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贄の令嬢はループする  作者: みん
❋新しい未来へ❋
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狂った竜

いいね、ありがとうございます。

「メザリンド嬢の場合は、女性側が媚薬を盛られたから、“お嬢様に誘われた”と、使用人であった男が言えば、自分が仕える家の令嬢に誘われたら断れない─と言う事になるものね?痕跡の残らない媚薬を使ったのも…計算のうちだったのよね?」

「………」


証拠は無い筈。今ニノンが言った通り、痕跡の残らない媚薬を選んだのだから。それに、一般に出回っている媚薬で、どこで誰が購入したのかなんて、調べられても分からない。


「でも…エヴェリーナ様に飲ませようとした媚薬は、そんなモノとは訳が違う物。アレを使うと言う事は、その相手を廃人同然になっても良いと言う意思があったと言う事よ」

「廃人!?それ…は……」

「あら、王子様は知らなかったの?貴方がエヴェリーナ様に盛った媚薬は、禁止された薬物が入っている禁忌の媚薬で、裏ルートでしか手に入らない物なの。副作用があって、アレを本当にエヴェリーナ様が口にしていれば………廃人になっていたでしょうね。まぁ…そうなってしまってでも欲しかったのなら……問題は無かったでしょうけど……」

「廃人?そんな事は……何も…………ジュリー…それは、本当の事なのか?」

「………」

「答えないと言う事は、本当の事だったんだな…有り得ない!私は…リーナを廃人になんて!お前は、そこまでして…リーナを殺そうと────!一体、()()リーナを殺せば気が済むんだ!」


ー“()()”?ー


「あ───っ!ゔ───っ」


ギリッ─と、音を立てるように、ハロルドが私の首を締め付けてきた。


ーたす……けてー


助けを求めて、出ない声の代わりに、鉄格子の向こう側に居るニノンに手を伸ばす。


「さて…どうしようかしら?私としては、このまま見過ごすのも良いのだけど…()()()のよね……」


人差し指を顎に当てて、愉快そうな顔をして私を見下ろしながらブツブツと呟くだけで、私を助けようともしないニノン。その間も、ハロルドはギリギリと私の首を締め付けてはいるが、私に止めを刺す程の力はなく、ただただ私だけが苦しくて痛くて─────


「そんな痛み、エヴェリーナ様が味わった痛みとは、比べ物にならないけれどね…………ジュリエンヌ=トワイアル……じゃないわね。もう、()()()ジュリエンヌだったわね。今の痛みや苦しみを、しっかり憶えていなさい。そして、これからの事は、己自身の行い故の事だと……自覚する事ね」


ー何を…言っているの?ー


「それじゃあ……さようなら」


ニノンがニッコリ微笑んでパチンッと指を鳴らすと同時に、ハロルドが私の上に倒れ込み、私の意識もそこで途絶えた。










******



『グルルルル……』

「────?」


ー何かの音?声?がする?ー


体が痛い。ベッドではなく、床に寝転んでいる?あれから、ニノン(あの女)は私を助けず、そのまま放置されているのかもしれない。本当に……嫌な女だ。

体は重くて身動きがでず、重い目蓋をゆっくりと開ける。すると、真っ白な天井が目に入った。ここ最近よく目にしていた天井だった。ここは…竜王国王城奥にある神殿。私は黒龍の巫女になる筈だったから、大神官様が助けてくれたのかもしれない。そう思うものの、体は重くて動けず視線だけで辺りを見回すと──

私の横に、目を瞑って横たわっているハロルドが居た。


ーえ?ー


さっきまで私を殺そうとしていたハロルド(本人)が、何故私と一緒に居るのか。


『グルルルル……』


ーこの音?声?は何?ー


「───っ!?」


「あぁ………ようやく目が覚めたか?」


ーフィリベール様!?ー


「想い合った2人を一緒にしてやったが……どうやら仲良くできなかったみたいだな。まさか…馬鹿王子がお前を殺そうとするとは……2人の愛とは、脆いモノだったんだな」


ー私達の間に愛なんてないわ!ー


「さて…お前がエヴェリーナに飲ませようとした媚薬の事だが、アレを、竜人に使うとどうなるか…知っているか?」

「………」

「知らないのなら、教えてやろう─アラール!」


フィリベール様が宰相のアラールの名を呼べば、この部屋の奥にある大扉が開かれ、その大扉の奥から現れたのは──


大きな大きな赤色の竜だった


『グルルルル……』

「──っ!?」


叫びたくても声がでない。逃げたいのに体が言うことを聞かず、指一本すら動かせない。


「この竜人は、人間(ひと)族の者にあの媚薬を盛られて依存症になり、廃人同然になった竜人だ。完全に理性を失ってしまった故に、人型になる事ができなくなった……いや、自分が竜()である事を忘れてしまった……狂った竜だ。」


よく見ると、両手両足に枷が嵌められている。

『グルルルル……』と小さくて呻いている口からは、時折火の粉が飛び出している。竜力を制御し切れていないのだ。


カシャン─


「知っているか?竜人は食べる事はないが……()()()竜は、食べる事があるんだ」


ー食べる?何…を…?ー


カシャン─


「俺も…四度………食べてはいないが……口にしてしまった事がある」


カシャン─


「贄を…………噛み殺してしまった事が………」


カシャン─


ーなっ!?ー


『グォォォォォーッ』


赤色の狂った竜に嵌められていた筈の枷が全て外れ落ち、その竜が大きな唸り声をあげた。


そして、その竜と視線が合った。


ーあ……ー


その竜が私の目の前までやって来て、躊躇うことなく、その大きな口を開けて───



視界が真っ暗になり、私の意識はそこで途絶えた。



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