最後の言葉
いいね、ありがとうございます。
「その竜心をエヴェリーナ嬢が持っていると言う事が、貴方がフィリベールの本当の番だと証明しているんです」
「ジュリエンヌ様は、どうして私を竜王陛下の贄にしたんでしょうか?と言うか……竜王陛下の番の座を手にしながら、トルトニアの第二王子に言い寄るって、おかしくないですか?」
禁忌の実を使ってまで竜王陛下の番になったのに、他国の王子を婚約者の私から奪って……一体、ジュリエンヌ様は何がしたかったの?
「おそらくですが、エヴェリーナ嬢が、フィリベールの本当の番だと気付いたんでしょうね」
「え?」
ジュリエンヌ様がお守りとして持っていた、竜王の鱗。たった1枚の鱗でも魔力はたっぷり含まれている為、竜人や獣人はソレだけで萎縮してしまう程なのだそうだ。その鱗が、番に近付いた時、何かしらの反応をした可能性があると。
ーあぁ、だから、あの侍女が悲鳴をあげてへたりこんだり、ニノンさんやオーウェンさんは“キツい”と言ったんだー
「トワイアル王女は、かなり焦ったと思いますよ。竜人や獣人にとっての番は、唯一無二の存在ですからね。それが嘘だと分かった─バレた時、自分がどうなるか─なんて…考えていなかったでしょうから」
喩え、うまく誤魔化せたまま番の座を得ても、本物の番が王族と結婚すれば、今後、フィリベールさんと会う可能性もある。だから、ハロルド様と私との婚約を解消させ、尚且つ、私を消す必要があった。でも、流石に人殺しはできない。
「一度目の最期の時に……トワイアル王女が、私の事を“贄”と言ったんです。それ以外は、何を言っているのか分からなかったんですけど。後は、どの最期の時も、トワイアル王女が何かを言った後、私は……噛みつかれてたんですよね………まぁ……二度目以降は……竜さんは、抵抗?してる感じがありましたけど……」
あれ?二度目以降は、私が“番”だって……分かってたんだよね?そこで、“噛み付かない”と言う選択肢はなかったんだろうか?
「“正しい路”に進まなければ、過去の流れと違っても、ある意味軌道修正が行われるかのように、同じ最後へと進んで行ってしまうんです。」
私が過去の流れを変えようとしたように、竜王陛下達も色々と変えようとしたらしい。
黒龍の巫女の選定式に参加しない─
浮島の邸に篭もる─
それでも、結局は予想しない所や時にジュリエンヌ様との接触が起こり、イーリャの実にやられてしまい、そこからは、意識を何とか保つのがやっとだったそうだ。竜王国では極秘裏に研究が進められているが、未だに、イーリャの実の解毒剤は無い。
兎に角、“正しい路”に進まない限り、どう足掻いてもあの最期を迎えてしまうようになっていたのだ。
「過去のトワイアル王女が口にしていた言葉は、“古代龍の言葉”なんだ」
「古代龍の言葉?」
それは…初めて聞いた。
古代龍の言葉は、今は廃れてしまっているが、黒龍だけが継承している。そして、黒龍に番が現れれば、その番にも継承される。理由は、黒龍が最悪の状態に陥った時に止める為なんだそうだ。
「黒龍は、この世界で一番の力を持っている。正しい王であれば問題は無いが、その逆であれば、世界に災いを呼ぶ。もし、黒龍が精神を病み、暴れだしたとしても、誰も黒龍を止める事はできない。そんな時に、古代龍の言葉で黒龍を止めるんだ。古代龍の言葉には、初代竜王の竜力とアルクシェリア女神の神力が込められているんだ。」
有事の際、竜力と神力が込められた古代龍の言葉で、黒龍を縛り付ける。それは、黒龍の番の務めの一つなんだそうだ。
「おそらく、トワイアル王女は浮島の俺の邸で、その古代龍の言葉の書を…見付けて…憶えたんだろう」
“彼女は、トルトニアからの贄”
“彼女が番を殺そうとしたから”
“番を護る為に、贄の彼女を消して”
「俺は、古代龍の言葉には…逆らえない」
「………」
その言葉の通り、一度目の竜さんは躊躇い無く噛み付いて来た。二度目はよく覚えていないけど……三度目は何かに耐えるようにした後、躊躇いながら噛み付かれて苦しんで……四度目は憐れまれた。
「でも…抵抗してくれてましたよね?三度目なんて……本当に……」
「ゔっ……本当に申し訳無い!!本当に!!!」
「まぁ…四度目は…恐怖心も痛みもなかったけど…」
最強の黒龍でも抗う事ができないと言う古代龍の言葉に、竜さんが必死で抵抗してくれていた──
それだけで、四度も噛み付かれて殺されたのに……赦してしまうなんて………
ー私、単純だけど、竜さんの事が…好きなんだー
「ん?」
「あ……」
「おや……」
何故か、私の手にあった竜心がキラキラと琥珀色に輝いたかと思えば……光と共に消えてしまった。
「え!?消えた?無くなった!?何で!?」
「エヴェリーナ!!」
「ぐふぅ────っ!」
慌てる私を余所に、ニヤニヤと笑うイロハとニノンさん、ニコニコとほほ笑む宰相様とオーウェンさん、「良かった」と泣き出した大神官様に見守られながら、竜さん─竜王陛下に抱きしめられた。




