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10、アンディの変化



「……私は、ずっとリジィになりたかった。あなたのように、誰からも愛される可愛らしい女の子になりたくて……」


私のせいだということを知り、頭が真っ白になる。自分でも、何を言っているのかわけがわからなくなっていた。


「王妃様は、ずいぶん贅沢ですね。私になりたい? 冗談じゃない! 王妃様は、何でも持っているではありませんか! 公爵令嬢で、欲しいドレスも我慢したことなんてないのでしょう? しかも、あのブルーク公爵家。アンディ様の心まで奪って、今は王妃様。誰もが羨む人生ではありませんか!」


彼女は、本気でそう思っているようだ。リジィとは、求めるものがまるで違う。


「アンディ様から、離れて。今のあなたを、アンディ様がお知りになる前に」


リジィの本性を知ったら、どれほどアンディ様が傷付くか……。彼を傷付けることは、許さない。


「王妃様、そのようなことを仰ってよろしいのですか? 王妃様がアンディ様をお慕いしていらっしゃることをブルーク公爵はご存知なのですか?」


自分の邪魔をすれば、アンディ様のお命が危うくなるという脅しだ。

ペラペラと自分のことを話したのは、私には何も出来ないと思っていたからのようだ。それでも、あのメイドが話してくれていなかったら、リジィの本性を知ることはなかった。


「あなたの目的は何? どうしてわざわざ、私に話したの?」


「私は、アンディ様の子が欲しいのです。それなのに、アンディ様は子が出来るとその子の命が狙われるからと、私を抱こうとしないんです。王妃様から、子が出来ても命は狙われないと説得していただけませんか?」


とっくにそういう関係になっているのだと思っていたけれど、二人はまだ一線を越えてはいなかった。

まだ見ぬ我が子を危険な目にあわせたくないから子を作らないなんて、アンディ様らしい。


「子の命が狙われるのは、本当のことよ。父なら、邪魔なものは排除するわ」


「そんなこと、構いません。子など、いくらでも作ればいいではありませんか」


そう言った彼女の顔は、全く悪気がないように見える。つまり、本気で言っているようだ。


「あなた……人間じゃないわ! 子を守れないなら、母になる資格なんかない!」


彼女が親になるなんて、考えたくもない。


「資格などいりません。アンディ様を説得してください」


足を組み直しながら、いつもの天使のような微笑みを見せるリジィ。この笑顔に、二度と騙されたりしない。


「私達は、対等なはずよ? 私もあなたも、知られたくない人がいるのだから」


リジィは少し考える素振りを見せた後、ソファーから立ち上がった。


「それもそうですね。今回は、諦めます。ですが、私は絶対にアンディ様の子を産みます。邪魔はなさらないでくださいね? では、失礼します」


あっさり納得したところを見ると、まだ何かを隠しているのだと思う。けれど、私も全てを知られたわけではない。


リジィと入れ替わりで、アビーが部屋の中に入って来た。


「ロゼッタ様、大丈夫でしたか?」


「ええ、大丈夫よ。先程のメイドのことを調べてくれる? 問題がなかったら、私の侍女にするわ」


私の侍女ならば、リジィが簡単に手を出すことは出来ないだろう。


夕食が終わり、いつものように執務室にいるアンディ様にお茶を持っていく。リジィのことがあったからか、アンディ様にお会いするのが憂鬱だ。私がリジィだと偽ったことで、彼がリジィと関わることになり、勘違いから彼女を愛してしまったのだとしたら、とんでもない悪女をアンディ様の人生に関わらせてしまったことになる。アンディ様の幸せだけを願っていたのに……


それでも、監視をしていると父に思わせる為にはお茶を持って行かなければならない。執務室の前に立ち、ノックをして中に入る。


「……お茶をお持ちしました」


私に視線を向けないのはいつものことだけれど、今はそれがありがたい。


「毎日毎日、ご苦労なことだ」


そう言うと、アンディ様はティーカップに手を伸ばし、私の淹れたお茶を一口飲んだ。

いつもは、私の淹れたお茶に手を付けることはないのに……

予想していなかった出来事に動揺し、その場から動くことが出来ない。


「…………このお茶は、お前が淹れたのか?」


アンディ様の視線は、お茶に向けられている。今顔を見られたら、動揺していることが分かってしまうだろう。急いで冷静さを取り戻し、「はい」と返事をした。


「そうか……。そろそろブルーク公爵も、文句を言って来るかもしれないな。今日は寝室に行くから、王妃もそのつもりでいろ」


確かに、側室の私室に通ってばかりいては、父がよく思わないだろう。前に義母に、早く子を作れと伝言を頼んだ程だ。けれど、いつもなら私が言っていた。まさか、アンディ様からそう言われるとは思ってもみなかった。

もしかしたら、リジィに子が欲しいと言われることが辛いのかもしれない。


「分かりました。では、失礼します」


アンディ様が視線を上げた時には、冷静な顔に戻れていたと思う。その顔が崩れる前に、私は執務室を後にした。



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