守るから
いいね、ありがとうございます。
「どうしても…行った方が良いんですか?」
「──────っっっ……だ…な……。」
私が我儘を言ったせいか、フィリベールさんはより一層眉間に皺を寄せて、イケメンもビックリするぐらいの恐ろしい顔になっている。
「すみません。もう我儘なんて言いません。誕生会に行きます。嫌ですけど行きますから、フィリベールさん……本当に宜しくお願いします!」
「あ、いや、別に怒っている訳では───。エヴェリーナが嫌がっているのは分かるが、喩え、この誕生会に出席しなかったとしても、また、同じ事の繰り返しになると思う。そうしたら、そのうち、向こうが王族の権力を使ってくる可能性がある。それを使われれば……それこそ、エヴェリーナ達は断る事ができなくなるだろう?」
「………」
確かにそうだ。過去も、王族の権力を使われた訳ではなかったけど、王族側から望まれた事だと断る事ができず、婚約者になったのだ。
「なら、この誕生会に出席して、婚約者にならないと言う意思表示をした方が良いと思う。」
「それでも………意思表示をしても……望まれてしまったら?」
ハッキリとは口にしなかったけど、四度目では拒絶を表したのに、結局は婚約者になってしまった。
「それは、大丈夫だ。喩え第二王子がエヴェリーナに気があろうとも……望ませないようにするから。」
「どうやって?」
ーその自信は…どこからくるのか?ー
「それは秘密だ。兎に角、エヴェリーナは、俺に合わせてくれるか……黙って俺の背中にでも隠れていれば良いから。」
目を細めて笑うフィリベールさん。
私の手を握っていた手が私から離れていき、その手が今度は私の肩に掛っていた髪をすくい上げた。
「必ず守るから。」
「───っ!?」
そのすくい上げられた髪に……キスを……されて……
ーはう─────っー
変な声をあげそうになるのを我慢して、呑み込んだ。
恥ずかし過ぎて、フィリベールさんの漆黒の瞳から逃れるように視線を外すと、ニノンさんとバッチリ視線が合った。
「なっ─────」
ニノンさんも居た事を……すっかり忘れていた。
「ハウンゼントさん、私の事は気にしなくて大丈夫ですから。その辺に転がっている石とでも、空気とでも思ってもらえれば…ふふっ……」
ー“石”だとも“空気”だとも思えませんー
「後3ヶ月か……準備は全て俺がするから、エヴェリーナは今迄通り勉強を頑張ってくれ。」
「え?でも………」
「そうですよ。ハウンゼントさんは勉強をする為に竜王国に来ているんですから、勉強に集中して下さい。準備等に関する事も、私の方からハウンゼント侯爵にお伝えしておきますから。」
「何だか…申し訳無いんですけど……宜しくお願いします。」
これ以上断るのも悪いかな?と言う思いと、これで、今世は違う路に進めるのかもしれないと言う思いもあり、五度目の誕生会の準備は、フィリベールさんとニノンさんにお任せする事にした。
*エヴェリーナを寮迄送って行った後*
ー学園長室にてー
(ニノン視点)
「まさか、留学中の彼女にまで招待状が来るとは…しかも、王家を通して。」
「ハウンゼントさんは優秀ですし、貴族のマナーも完璧で、言葉の裏も読み切ってますからね。トルトニアの王家としては、是が非でも欲しい人材なんでしょうね。第二王子は、やはりハウンゼントさんを気にしているらしいですし……」
「────ちっ…」
「「舌打ち!」」
感情を顕にするのはフィリベール=スコルッシュ。
ようやく、彼本来の姿に近い状態に戻ってきた。そんな彼を優しい目で見ているは現学園長であるアリソン=ガーナード。アリソンも、ようやく安心した─と言うところだろう。
「ところで……あの女はどうなっている?」
「あぁ……アレなら、今回も既に光属性が発現したそうだ。予定通りなら……来年だな。」
「そうか……アレには、絶対に近付けるな。」
「分かってますよ。近付いたところで、今回は……何もさせないけどね。」
あの女を切り捨てるだけなら、今すぐにでもできる。かのお方も、こればかりは反対する事も止める事もされないだろう。ただ、我が主の許可が下りないだけ。
『切り捨てるだけで、俺の気が済むとでも…思っているのか?』
真っ白な顔をして、我が主の腕の中に収まっている彼女しか目にした事はなかった。その白い顔とは反対に、体は赤色で染め上がっていた。
また会える─と分かっていながら、どんな思いで口を開いていたのか……想像すらできない。どれ程の苦痛だっただろう……。
「……それにしても……“濃藍”ですか………石を探しますか?」
「あぁ。勿論、できる限り近い濃藍で頼む。」
「自分から言っておいて……その色にまで嫉妬しないで下さいね。」
「────うるさいなぁ……。」
ムッと顔をしかめるフィリベールは、見た目は年相応の少年で可愛らしい。
「それじゃあ……ニノン、今日は久し振りに一緒に夕食を食べよう。」
「ええ、勿論よ!」
私は、アリソンの手を取る。
「はいはい。いってらっしゃい。また……明日から頼む。」
フィリベールはそれだけ言うと、ヒラヒラと手を振りながら部屋から出て行った。
 




