復学
いいね、ありがとうございます。
「休学していると聞いて、気になっていたんだ。」
「それは……失礼しました。高熱を出した後、体調を崩す事が多くなりまして……。」
「謝る事ではないから。それに、確かに、以前より更に痩せたようだけど、大丈夫?」
「そう…ですね…。今日はまだマシな方です。」
ーどうしてこうなった?ー
いや、理由は分かっている。
私は今、領地の邸の庭のベンチに座り、ハロルド様と話をしている。その、私達から少し離れた位置に、ハロルド様の護衛としてオーウェンが居る。
ハロルド様が、我が領地に療養しにやって来たらしい日から1週間。そのハロルド様が、領主代行である兄に挨拶をしにやって来ていた。そんな事を知らなかった私は、今日は天気も気分も良かった為、庭のベンチに座って本を読んでいたのだ。そこへ、応接室に居たハロルド様が窓越しに私を見掛けて、私にも挨拶をしに庭へとやって来たそうだ。
「「…………」」
会話が続かない。それはそうだ。三度目の今世でも学園で言葉を交わした事は一度もないし、今回は誕生会にすら参加していないのだから。それに……私の心が、ハロルド様を拒否しているから。
ー気不味いー
もう、用事がないなら帰って欲しい……私が長生きする為にも………切実に。
「ハロルド殿下、そろそろお時間です。」
「あぁ…分かった。ハウンゼント嬢…また、お互い元気になったら…学園で…。」
「はい。殿下も…お大事になさって下さい。」
「ありがとう。」
穏やかに微笑むハロルド様。私が好きだったハロルド様の笑顔だ。それでも……今の私の心は動かなかった。
******
高等部2年に進級すると同時に、私は復学した。
勿論、領地で療養していた間も、家庭教師を付けてもらっていた為、復学しても問題なく授業について行く事ができた。ただ気になる事と言えば───
「ハウンゼント嬢が、元気になって良かった。」
「ありがとうございます。」
何故か、ハロルド様と同じクラスだった。三度目の人生で初めての事だった。そのせいか、時間があれば何かと声を掛けられるようになった。
「殿下は、エヴェリーナ様が気になるようね?」
「エレオノール様…止めて下さい。」
「ふふっ。エヴェリーナ様は、本当に殿下にも王族にも興味がないのね?」
「ありません。平穏が一番なので…」
そして、こちらも初めて同じクラスになったエレオノール様とは、仲良くなった。ちなみに、幼馴染みで親友のフルールと婚約者のジョナス様とはクラスが違ってしまい、一緒に居る事は少なくなってしまったが、今世でも仲良くさせてもらっている。
このエレオノール様。噂通りのサバサバした性格で、姉御肌。今現在、エレオノール様がハロルド様の婚約者の有力候補ではあるが、本人は婚約者になる気は全く無いようだ。
「殿下が私を選ぶ事は無いと思うけど、エヴェリーナ様は…有り得るかもしれないわよ?殿下が自分から態々声を掛けるのって…エヴェリーナ様だけだから。」
「………」
それは、私も気付いていた事だ。
相手は王子様だ。声を掛けられて無視をするなんて事はできないから、話をするけど……。婚約者に選ばれる事だけは………
避けたかったのに───
「“リーナ”と呼んでも良い?」
「お好きなように…お呼び下さい。」
「ありがとう。」
「………」
ー何度目のやり取りだろう───うん。三度目ね。知ってますー
高等部3年生に進級する直前に、またまた私はハロルド様の婚約者となってしまった。
多分、これはまた……“正しい路”ではないのだと思う。
そして、既に知っていた事だけど、今回でもやはり、留学生としてジュリエンヌ様がやって来る。
後数ヶ月逃げられたら、私と婚約する前に2人が会う事ができたのに。
それなのに、また婚約者となってしまい、かつて私が好きだった笑顔を浮かべるハロルド様が居た。
高等部3年に進級してからの流れは、三度目も同じだった。ハロルド様と私の距離が空けば空く程、ハロルド様とジュリエンヌ様との距離が近付いて行った。
三度目ともなれば、胸も痛む事はなかった。寧ろ、ハロルド様とジュリエンヌ様は、本当にお互い好き合っているんだなぁ─と、感心すらしてしまっている。
「リーナは、本当に……殿下に興味が無かったのね…」
「だから、婚約前から言ってただしょう?」
エレオノール様と私は、3年生でも同じクラスになり、お互い“リーナ”“エレ”と呼び合う程の仲になった。
「だからと言って、殿下と王女様のしてる事は…許される事じゃないと思うけど。」
3年生では、フルールとジョナス様とも同じクラスになれた。私とハロルド様が結婚する事はないだろうけど、いつも私の周りには良い友人が居る。それは、私にとっては唯一の救いだと思う。
ー後は…また…あの竜に噛み付かれるだけ…かしら?ー
 




