竜さんと鱗
いいね、ありがとうございます。
五度目は、何もかもが過去とは違って来ている。
ジュリエンヌ様の光属性の発現は過去通りだけど、黒龍の巫女だと判明したのはまだ先だった筈だ。
おそらく、ジュリエンヌ様がトルトニアに留学すると言う話も、まだ出ていない筈だ。
もし、トルトニアに留学する─と決まる前に黒龍の巫女として認められたら……ジュリエンヌ様は、そのまま…竜王国に留まると言う事に…なる?
ヒュッ─と息を呑む。
また、ジュリエンヌ様と私の接点ができてしまう。
喩え、ジュリエンヌ様が黒龍の巫女になろうとも、学園には通う事になるだろう。そうなれば……通うとすれば、竜王国の学園になる可能性が高い。
「……ハウンゼントさん、大丈夫ですか?」
「え?あ……大丈夫ですよ?えっと…続けて下さい。」
「そうですか?では………」
きっと、顔色が悪くなっているんだろう。指先も冷たくなっている。
心配そうな顔をしながらも、ニノンさんは明日の選定式の説明を続けた。
明日は、私はイロハと一緒に、見習い神官の服を着て、神官の補佐をする─と言う形で参加するそうだ。補佐と言っても、何をすると言う事はなく、神官の後ろに静かに控えているだけ。
選定式の間は、私もイロハもフードを被る為、顔を晒す事はない。そして、何があっても喋らない事。見た事は口外しない事。
説明を受けた後、誓約書にサインをした。
「気分が優れないようなので…」と、ニノンさんがカモミールティーを用意してくれた。
「すみません。何だか…緊張してるみたいです。」
「もし、無理そうであれば、言って下さいね。まぁ…参加してもらえれば……全て……」
「ん?何か言いました?」
「あ、いえ…何も……。」
ニノンさんの最後の方の言葉が聞き取れず、聞き返すと、フルフルと首を横に振られ「何でもありません」と、言われてしまった。
それから、少しだけニノンさんとお喋りをした後、王城の女官の案内で入浴し、明日の為に早目にベッドに入った。
いつもよりも早目に───
不安だった筈なのに、ベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。
目の前には、あの黒色の竜─竜さんが居た。
過去の竜さんの鱗は、くすんだような黒色だった。
でも、今、目の前に居る竜さんの鱗は、漆黒の闇を思わせる程の黒なのに、キラキラと輝いている。
「綺麗………」
『…………』
私が綺麗だ─とつぶやけば、竜さんは目を細めて笑う。その黒色の瞳は、やっぱりとても優しい。
これが夢だとハッキリと分かるのに、夢ではなく現実的な感覚がある。
「触っても良い?」
『…………』
竜さんは、嬉しそうに私の手の届くところに頭を下げて来た。遠慮なく、その頭に触れると、鱗は硬いけど温かかった。
「冷たくないのね?」
全く嫌がらないのを良い事に、竜さんの頭や首を撫でる。
「えっ!!??」
『…………』
撫でているうちに、鱗が1枚ポロッと取れてしまった。
「ごっ……ごめんなさい!どっ…どうしたら?えっと…またくっつく???え?無理??」
『…………』
ーそんな…憐れみのような目で見ないで欲しいー
「どうしよう……あの……痛くない?」
『…………』
竜さんは、怒るどころか嬉しそうに目を細めたまま、鱗を持っている私の手を、口先で優しく私の方へ押し付けて来た。
「ん?もしかして…私にあげる?って事?」
すると、竜さんがコクコクと頷く。
竜の鱗───
よく見てみると、体にある鱗の1枚1枚は大きいのに、取れてしまった鱗は二周り程小さいうえに、見る角度を変えると琥珀色にも見える。
「不思議な色の鱗だね?とても…綺麗…。本当に…貰っても良いの?大丈夫?」
『…………』
竜さんが鼻先で、私の頬をスリッと撫でる。
ー可愛い!ー
あんなに怖かった竜さん。
まさか、五度目の今回で“可愛い”と思うとは……想像すらしていなかった。
「ありがとう。大切にするね。」
『…………』
鱗をギュッと握ってお礼を言うと、視界が少しずつぼんやりしていき───
『必ず守るから───』
竜さんが何か言ったような気がするけど……うまく聞き取る事ができず、私の意識はそこで途切れた。
目を開けると、やっぱりベッドの上だった。
ーうん。やっぱり夢だったー
しかも、自分の都合の良い感じの夢だった。
噛み付かれる事なく、しかも仲良くなるとか……。
「ん?…………え?」
握りしめていた手の中に、鱗があった。
「え?」
ジッと見る。黒色の鱗だけど、角度を変えると……琥珀色に見える。黒色でも琥珀色でもキラキラと輝いていて、なんなら、どんな高価な宝石よりも綺麗に見える。
「夢じゃなかった?」
もし、あれが夢じゃなかったら……竜さんに噛み殺される最期にはならないのかもしれない。でも──
ーまた、ちゃんと竜さんに会えたら良いなぁー
コンコン─
「ハウンゼント様、お目覚めですか?」
「あ、はい!起きてます!」
「失礼致します。」
部屋に入って来たのは、支度を手伝ってくれる侍女だった──んだけど………
「ひい──────っ」
「え?」
何故か、部屋に入って来た途端、悲鳴にならない悲鳴を上げたかと思うと、その場にへたり込んでしまった。
ーえ?何があったの???ー




