選定式①
いいね、ありがとうございます。
あれから……大変だった。
悲鳴にならない悲鳴を上げてへたり込んだと思えば、今度は顔を赤くして……泣き出したのだ。
「大丈夫ですか?」と声を掛けながら近寄ろうとすれば、「大丈夫です!あぁ!なんて事でしょう!!」と、今度はキラキラとした眼差しを向けられて……また泣き出したのだ。それが…何とも……ある意味恐ろしくなって、部屋にあったベルを鳴らすと、暫くしてからニノンさんが部屋に来てくれた。
そのニノンさんも、私の部屋に入った瞬間、動きを止めた。それから、私を見て、その後、床にへたり込んでいる侍女に視線を向けた。そうして、私がこの状況の説明をしようとする前に、ニノンさんが口を開いた。
「なるほど………」
「ニノンさん、あの…私………」
「あぁ、ハウンゼントさん、大丈夫です。分かりました。えぇ、本当に大丈夫です!」
ーえ?何が分かって、何が大丈夫なの!?ー
「ふふっ──大丈夫です。取り敢えず、彼女には少しキツイと思うので、このまま私がハウンゼントさんの支度のお手伝いをさせていただきますね。ふふっ……」
ニノンさんがそう言うと、床にへたり込んでいた侍女が「宜しくお願い致します」と言い、部屋から出て行った。
それからは特に問題はなく、ニノンさんにテキパキと見習い神官に仕上げられた。白いロングワンピーの上に、黒色のフード付きのローブを着せられた。
「選定式の間は、このフードを被ったままでお願いします。それと……その、左手に持っている物ですが……」
「あ…これ、あの、信じてもらえないかもしれませんが、私が無理に取ったわけじゃくて……いや…そもそも、夢だと思ってたのに、目が覚めたら手の中にあって……」
「ふふっ、大丈夫です。分かっていますから……落ち着いて下さい。」
「あ…すみません……」
「また、選定式が終わった後に……お話しますが、ソレは間違いなく、エヴェリーナ=ハウンゼントさんの物です。今、貴方の手の中にある─と言うだけで、貴方の物だと言う証拠なんです。ですから…ハウンゼントさんが不快でなければ、選定式にも離さず持っていてもらいたいのですが………」
不快?それは全く無い。寧ろ、体から取れたにも関わらず、まだ温もりが残っているようで安心したりしている。
「不快なんて事はありません。私が持っていて良いのなら、持っています。」
「はい、大丈夫なので、そのまま持っていて下さい。それは、必ずハウンゼントさんを守ってくれますから。」
と、ニノンさんはしたり顔で笑った。
******
選定式が始まる前にニノンさんに案内されたのは、控室だった。
「リーナ、おはよう」
「イロハ、おはよう」
「「…………」」
控室に居たのはイロハと──
「こちらにいらっしゃるのが、今日の選定式を取り仕切る、竜王国の宰相でもあるアラール=ナクラマルト。大神官のアルピーヌ様。」
「初めてお目にかかります。私、トルトニア、ハウンゼント侯爵が娘のエヴェリーナと申します。本日は、この様な場に参加させていただき、ありがとうございます。」
まさか、黒龍─“竜王の右腕”とも呼ばれる宰相様と、大陸の創世神アルクシェリア女神の使徒と謂われる大神官様に会えるとは思わなかった。
「丁寧なご挨拶、ありがとうございます。私も……ハウンゼント嬢に会えて、嬉しく思います。」
ー嬉しく?ー
顔を上げて宰相様の顔を見ると、にこやかな微笑みを浮かべているのに対し、大神官様に至ってはは……何故か涙を流していた。
ーデジャヴかな?ー
「えっと………」
「あぁ、ハウンゼントさん、大神官の事は気にしなくても大丈夫です。彼は……年をとったせいか涙腺が弱くて、すぐに泣いてしまうんです。」
「そう…なんですか?」
年を取った──見た目は父より少し上位だけど……もっといっているのかもしれない。竜人は年齢不詳な上、美男美女に溢れている。
泣いている大神官様の事は気になったけど、イロハも「大神官は、いつもあんな感じだから大丈夫よ。」と笑っていたから、それ以上は気にしないようにした。
その控室では、改めての注意事項の確認と、選定式の行われる部屋での立ち位置の確認をした後、「時間になりました。準備をお願いします。」と言われ、私達は選定式の行われる部屋へと移動した。
選定式の行われる部屋は、意外と小さ目の部屋だった。その部屋の壇上に大神官様が立ち、その左手側に宰相様が立ち、イロハと私は右手側の壁際に控える。その私達の横には竜騎士のオーウェンさんが居た。なんでも、巫女候補達の護衛を兼ねているらしい。
「あぁ……確かに……少しキツイかもしれないな……」
ー“キツイ”?何が?ー
この部屋では喋らない─と言われている為、オーウェンさんの呟きに対して質問する事はできない。チラッと見たオーウェンさんの顔は、いつもの穏やかな表情ではなく、キリッと引き締められた顔だった。
ー選定式で、緊張してるのかな?ー
そんな事を考えていると「聖女様達が入室されます」と言う掛け声と共に、部屋の扉が開かれた。




