フィリベール①
いいね、ありがとうございます。
「エヴェリーナ様は、四度も黒龍に噛み殺されてますから。トラウマになってない─とは言い切れません。ですから、少しずつ、距離をつめて行った方が良いかと…」
ニノンの言う通りだと思った。
今でもハッキリと覚えている。
番を噛んだ感触
俺の腕の中でぐったりとしている番の重み
竜化した俺の手で掴んだ時の小ささ
殺した側の俺でさえ、未だに恐怖を感じる事もあるのだから、番として受け入れてくれたとしても、フィリベール=スコルッシュではなく、改めて黒龍として対面した時、エヴェリーナがどんな反応をするのかは……本当に分からない。
ただ、竜心が吸収されて消えた時は、もう死んでも良いぐらい嬉しかった。
ー絶対死なないがー
思わず抱きしめてしまった。
抱きしめたエヴェリーナは……温かかった。ただそれだけで、泣きそうになった。生きて、俺の腕の中に居るんだ───と。抱きしめし過ぎて「死ぬ」と言う言葉がエヴェリーナの口から出た時は焦ったが、それでも離す事はできなかった。
その後、エヴェリーナが倒れてしまった事で、ニノンとイロハに無理矢理離されてしまったが……。
「フィリベールさん、暫くの間はリーナとは距離を置いて下さいね。リーナは、この短期間で色々な変化があって、心が追いついていない可能性がありますからね。様子をみながら、距離を縮めて行った方が良いと思います」
そう言ったのは、異世界からやって来た大聖女イロハだ。過去の出来事を知っている者の中で、唯一の人間族。だからか、エヴェリーナとイロハは気が合うようで、2人はとても仲が良い。考え方や価値観が似ているのかもしれない。
人間からすれば、番がどんな存在なのか…イマイチ分からないんだろう。一時だって離れたくないぐらい愛しくて大切な唯一無二な存在。
そんな番を……四度も自らの手(正しくは“口”だが)で殺めた。自分でも、よく精神が壊れなかったな─と思う。それも……父上と母上のお陰だろう。
自分が亡くなる迄、「俺を愛している」と言い続けた母上。その母上の気持ちを最優先して俺に愛情を注いでくれた父上。番を喪っても我を失わなかった父上は、本当に素晴らしい父であり竜王でもあった。俺は、そんな両親に恥じないような…竜王になりたい。
そして、五度目の今世では、必ずエヴェリーナを幸せにする。勿論──
あの2人には────
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「フィリベール!!ついに来たよ!」
「伯父上?何が来たんですか?」
1年程前のある日、竜王の執務室に飛び込んで来たのは、母上の兄のアリソン=ガーナード。ニノンの婚約者でもある。
「これを……」
「?」
手渡されたのは、竜王国の学園宛の手紙だった。その手紙を開封すると、何故か懐かしいような香りがした。
手紙の内容は、お決まりの挨拶から始まり、竜王国の学園に留学したい。ギリギリの申請になり申し訳ありません。どうか、宜しくお願い致します──
「────“エヴェリーナ=ハウンゼント”!?」
「そう!ハウンゼント嬢だ!彼女が、竜王国に留学したいと、今朝、この手紙と共に申請書が届いたんだ。ようやく……未来が変わって来た」
五度目にして、ようやく、あの女よりも先にエヴェリーナに会える。
ただ、竜王国への留学のレベルは他国に比べて高い。喩え、エヴェリーナが竜王の番だとしても、そのレベルがなければ受け入れる事はできない。
ー兎に角、レベルがなければないで、他に策を練れば良いかー
伯父上は学園のルール通りにエヴェリーナに課題を送った。その結果、エヴェリーナは実力で留学のキップを手に入れた。
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「私は、エヴェリーナ=ハウンゼントと言います。こちらこそ、宜しくお願いします。」
ニコリと微笑んで軽く頭を下げると、ブルーグレーの髪がサラリと肩から滑り落ちた。そして、次に顔をあげると…そこには──ラベンダー色の瞳があった。
ーようやく、この瞳に俺が映ったー
今すぐにでも抱きしめたい
今すぐにでも連れ去りたい
今すぐにでも閉じ込めたい
色んな欲望が顔を出し───そうになる度に、イロハとニノンから……殺気を飛ばされた。
可愛いしかないエヴェリーナ。エヴェリーナが微笑む度に…顔と気持ちが緩んでしまわないようにグッと顔に力を入れる。
「そうなんですね。では……スコルッシュ様、私の事は“エヴェリーナ”と呼んで下さい。これから3年間お世話になるので……仲良くしてもらえると…嬉しいのですけど……。」
ーぐっ…まさかの名前呼びの許可!喜んで!ー
「─────っ!も……もち……分かりました。では、俺の事も………………“フィリベール”と呼んで下さい……」
「えっと…無理してませ──」
「大丈夫です。無理はしてません。」
ー無理どころか、“フィル”と呼んでもらっても良いけどな!!ー
「……では…私も名前呼びさせてもらいますね。」
若干困った様な顔をしていた気がするが、それは気にしない。困った顔でさえ……エヴェリーナは可愛かった。




