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14、全てを知った後



初恋の相手がロゼッタだと気付いたことで、全て納得がいった。そして、自分がどれほど彼女を傷付けていたかを考える。


「私は、最低だ……」


「そのようなことはありません。ロゼッタ様は、陛下に愛されることではなく、憎まれることを望んだのです」


そうドリアード侯爵に言われても、アンディの気持ちが楽になることはなかった。

あの日のことを思い返すと、ロゼッタの切なげな瞳が目に浮かぶ。自分の父親がブルーク公爵だと知られることを恐れ、名前を偽ったことも納得がいく。

なぜ気付けなかったのかと、何度も自問自答する。


「……ところで、お前はリジィが初恋の子ではないと知っていたのだな」


目を細めて、ドリアード侯爵を睨む。

それは、当たり前の反応だ。愛する人だと宣言し、周りに周知させたのはブルーク公爵がリジィに手を出さないようにする為だった。

国王が愛する側室を排除しようとすれば、ブルーク公爵の仕業だとすぐに分かる。反乱を起こす者が現れないように大人しくしているブルーク公爵が、わざわざ自分を追い詰めるようなことはしないと考えてのことだった。

だが、リジィが初恋相手ではないと初めから知っていたら、話は違って来る。


「申し訳ありません。リジィ様が、ブルーク公爵夫人と繋がっていたこともあり、お二方を追い詰めるには黙っていた方がいいと判断しました」


元々、アンディへのドリアード侯爵からの報告は、最小限だった。

侯爵はアンディに命じられ、ブルーク公爵に忠誠を誓った演技をしていた。怪しまれないようにしなければならなかったこともあり、必要最低限の連絡しか取らないようにしていたのだ。


「私に、デイモンを責める資格はないな。リジィがあの時の少女だと思い、側室にすると決めたのは私なのだから。だが、そのせいでロゼッタを余計に苦しめてしまった」


思い出せば思い出すほど、ロゼッタを傷付けた自分が許せなくなる。


「陛下、どうなさいますか?」


「決まっている。お前は、気に入らないだろうがな」


「私は、ロゼッタ様を嫌っているわけではありません。むしろ、幸せになって欲しいと思っています。ですが、ロゼッタ様にお話しするのはもう少しだけお待ちいただきたいのです」


「どういうことだ?」


「私が陛下のご命令で動いていた事は、誰も知りません。ロゼッタ様はもちろん、ブレナン侯爵にも話してはいません。今、ロゼッタ様はブレナン侯爵を味方につけようとなさっています。ロゼッタ様お守りしたいのでしたら、ロゼッタ様が陛下の為に動いているのだと知っていただくことが一番かと」


ロゼッタが実の父を本気で排除し、アンディの為に尽くしていることを臣下達に認識させることが、ブルーク公爵の娘であるロゼッタを守る方法だと侯爵は考えた。

それだけではなく、ロゼッタはアンディを守る為なら自分がどうなってもいいと思っている。その真心が、ブレナン侯爵の気持ちを動かすと考えていた。


「ロゼッタを守る為……か」


侯爵の話は、納得出来る。

だが、これ以上ロゼッタを苦しめたくないという気持ちもある。

しばらく考え、アンディは答えを出した。


「……分かった」


ブルーク公爵を排除し、公爵が大罪人となれば、ロゼッタは大罪人の娘となってしまう。

彼女を守る為に、彼女が国を救ったのだと知らしめる必要がある。


「陛下、もう一つ……リジィ様にも、陛下が全てを知っていることを気付かれてはなりません。リジィ様はロゼッタ様に、自分の本性を誰かに話したら、陛下をお慕いしていることをブルーク公爵に話すと脅しています。陛下が知っていることをリジィ様に気付かれたら、ロゼッタ様の身が危うくなるかもしれません」


侯爵は、ロゼッタよりもアンディの身が危険なことはあえて話さなかった。自分の身が危険になるからと、我慢出来る状態ではないと判断したからだ。それほど、アンディの様子がいつもと違っていた。


◇ ◇ ◇


「アンディ様、今日の料理はいかがですか?」


侯爵に言われた通り、アンディはリジィといつものように夕食を食べる。

心の中では、腸が煮えくり返るほど怒りでいっぱいになっている。だが、ロゼッタの安全の為だと自分に言い聞かせ、笑顔を作る。


「美味しいよ。本当に美味しくて、止まらなくなる」


今日のメインは、牛ヒレ肉のパイ包み焼き。


「お肉をパイ生地に包んでみました!」


見たままなのに、自信満々でそう言いながら、褒めて欲しそうにアンディを見つめる。


「リジィは、何でも出来るのだな」


心の中で怒りを覚えながら、楽しそうに微笑む。ひきつりそうになるのを、必死で誤魔化しながら、食事の時間を終えた。



「アンディ様、お待ちください!」


執務室に向かおうと席を立ったアンディに、リジィは駆け寄る。


「何だ?」


振り返ると、リジィは寄り添うようにアンディの腕に手を回す。

その手を振り払いそうになったが、何とか平静を装うことが出来た。


「今夜は、私の元に来てくださいますよね?」


色仕掛けしているつもりなのか、腕に胸を押し付けながら、瞳をうるうるとさせて上目遣いでアンディを見る。


「リジィ……悪い。当分は、君の元へは行けない。側室の私室にばかり足を運んでいては、君の身が危険になってしまう。我慢してくれ」


やんわり断ってはいるが、アンディの心の中では『汚い手で私に触れるな!』と連呼されていた。



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