12、動き出すアンディ
翌朝、朝食を作る為に早めに起きたつもりだけれど、すでにアンディ様の姿はなかった。
アンディ様が居なくて、少しホッとしてしまう。
部屋に戻ると、アビーから手紙を受け取った。
手紙の送り主は、ドリアード侯爵。リジィの目が、どこにあるか分からない。会うのは危険だと判断し、手紙でやり取りをすることにしていた。
すぐに手紙を読み始めると、リジィの目的と黒幕が書かれていた。
「なんて書かれてあるのですか?」
顔をしかめながら手紙を読む私の様子を見たアビーが、心配そうにこちらを見ている。気付かなかったけれど、ものすごく怖い顔になっていたようだ。
「リジィは、お義母様と繋がりがあったわ」
リジィは、義母に言われてアンディ様の側室になったようだ。あんなに子供を欲しがっていたのは、自分に子供が出来たら私を殺すつもりだったのだろう。そして、アンディ様の命も……
王妃になりたがっていたほど、権力を欲している義母。ブルーク公爵の妻では、納得がいかなかったようだ。
「……どうして皆、自分のことばかり考えるのかな? 権力ほど、虚しいものはないのに……」
権力を欲している者に、権力を手にする資格なんてない。
このことを父が知ったら、義母も、義母の実家も許さないだろう。父に知らせるのは、まだしない。近しい者の裏切りを知り、父に警戒されたら困るからだ。ドリアード侯爵も、同じ意見だった。
個人的には、アンディ様のことを考えると、リジィにはすぐにでも王宮から出て行って欲しい。けれど、その先のことを考えると今のままが一番安全だった。
ドリアード侯爵の手紙には、ブレナン侯爵についても書かれていた。アンディ様の暗殺未遂に関わっていたのは、ブレナン侯爵他六人の侯爵と三人の伯爵、五人の子爵だった。まさか、これほど多いとは思っていなかった。それほど、父の独裁が許せないのだろう。そんな方々が、私を信じてくれるとは思えないけれど、私は一人一人丁寧に手紙を書くことにした。
朝食の支度を終えて私室に戻ると、リジィのことを話してくれたメイドの姿があった。
「今日から王妃様の侍女になりました、サナと申します。王妃様に、誠心誠意お仕えさせていただきます!」
「あれから、リジィに何もされなかった?」
「はい、大丈夫でした。私のような者を気遣ってくださり、ありがとうございます」
緊張しているのか、頭を下げたままのサナ。
「サナ、何か困ったことがあったら、何でも話して。私はサナと、仲良くなりたい」
「王妃様……ありがとうございます!」
王宮に来た時は、信用出来るのはアビーしか居なかった。今は、ローリーにドリアード侯爵、そしてサナと、沢山の味方が増えた。
ブレナン侯爵を味方につけることが出来たら、行動を開始する。
◇ ◇ ◇
「今日の料理はいかがですか? アンディ様のお口に合えばいいのですが」
食堂で、いつものように食事をするアンディとリジィ。
ロゼッタが作っているのに、リジィは悪びれもせず自分が作っているように話しながら頬を赤らめている。
「美味しいよ。この料理は、どのように作るんだ?」
「え……」
そんなに難しい料理ではなかった。
アンディが今口にしているのは、ポトフ。それでも、リジィは答えることが出来ない。
アンディは、リジィが作っていないことに気付いていた。ロゼッタの淹れたお茶を飲んだ時に、料理はロゼッタが作っているのだと確信していたのだ。
「あの……野菜とお肉を煮込みました」
誰が見ても、分かる説明をするリジィ。料理など作ったことがないのだから、詳しい説明など出来るはずがない。
「優しいな、リジィは。私に分かるように、簡単に説明してくれたのだな」
優しく微笑むアンディの顔を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「そんな……優しいだなんて……」
顔を隠しながら、照れている素振りをしているが、内心は心臓がバクバクしていた。料理の作り方など、聞かれるとは思っていなかった。
上手く誤魔化すことが出来たと思っているリジィは、笑顔で食事を続けた。
仕事をする為に執務室へと向かったアンディだったが、執務室へは行かずに私室に入った。そこには、ドリアード侯爵が待っていた。
「デイモン、知っていることを全て話せ」
ドリアード侯爵は、最初からアンディの忠実な臣下だった。