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贄の令嬢はループする  作者: みん
❋ループ編❋
6/83

二度目の始まり

黒色の大きな体。その瞳の色も黒。

それが、口を大きく開けて─────


ー誰か………助けて!ー











「お嬢様!」

「いや────っ!?て…あれ?ワイアットじゃなくて……ジョリー??」

「はい、ジョリーですよお嬢様。魘されてましたけど、大丈夫ですか?」


ーえ?ー


ここは……私の部屋の寝室だ。


ーあの竜は?夢…だった?ー


「先に何か、お飲み物でもお持ちしましょうか?それとも、()()に着替えますか?」

「せい……ふく?」

「そうですよ?お嬢様ったら…まだ寝ぼけているんですか?今日は週明けで、学園に行く日ですよ。」

「週明け?学………園?」


確かに…週明けだけど……学園に行けるような気分でも状況でもないから、父達が帰って来る迄は学園は休んだ方が良い─と、ワイアットと話して決めた…よね?それを、私の侍女のジョリーが知らないなんて事が有り得る?


「それとも、今日届く予定のドレスが気になって、学園の事を忘れていたんですか?」

「……ドレス?」


確かに、2ヶ月後の卒業パーティーで着る予定のドレスを注文してはいるけど、出来上がりはまだ先だった筈。それ以外に注文したドレスなんて……無かった筈。そもそも、その卒業パーティーに参加する事ができるのかどうか……。


「第二王子のお誕生会に着ていくドレスですよ!それも忘れていたんですか?」

「………第二王子…の……お誕生会?」


ーハロルド様の誕生会は、半年前に終わったよね?ー


「もう…お嬢様は、本当に王子様には興味が無いんですね。数多くの令嬢が、()()()()()()()()()を狙っていると言うのに。」


ーえ?ー


“王子様の婚約者の座”───


ジョリーとの会話が、噛み合っているようで噛み合って無い。


「えっと…取り敢えず…制服に着替えるわ。」

「分かりました。」


ジョリーはそれ以上は何も言わず、いつも通りに学園に行く準備を始めた。










******



「一体……どうなっているの!?」


あれから留守にしていた筈の両親と兄と朝食をとり、いつも通りに馬車に乗って学園に行けば、少し幼くなった?ようなフルールに会い、一緒に向かったのは……高等部の1年生の教室だった。


学園には長くて6年。短くても3年通わなければならない。長い場合は、中等部からの入園で13歳から15歳。高等部が16歳から18歳となっている。中等部では、勉学や貴族としての基礎を学ぶ為、高位貴族であればあるほど、高等部からの3年だけ通う場合が多い。私もフルールも、高等部からの入園だった。



そう。何故か分からないけど……16歳…しかも、ハロルド様の誕生会よりも少し前の時に戻っているのだ。

と言う事で、私とハロルド様は婚約していないし、私の体に傷痕も無い。


ーひょっとして、今迄の事が夢だった?ー


「………」


ふるふると頭を振る。ハッキリと覚えている。

あの竜が大きく口を開けた後に襲われた…あの痛みを。


噛み付かれたのだ。


あの女性?が“贄”と言った通り、私は、あの竜の贄にされたのだろう。ただ、竜が人間(ひと)を贄として食べるなんて事は聞いた事がない。それとも……秘匿された儀式の様なものなんだろうか?





『わた──の───い。』


『───どうか………正しい路に……』


『でなけ────から。────どうか……』





薄れゆく意識の中微かに聞こえた声は、一体誰の声だったのか。とてもとても…か細い声で、ハッキリとは聞こえなかったけど……


“正しい路”─とは?


その言葉通り、正しい路に戻す為に…時間が戻った?何が間違っていて何が正しいのか…分からない事だらけだ。ただ一つ言える事は……


もう、二度と贄になんてなりたくない──だ。


これが、時間の巻戻りと言うのなら、これから起こる事を知っている私なら、色々と回避できる。もう、あんな思いをするのは……。


先ずは、ハロルド様の誕生会での事件だ。あそこで、私がハロルド様を庇って怪我をしなければ、婚約するなんて事はないし、私も怪我をしなければ、普通に恋愛や結婚ができる。できれば、ハロルド様をはじめ、王族とは関係を結びたくない。そうすれば、留学生としてやって来るジュリエンヌ様とも関わらずに済むだろう。王族同士、2人仲良くすれば良い。


「…………」


それでもやっぱり…胸はチクチクと痛みを訴える。

一方的な婚約破棄宣言。私の言葉を聞こうともせず、ジュリエンヌ様の言葉を信じたハロルド様。

でも、私に向けてくれていた優しい眼差しのハロルド様も居た。そんなハロルド様が好きだった。


「ハロルド様………好き……でした………」


二度目?の人生、この想いには蓋をする。


目標は、ハロルド様の婚約者にならない事。

あの竜の贄にならない事。

新しい恋を……する事。


それが“正しい路”かどうかは分からないけど、自分の為に頑張るしかない。そのうち、もう一度、あの時の声を聞くことができれば良いけど……。





そうして、私の二度目の人生が始まった。








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