最悪の始まり
いいね、ありがとうございます。
「あれ?でも、そのイーリャの実を使われたのにも関わらず、宰相様と大神官様は何ともなかったですよね?」
アレに反応したのはオーウェンさんだけだった。
「あぁ、それは、アラールにも大神官にも既に番が居るからだ。アレは、番無し─番や伴侶が居ない者にしか作用しないんだ。だから、オーウェンしか反応しなかったんだ。」
ーなるほど。オーウェンさんには、番も伴侶も居ないのねー
「イーリャの実を使用したのは…トワイアルの王女殿下…なんですか?もしそうなら、何故…使用したんでしょうか?」
禁止された物を作り使用すると言う事は、どんな作用があってどんな人に効くのかは把握している筈。
そもそも、オーウェンさんが目的なら、態々選定式の時に使用する必要はなかっただろうし……。
ージュリエンヌ様は、一体誰を標的にしたの?ー
「イーリャの実を使用したのが、トワイアル第一王女のジュリエンヌ様だと言う事は確かよ。私、アルクシェリア女神の加護のお陰で、魔力を使うと、普段視えないモノが視えるようになるんだけど……オーウェンさんに纏わりついていた嫌な感じなモノが、トワイアル第一王女と繋がっていたから。」
「あぁ、だから、あの時イロハは王女殿下を睨みつけてたのね?」
イロハのお陰で、誰も被害を受ける事はなかった。
でも───
過去の4回でも同じ事が行われていたとしたら?
その被害を受けたのが…あの竜さんだったら?
「──────エヴェリーナ」
「あ、はい!」
考え事をしていたせいで、少し反応が遅れたようで、私の名を呼んだフィリベールさんの方に顔を向けると、少し心配そうな顔で私を見ていた。
「大丈夫か?」
「あ、大丈夫です。少し考え事をしていただけだから」
「そうか……なら………このまま、エヴェリーナに聞いて欲しい話があるんだ。」
「聞いて欲しい話?私で良いなら、いくらでも聞きますよ?」
「ありがとう───」
“ありがとう”──と言いながら、フィリベールさんは苦しそうに笑うのは何故?そう思いながら、私はフィリベールさんの話に耳を傾けた。
******
俺の両親は番で結ばれた夫婦だった。ただ、出会う迄に長い年月がかかってしまい、父はかなりの年をとってしまっていた。それでも2人は仲睦まじく、幸いな事に数年で子供を身籠る事ができた。
これで、父が高齢であった為に後継ぎの心配もあったが、母がまだまだ若いと言う事もあり、周りの竜人達は一先ず安堵した。
それが────
竜人の出産は、人間の十月十日よりも長く1年程かかるのだが、母が体調を崩してしまい、2ヶ月程早くに生まれてしまったのだ。
他の健康な子竜に比べて二周り程小さいにも関わらず、竜力が強くて大きかった俺の出産は、体調を崩していた母に更なる負担を掛けてしまい───
産後の肥立ちが悪く………そのまま、産後1年後に亡くなってしまったのだ。
番を失った竜の末路は悲惨だと言うが、父はそうはならなかった。
母が、子竜だった俺を“この子を愛している”“この子を私と同じだと思って大切にして欲しい”と、毎日毎日繰り返して父に言っていたからだそうだ。
そんな父も、やはり、年齢の問題もあり、番を失った事もあったのだろう。俺が20歳になる頃に死んでしまった。
ーあれ?色々と…おかしくない?ー
フィリベールさんは、伯爵家の次男じゃなかった?年齢に関しては……竜人は見た目で判断するのは無意味だと分かっているから…いいとして………。
「ははっ…うん。色々とおかしいところがあるな。それに関しても、後からちゃんと説明するから、このまま話を続けても大丈夫か?」
「あ、はい。すみません。お願いします」
きっと、私の顔が「???」だらけの顔になっていたんだろう。本当に、フィリベールさんはよく気が付く人だなぁ─と思う。
父が死んで後を継いでからは、まぁ……本当に色々と大変だった。20年…30年経つと言うのに、まだまだ竜力が不安定で、体調を崩す事も多かった。それでも、周りの者達に助けられながら、なんとか竜力も落ち着いて来た頃、黒龍の巫女の選定式が行われる日がやって来た。その選定式には、基本、番持ちか特別な伴侶持ちしか参加しない事になっている。その理由は、その場に番が現れでもしたら、選定式どころではなくなるから。公平性を期す為にも。
でも、俺は、その選定式に興味が湧いて……その上、自分の力を過信していたから、周りの者達が止めるのも聞かず……その選定式に身分と姿を誤魔化してこっそり参加したんだ。
そこで………俺の最悪が始まった──
それは……とても甘い香りだった。
今迄に感じた事の無い程の甘い香り。
心臓がドクドクと波打ち、竜力の流れが早くなる。
そして、彼女から視線を外す事ができなくなる。
ー彼女の側に行かなければー
体が勝手に動き、俺は気が付けば────
「貴方が……俺の番だ……」
そう口にして、俺は─────
トワイアル第一王女─ジュリエンヌを抱きしめていた。




