22 共犯者の行く末
一夜が明けて、翌朝、九時をまわった頃。
今日も一日の業務が始まる――という時に、魔導院に警吏たちが乗り込んできて、執務広間は騒然となった。
人々は何事かとどよめいていたが、クロアは『来たか』と構えて、事を見届ける覚悟を決める。隣には寄り添うようにルイヴィスが立ち、二人で同じ方へと目を向けた。
視線の先にいる人物は、グレイシーだ。警吏たちは真っ直ぐに彼女のもとへと向かい、席を囲ったのだった。
突然のことに、彼女は目を見開いて立ちすくんだ。側にいたハンナたちもギョッとした面持ちで身を寄せて、固まっている。
取り囲んだ警吏はグレイシーに声を掛けようとしたが、その前に、近くから大声が飛んできた。
「グレイシー!! 貴様何をした!!」
「……っ!? お父様……!?」
同じく警吏に取り囲まれながら歩いてきたのは、恰幅の良い中年男性――グレイシーの父親らしい。
娘の方へと歩み寄りながら、怒りに顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「昨夜、兄上が器物損壊の罪でお縄につき、次いで横領、放火、傷害、贈賄の罪で再逮捕された……!! 奴はお前も関係していると吐いたそうだ! 貴様らは一体何をしでかしてくれたんだ!? 愚かな兄と娘のせいで、私までこれから取り調べだ!!」
「……っ……そ、そんな…………わたくしは……何も…………っ」
父の言葉を聞いた途端に、グレイシーの顔色が真っ白になった。ブルブルと震えだした手に、容赦なく手錠がかけられた。
警吏は手錠の縄を引き、グレイシーに歩みを促す。
「ギレルモ・ブラウンの供述により、あなたにも共犯の疑いがかかっている。同行願おう」
「そんな……っ……違うのです……! わたくしはただ……ただ…………スコット様を……お慕いしていただけで……っ……わたくしは、悪くなくて…………っ」
歩みを拒んで、グレイシーは目を潤ませた。違う、違う、と首を振るたびに眼鏡がずれていき、整えられていた髪が乱れていく。
一気にやつれ切った様相となった彼女は、昨夜のギレルモ同様、パニックを起こしているみたいだ。前後不覚になって、胸の内をぶちまけたのだった。
「わたくしは……わたくしは悪くないわ……っ! スコット様が……! あの男が悪いのよ……! わたくしはこんなにも愛しておりましたのに……っ……あの男は取り合ってもくれなくて……! だから……っ、だから仕方なかったの……! どうか聞いてくださいませ……っ、深い事情があるのです……! わたくしは罪人なんかじゃない……っ……どうか……皆さま方……っ」
周囲に訴えかけて、同情を得て、保身に走る――グレイシーは無意識に、そういう行動に出てしまったようだが……経緯を何も知らない周囲の人々は訳もわからず、完全に引いている。
皆の冷たい視線を受けて、グレイシーはさらに感情を昂らせ、いよいよ泣きだした。濡れた目でクロアの姿を捉えると、矛先をこちらに向けてきた。
「あの男のせいで……っ、あんたの馬鹿な兄のせいで……! わたくしの人生が狂ってしまったわ……っ! どうしてくれる……! どうしてくれるのよ!! お前の顔も焼いておくのだった!! お前も! スコットも! 婚約者の馬鹿女も……っ!! お前たちのせいで…………っ!!」
警吏の囲いを突破しようと、グレイシーは身をよじらせて暴れ出した。
夢に見そうな凄まじい形相をしていたが――……脳裏に焼き付く前に、クロアの視界は黒いローブによって遮られる。ルイヴィスが前に出て、クロアを背の後ろに隠したのだった。
騒ぐグレイシーは魔導官たちの魔法をくらって拘束され、口すらも封じられて連行されていく。
その最中も、彼女の父親は怒り収まらぬ様相で、怒鳴り声を上げていた。
「クソッ……! 兄上も、お前も、とんでもない一族の恥晒しだ……! 共犯だとかなんだとかいう話だが、たとえ刑期が明けても二度と家には入れないからな! すぐにでも、奴隷修道院への馬車を手配してやる!!」
「…………っ……」
ルイヴィスのローブによって視界は遮られていたが、父親の怒号と、グレイシーのしゃくりあげる息の音は、しっかりとクロアの耳に届いた。
この場にいない兄とソフィーに、昨日今日の捕縛劇と罪人たちの顛末を、共有しておこうと思う。




