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2、十年ぶりの再会



王宮には、沢山の使用人がいる。けれど、そのほとんどが父の言いなりだ。

王妃になることを引き受けた時、父に一つだけ条件を出した。


「アビゲールを?」


「はい。王宮の使用人は、陛下に味方する者が居てもおかしくありません。信用出来る者を、そばに置きたいのです」


「……そうか、分かった。アビゲールをお前の侍女にしよう」


父は、受け入れた。

彼を守る為に自由に動ける彼女が必要だったこともあるけれど、私自身が彼女にそばにいて欲しかった。



「これからも、ロゼッタ様にお仕え出来ることを感謝しております」


アビーは嫌な顔一つせずに、こんな私について来てくれた。


「ごめんね、アビー。こんな危険なことに、巻き込んでしまって……」


私は、アンディ様を守る為にここに居る。もしも、私の目的が知られるようなことがあれば、アビーも無事では済まない。こんなことに巻き込みたくはなかったけれど、信じられるのはアビーしか居なかった。


「そのようなこと、仰らないでください。ロゼッタ様のおそばに居られることが、私の幸せです」


アビーには、感謝しかない。


「ありがとう。私も、アビーが居てくれて幸せよ。それにしても、この部屋は広すぎるわ」


邸に住んでいた時よりも、広い部屋。大きなベッドに、大きなテーブルとソファー。真っ白で綺麗な模様が施されたドレッサーに、離れの部屋程の広さのクローゼット。


「ロゼッタ様が、あのような部屋に住んでいたことが間違いだったのです。旦那様は、本当に酷いお方です。お優しいロゼッタ様に、陛下の監視をさせるなんて……」


「あの人にとって、母も私も単なる道具。あの人の、思い通りになんてさせないわ」


「ロゼッタ様……」


眉を下げ、心配そうな顔をするアビー。


「そんな顔をしないで? そろそろ、仕事をするわ。陛下に、お茶をお持ちするから手伝ってくれる?」


これは、アンディ様を見張っているのだとアピールする為だ。私がきちんと役目を果たしていれば、父も疑わない。先ずは、父を信用させなくてはならない。


お茶の用意をして、アンディ様が居る執務室のドアをノックする。中から愛しい人の声が聞こえ、鼓動が早くなる。声を聞くだけで、こんなにも胸がドキドキするなんて……自分が思うよりもずっと、彼を想っているようだ。

深呼吸をして中に入ると、私の顔を見たアンディ様があからさまに嫌そうな顔をした。


「何の用だ?」


彼の冷たい声、心臓に針を刺されているようにチクチクする。

こんなことで傷付いていたら、この先やっていけない。彼を好きな気持ちを心の奥にしまい込み、()()()()()()()()を演じなければ。


「お茶を、お持ちしました」


彼が座る机の上に、お茶の入ったティーカップをそっと置く。


「……監視か。私は、そんなに信用出来ないか?」


私の顔を見ることなく、手に持っている書類に目を通している。アンディ様に、決定権はない。それでも、届いた書類に目を通す彼は、やはり一国の王なのだと思った。

両親を殺され、たった十二歳で国王に据えられて、父の操り人形にされた。逃げ出したいとは、思わなかったのだろうか……


「これは、私の仕事です」


彼の命を守りたい。

父は、必ず私が破滅させる。それまでは、自分の身を守ることだけを考えて欲しい。


「監視が仕事……か。今の私に、何が出来るというのだ……? 私は、王という名の、ただの人形だ。息をすることさえ、お前の父親に許可をもらわなくてはならないのか?」


怒りを宿した瞳で私を見た。十年振りに彼の目に映ったというのに、彼からは憎しみしか感じ取れない。

愛する人に、ここまで言わせてしまうほど、私の存在が彼を追い詰めているのだと分かっている。たとえ彼に、どんなに憎まれようとも私は……


「どうか、何もなさいませんようお願いいたします」


平静を装いながら、執務室から出て行く。


上手く……演技が出来ていただろうか……


閉めたドアに寄りかかり、はぁ……と、ため息をつく。愛する人のそばに居られることが、幸せなのだと思っていたこともある。けれど今は、そばに居るのがツライ……


どんなにツラくても、王妃になると決めたのは私だ。強くならなくてはならない。ツライのは、私だけじゃないのだから。


深呼吸をして、執務室から離れる。その後を、執務室の前で待っていたアビーが、何も聞かずについてくる。


この王宮は、すごく冷たい空気が漂っている。

アンディ様には、味方がいるのだろうか? 彼のそばに、信頼出来る臣下はいるのだろうか?

護衛でさえ信頼出来ないこの王宮で、彼はひとりぼっちだ。


自室に戻り、父に手紙を書く。内容は、監視の報告。

『陛下は、何もせずに机に向かって座ったまま一日を過ごしている』そう、手紙には書いた。書類に目を通していたことを、報告するつもりはない。アンディ様が書類を見たところで、何か出来るわけではないけれど、些細なことでも命取りになりかねない。


私はこの王宮で、信頼出来る者を見つける。父に不満を持つ者が、必ず居るはずだ。少しずつ、アンディ様に忠誠を誓う味方を増やし、父の権力を奪う。


アビーに、王宮で働く者の名簿を作るように頼んだ。存在している名簿では、信用出来る内容なのか分からない。私にあまり近付いて来ない者から、調べるように頼んだ。

ブルーク公爵の娘である私に近付いて来ないということは、父をよく思っていないのではと考えたからだ。


最初に候補に上がったのは、デイモン・ドリアード侯爵。アンディ様の、護衛隊長だ。ドリアード侯爵の父親は、先王様に忠誠を誓っていた。ドリアード侯爵の父親が亡くなり、侯爵が父に忠誠を誓ったことで、彼は護衛隊長に抜擢された。彼は元々、騎士団長を任されるほど腕がたつ。父は、いつでもアンディ様の命を奪うことが出来るとしらしめるために、ドリアード侯爵を護衛隊長にしたのだろう。

だけど私は、ドリアード侯爵が本気で父に忠誠を誓ったとは思えなかった。彼の父親は、真面目で実直な性格だったと聞いたことがある。その息子が、父のような人に尽くすとは思えない。

彼が味方になってくれたなら、アンディ様の身を守ってくれる。彼の行動を観察し、少しずつ接触することにした。


ドリアード侯爵を味方につけようと動き出した時、義母であるサーシャが王宮へ私を訪ねてきた。



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