23、再会
王宮を出てから、一年が過ぎた。
最初はどこに行くべきか迷いながら、町を転々としていた。三ヶ月が過ぎた頃、どこかで腰を落ち着かせなければならなくなった。
今は国の東にある小さな村の孤児院で、子供達の世話をして暮らしている。
孤児院の子供達は十五人。私達が来る前は、シスターが一人で子供達の面倒を見ていた。
一年程前から、孤児院に支給される額が増えたと聞いていたのに、この孤児院の子供達は生気が感じられない程やせ細っていた。
小さな村で暮らそうとこの村に来たのだけれど、子供達が心配で孤児院の手伝いをすることにした。そのまま、あっという間に九ヶ月が過ぎようとしていた。
「ロゼッタお姉ちゃん! パンの作り方教えて!」
「わたしも! お姉ちゃんのパン、とっても美味しいんだもん!」
「まあ、嬉しい! では、みんなで作りましょう!」
忙しくて、毎日があっという間に過ぎて行く。
持って来た装飾品は全て売ってしまい、資金が底をついてしまってからは、パンを焼いて村に売りに行っている。
風の噂で、アンディ様が国の改革を進めていると聞いた。孤児院への援助金が増えたのも、アンディ様のおかげなのだろう。けれど、この孤児院の援助金は全く増えていない。この地の領主が、懐に入れていると考えるのが自然だ。
今の私には、何の力もない。日銭を稼いで、子供達の食事を用意するだけで精一杯だった。
焼きたてのパンをバスケットに入れて、村を歩きながらパンを売る。
一人で大丈夫だと言っているのに、レイシアは毎回ついてきてくれる。王宮を出てから、一度も命を狙われたことはないのだから、護衛など不要だ。
「ロゼッタちゃん、パンを一つ頼むよ」
このおじさんは、毎日パンを買ってくれる。
「ロゼッタちゃん、私にも一つちょうだい」
村の人達はいい人ばかりで、孤児院の子供達の為にパンを売り歩いていることを知っていて、私を見かけるといつも買ってくれる。
「誰に許可を得て、商売をしているのだ? 商売をするなら、税を払え!」
この日は、運が悪かったようだ。
村にはほとんど訪れない領主が、視察に来ていた。
領主は鋭い目付きで私を睨み、持っていたバスケットを叩き落とした。
それを見たレイシアは、すかさず臨戦態勢をとる。
「なんだお前? この私に、楯突く気か!?」
レイシアに、手を出さないようにと目で合図をした。
領主は子爵だが、レイシアは侯爵令嬢。令嬢とはいえ、侯爵家の者にとっていい態度ではない。
けれど、レイシアは私と約束をしていた。私と共に来るのなら、身分は隠して欲しいと。
「領主様に楯突くだなんて、滅相もございません。ですが、税を要求なさるのはいかがなものでしょう? この村での売買に関しては、他国から来た商人以外、税を納める必要はないはずです」
小さな村では、他国とのやり取り以外に税は課せられない。村人同士で、畑で取れた野菜を売り買いしても税はかからないというわけだ。
「そ、そんなことは知っている! お前は、この村の人間ではないだろう!? 他国から来た者ではないと、どうやって証明するつもりだ!?」
「私達は九ヶ月の間、この村の孤児院でお世話になっております。もちろん、住民登録も済ませています。一年前から、孤児院への援助金が増えたとお聞きしたのですが、十年前に援助金の支給額が減り、今も同じ額しか入って来ていません。ですから、子供達の食事の為にパンを売っていました。おかしいと思いませんか? 誰かが、援助金を誤魔化しているのでしょうか?」
十年前、今の領主に代わった。
つまり十年もの間、孤児院への援助金を使い込んでいた。子供達の為の大切なお金を、誤魔化すなんて許せない。
「貴様! 誰にものを言っておるのだ!?」
我慢出来ずに言ってしまったけれど、これは殴られるパターンだろう。
覚悟を決めて、目をつぶる……
目をつぶったまま衝撃を待っているのだけれど、一向に殴られる気配がない。
ゆっくりと目を開けると、そこには誰よりも愛しい人の姿があった。