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贄の令嬢はループする  作者: みん
❋新しい未来へ❋
56/83

結んだ縁

いいね、ありがとうございます。

*ジュリエンヌ視点*



「今日は、騎士団の訓練場に行って、実際怪我をした竜騎士の治療をおこなってもらいます」

「分かりました」


ーようやく、フィリベール=スコルッシュに会える機会がやって来たわー


竜王国にやって来てから10日。その間は訓練場どころか王城にすら行けなかった。ここに来て直ぐに敷地の最奥にある神殿に連れて行かれ、毎日早寝早起きをして巫女の訓練とやらをさせられた。

毎日どれだけ訓練をしても、私の魔力が増える事も強くなる事もなかった。

今の所、小さな怪我であれば直ぐに治す事ができるが、大きい怪我は時間差で発動し、その怪我を完璧に治す事はできない。


「このまま魔力の質が変わらないようであれば、黒龍の巫女としては認められない─と言う事になります」


とほざいたのは……マリーとか言う巫女だったかしら。ベテランだと言う黒龍の巫女2人は、私がトワイアルの王女だと理解していないのか、私に気を使う様子が全く無い。大神官アルピーヌもそうだ。しかも、私を黒龍の巫女として認めようとする気配が全く無い。本当に気に食わない3人だ。


兎に角、竜王国に居られるのは残り2週間。その間にフィリベール=スコルッシュと縁を作らなけれは、また1年も無駄にトルトニアで過ごす事になる。


()()を、常に持っておかないとねー








「ありがとうございます」

「いえ…」


竜人は基本体が大きい。竜騎士ともなれば、鍛えているせいか、更に大きく見える。正直、暑苦しい程に…。ただ、怪我をした殆どの竜騎士は、ベテラン巫女2人の元へ行ってしまう為、私は2人の輔佐をしているようなものだった。たまに竜騎士が来たと思えば、本当に軽い…掠り傷のようなモノで、あっと言う間に治す事ができた。それを不思議に思っていると


「竜人は、相手の力量を見極める能力に長けているから、自分の怪我の具合を見て、その怪我を誰が治せるのか…自分で判断しているんです。この意味…判りますか?」

「───っ!?」


侮辱だ────


私は、アルクシェリア女神の遣い龍が治める竜王国を守護する国、トワイアル王国の王女だ。その王女に向かって───


「マリー、治療を頼────みます」

「……はい」

「──っ!」


スラッとした体格の高身長。黒髪に……濃藍色の瞳。


フィリベール=スコルッシュ──だ。



一目で分かる。他の竜騎士とは全く違う存在感を放っている。間違いなく、竜王と接点のある者だろう。顔も、絵姿のままの美男子で私好みの顔で、私に釣り合っている。竜王妃の座が無理なら、この竜騎士の伴侶でも…良いかもしれない。


見た感じ、大した怪我ではない。


「あの……私が治療しても…構いませんか?」

「…あなたは?」

「私、巫女見習いのジュリエンヌと言います。今日は、治癒の実地の訓練を兼ねて来ています。ですので…」

「…………なら……貴方に……頼みましょう……」


少し戸惑いながら差し出された腕を見ると、私にでも治せる程の軽い怪我だった。

治療に入る前に、ポケットに忍ばせていた()()の入った瓶の蓋を開けて、自身の手に液体を付けた。


「失礼します」


そして、そのままその手で治療を始めた。


「────っ」


暫くすると、その竜騎士─フィリベールの息が少しだけ荒くなった。それと同時に、治療が終わり、怪我は綺麗になくなった。


「終わりました」


そう言って、ニッコリ微笑みながらフィリベールを見上げると、彼もまた、ニッコリ微笑んで私を見つめていた。その濃藍色の瞳には、何か強い意志のような熱が見えた。

()()に反応したんだろう。エヴェリーナとか言う女と婚約しているとは言っていたが、お互い心は通い合わせていなかったようだ。フィリベールは、その婚約者より、私を選んだ─と言う事だ。


「ありがとう…。また…貴方に……会える日を………」


フィリベールの腕に添えていた私の手を、スルッと一撫でしてから、また訓練場へと戻って行った。


ーこれで、彼と私の縁を結ぶ事ができたー


後数回()()を使えば、フィリベールは完全に私に落ちるだろう。そうすれば、フィリベールは私のモノになり、棄てられたエヴェリーナは……


ハロルド(顔だけ王子)が拾ってくれるわ」


ー本当に…男は単純で馬鹿で愚かで…可愛らしいー


緩んでしまいそうになる口元に力を入れて耐え、マリーとアルマの元へと戻り、私はまた訓練へと意識を向けた。







全ては私の思い通りに進んでいる─と、信じて疑う事などしなかった。



これが、私の─()()の終わりの始まりになるとは思わなかった。



フィリベール=スコルッシュが、満面の笑みを浮かべていた事など、全く気付かなかった。




彼こそが……敵に回してはいけない……手を出してはいけない存在だったのだ。








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