキスをするなんて、恥ずかし過ぎる。

戸惑いながら彼の顔を見ると、眠っているように見える。そして、あの別れのキスを思い出した。

王宮から出て行く時、私はアンディ様の額にキスをした。その時の感情が蘇り、胸が苦しくなる。

あの時とは、私の気持ちが変わっていた。彼から離れるなんて、考えられなくなっていた。


額にはキスしたくなかった私は、彼の頬にそっとキスをする。すると、彼は唇を突き出した。どうやら、口にしろということのようだ。

私は彼に弱い。ゆっくりと顔を近づけて、ちゅっと唇にキスをした。

上半身を起こすと、彼も起き上がり、


「足りない……もっとだ……」


そう言って甘い甘いキスをされた。

悲しいキスを忘れるほど甘いキスに、頭がぼーっとして来る。


「愛してる、ロゼッタ」


「……私も、愛しています」


たった三十分。彼との甘い時間は、あっという間に過ぎていく。それでも、最高に幸せな三十分。


END




〖番外編 クライド視点……ではなく、アンディ視点〗


僕は孤児院で生まれた。名前はクライド。

孤児院で生まれたといっても、孤児ではない。

僕のお母さんはこの国の王妃で、お父さんは王様なんだそうだ。

今は王宮に戻ってきて、お母さんをひとりじめしてる。お父さんもまあまあ好きだけど、やっぱりお母さんが大好きだ。

お父さんは、僕がお母さんに抱っこされていると、羨ましそうに見てくる。僕からお母さんを奪おうとするなら、僕だって考えがある。


「ばぶばーぶー」


「まあ! クライドが、話そうとしています!」


ふっふっふっ!

これでお母さんは、僕に夢中さ。

お父さんを見ると、悔しそうにくちびるを噛みしめている。僕の勝ちだ。


「話そうとしたわけではなく、君に抱かれて喜んだだけだ。まだ()()()なのだから、話せはしないよ」


負け惜しみ。

お父さんは、お母さんが僕を溺愛するのが嫌なんだ。僕をライバルだと思っている。

でも負ける気はしない。お母さんは、お父さんには渡さない。


「ばぶばぶばーぶー」


「やっぱり、話そうとしているわ! なんて可愛いのでしょう!」


お母さんは、僕だけのものだ………………


なんて、思っていそうだ。


クライドは私とロゼッタの息子で、もちろん愛している。ロゼッタのように、聡明な子に育つに違いない。

だが、心が狭いと言われようが、私はクライドに嫉妬している。

一年……ロゼッタを忘れたことなど、一瞬たりともなかった。彼女を取り戻す為に、一年会うのを我慢した。やっと彼女が王宮に戻ったというのに、一日にたった三十分だけしか彼女をひとりじめ出来ない。

仕事を終えるのが夜中になるから、夜も一緒に眠ることが出来ない日々が続いているというのに、クライドはずっとロゼッタの側にいられる。嫉妬するのは、当然ではないか……


「クライドは、私のことが苦手なようだ」


ロゼッタが抱いている時は嬉しそうにしているクライドだが、私が近寄ると不機嫌そうな顔をする。


「そんなことはありません。アンディ様も、抱いてあげてください」


ロゼッタが私にクライドを抱かせようとするが、クライドは泣き出してしまう。


「やはり、嫌われているようだ」


「赤ちゃんは、人の気持ちに敏感なんです。嫌われているのではなく、アンディ様がクライドと距離を置こうとなさっているのではありませんか?」


確かに私は、クライドにロゼッタを取られていると勝手に嫉妬をしている。こんな気持ちを抱いていては、嫌われるのも無理はない。

大切な我が子で、愛しているのだから、嫉妬するのはもうやめよう。


「クライド、さあおいで」


愛しい我が子を抱き上げ、幸せを実感した。私の腕の中で微笑んでくれる小さな天使。笑うとロゼッタに良く似ていて、余計に愛しさが込み上げてくる。

この子には、私達のような辛い思いをさせたりはしない。小さな私達の天使を、必ず守る。


「クライドは、アンディ様にそっくりです。この子を見ていると、出会った頃のアンディ様を思い出します」


私にそっくり……? それは……


もう一度腕の中のクライドに視線を向けると、ニヤリと悪い笑みを浮かべているように見えた。

これは気の所為だ……きっと、気の所為だと心の中でつぶやきながら、三十分が過ぎていた。


私の腕の中からロゼッタの腕の中に戻ったクライドは、「ケタケタケタ」と笑い声をあげていた。

ロゼッタにキスをされて喜ぶ我が子の姿を見ながら、クライドは最大のライバルだと悟った。



END



最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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