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贄の令嬢はループする  作者: みん
❋竜王国編❋
25/83

優しい手

いいね、ありがとうございます。

トルトニア王国の学園は三学期制だけど、竜王国の学園は前期、後期の二学期制となっている。

ハロルド様の誕生会は10月にあり、竜王国の学園では9月は夏休みとして1ヶ月休みになり、10月からは後期の授業が始まる。

竜王国とトルトニアが隣接している国とは言え、両国の王都を行き来しようものなら、最低でも10日はみておかなければならない。

竜王国の薬学部は…正直、ハイレベルだ。それなのに、10日も休むとなると──遅れを取り戻すのには倍の時間が掛かるだろう。

それよりも何よりも、もう、ハロルド様と誕生会で挨拶を交わす事も、婚約者になる事も……まっぴらごめん、全力で拒否りたい。


クシャリッ──


自然と手に力が入ってしまったようで、手に持っていた手紙がぐちゃぐちゃになっていた。


「大丈夫か?その手紙には……何が?」

「あ………」


フィリベールさんが、私の力の入った手を、人差し指で優しくトントン─と叩いた。

異性に触れられているのに、嫌な感じが全くしない。寧ろ……少し落ち着いたぐらいだ。


「あ……10月にある、トルトニア第二王子殿下の誕生会の…招待状…です。」

「第二王子の………」


フィリベールさんは、それだけ呟くと口を噤んだ。

ニノンさんは、圧のある微笑みを浮かべている。


トルトニア(あちら)は、我が国の学園を馬鹿にしていらっしゃるのかしら?授業のある期間に、10日以上休んで帰国しろと?何の為にハウンゼントさんが留学しているのか……分かってらっしゃらないの?それとも──女だからと馬鹿にしてらっしゃるの?」


ニノンさんが、いつもと違う口調で怒っている。


「いや─()だろう……」

「「()?」」

「竜王国の学園の薬学部に入れた優秀なエヴェリーナを………クソ────第二王子の婚約者に…と言う思惑があるんだろう……。」

「そんな………」


ー嫌だ。止めて欲しい。全力で止めていただきたいー


五度目の未来は自分で切り開く──


その為の第一歩として、薬学を必死で勉強して、竜王国にやって来たのに。

クシャッ─と、また手の中にある手紙が音を立てた。その手紙を見つめている自分の視界がぼやけてくる。


ー何をどうやっても、頑張っても……ハロルド様からも、あの最期からも…逃れられない?ー


「エヴェリーナ………」

「っ!?」


手紙を握りしめている私の手を優しく握ってくれる手が、私のぼやけた視界の中に入って来た。パッと視線を上げると、目の前に、私の手を優しく握ったまま、私を見つめているフィリベールさんが居た。


「エヴェリーナは、その第二王子の婚約者に…なりたいのか?」

「嫌です!絶対になりたくないです!誕生会にすら行きたくありません!」


拒絶の言葉をハッキリ口にすると、フィリベールさんとニノンさんが、キョトンとした顔をして固まった。


不敬罪?そんな事気にしてなんていられない。これで不敬罪で捕まったとしても───後悔しない………いや……勿論、長生きはしたいけど…。


「大声を出してしまって…すみません。でも、私……本当に、第二王子の婚約者になんて…なりたくないんです。誕生会だって……正直に言うと……薬学の勉強をしている方が、何倍も楽しいんです。」


しゅん─と項垂れていると、「そうか…………」とフィリベールさんが呟いた後、ニノンさんと2人してクスクスと笑い出した。









「先程はあんな事を言いましたけど、移動に関しては、国が関わる事で、転移魔法陣が使用できると思いますから、誕生会の当日だけで済ませる事は可能だと思います。でしたら、誕生会の日は週末なので、学園を休む必要もありません。」


フィリベールさんとニノンさんは、一頻り笑った後、ニノンさんが説明してくれた。


「できれば、誕生会にも行きたくないんですけど…」

「よほど、その第二王子には興味が無いんですね。」

「……ありません。」


ー200%裏切られると分かってて、どうやって興味を持てと?ー


「それなら、余計に、その誕生会には参加しておいた方が良いと思う。」

「えー………」

「一つ確認したいんだが……その誕生会には、婚約者のいる令嬢も、絶対参加なのか?」

「いえ。婚約者のいる令嬢に関しては、出席は自由です。」


だから、どの人生の時でも、婚約者のジョナス様がいるフルールは、ハロルド様の誕生会に参加した事がなかった。


「なら………俺も一緒に、その誕生会に参加しよう。」

「はい??」

「フィリベール………」


ーえ?それ、何故“()()参加しよう”になるの?ー


「決して……エヴェリーナを悪いようにはしない。絶対に。だから、俺を…信じてくれないか?」


手は握られたままで──


長い黒髪を後ろで括り、左サイドに少し短目の髪が垂れていて、少し首を傾げると、その髪がサラリと動く。黒色の瞳は、私を気遣うような、優しい色を纏っている。四度目の竜さんと……似ているな─と思う。


「絶対に…エヴェリーナの事は、俺が守るから。」


フィリベールさんと出会ってから4ヶ月。

まだ、たったの4ヶ月しか経っていないのに、彼がそう言うと、本当に大丈夫なような気持ちになるのは……何故だろうか?








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