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15 新たな契約書と新たな関係

 石碑広場から移動して、新しい魔法契約書類を作るべく、ルイヴィスと共に法務院を訪ねることになった。


 祝日中は基本的に城内の各機関も休みのはずだが、祝日出勤している哀れな――いや、仕事熱心な官吏は少なくない。


 彼らのお世話になり、今までの契約書を破棄して、新しい契約書を作成する。


 魔法契約は取り結ぶのは容易だが、破棄するには法務院の立ち合いが必要だそう。罰の魔法を個人が勝手に、都合よく解除しないように――ということで、こういう規則になっているとか。


 グレイシーの契約書を破棄して、ルイヴィスが新たな契約書に要項を書き入れ、クロアがサインを入れる。

 これでもう書類上では、晴れてルイヴィス直属の使用人の身となった。が、実際に働きだすのは半月後の着任日からの予定だ。


 城内で一斉に人事異動がなされる日があるので、クロアもそれに合わせることにした。日を守った方が角が立たないし、変に目立って噂が流れてしまう、というようなことも避けられる。


 それまでは今まで通りグレイシーのもとで働くことになるが、彼女には祝日明けに、ルイヴィスの方から話をしてくれるそうだ。


 そうして契約書の作成を終えた後、書類保管室の官吏に声をかけられた。


「――あ、クロアさん、少しお待ちいただけますか。あなたはスコット・フローレスさんのご家族とのことですが、彼の除籍関係の書類を代わりに受け取っていただけないでしょうか?」

「兄の書類ですか? えぇ、かまいません。わたくしがお受け取りします」

「よかった。当人に返却できなかったので、ずっと残ったままになっていて――……ええと、財務院の金庫管理官の――……」


 官吏は引き出しからドサッと紙束を取り出して、テーブルの上でパラパラと探し始めた。その最中、ふいにルイヴィスが手をかざして、官吏を止めた。


「待て。今、魔法がかかっていない書類があった気がしたが」

「えっ、どれでしょう?」


 官吏が広げた紙束の中から、ルイヴィスが契約書を探し出して手に取った。魔法の才能がないクロアにはどれもただの紙に見えるが、彼の目には違いが分かるらしい。


「これだな。紙への魔法処理がされていない。魔導院のミスだろうか……申し訳ない」

「魔法の契約書って、魔導院で作られるのですか?」

「法務院で雛型が作成されて、次に魔導院で紙への魔法処理がなされる。半年前、魔導院でメイドが盗みを働いたとかで、ちょっとした騒ぎが起きてな。そのいざこざで、未処理の契約書が流れてしまったのかもしれない。上官に知らせておかないと……」


『上官と接触するタスクができてしまった……』と、ルイヴィスは小声で愚痴り、その場で契約書に魔法をかける。


 該当の契約書には『ギレルモ・ブラウン』のサイン。兄の直属の上司であり、クロアを城に上げる提案をしてくれた、金庫管理長のものだった。




 法務院で手続きなどを済ませた後は、魔導院に移動して、ルイヴィスの執務室へと案内された。


 彼はそそくさと椅子を用意して、ゴホンと咳ばらいをする。


「……それで、あの……ご都合がよければ、この後は改めてオフ会をご一緒願いたく……」

「あ、はい! よろしくお願いします……!」


 二人で向かい合って着席し、改めてオフ会を開催することになった。


 シンと静まり返った執務室に二人きりなので、オフ会というより上司と部下の面談みたいな雰囲気だ。

 もしくは、席の距離感といい、縁談の顔合わせのような――……


(って、いやいやいや……! やめましょう! おかしなことは考えない!)


 無駄に心臓をドキドキさせてしまうのはやめよう。密かに深呼吸をしている間に、ルイヴィスは石碑広場で回収してきた魔道具の破片を取り出した。


 ハンカチに包んできた破片をテーブルの上に広げる。たかっている妖精たちには砂糖のおやつが与えられた。


「壊してしまう原因を作ってしまった、わたくしが言うのはアレですが……この破片サイズだと、ポケットに入れて持ち運べそうですね」

「それはいいな。長文は書き込めなくなるが、手軽に携帯できるのは素晴らしい。……是非、小鳥様のエプロンのポケットに収めていただきたい」


 ルイヴィスは適当な破片を摘まみ上げて、魔法で加工を施す。角を取って、丸みのある長方形に整えた。


 手渡された破片に、ついテンションが上がってしまった。


「こ、これは! まさにスマホサイズ――じゃなくて、手鏡サイズ! 書き込み用のチョークも細くして、ペン型にしたら細かい字も書けるのではないでしょうか」

「なるほど、よい案だ!」


 彼は続けてペン型チョークも仕上げた。スマホとタッチペン、といった雰囲気で感慨深い。


 膝が触れ合うほどの近さで向かい合っているというのに、二人でそれぞれの小型サイズ魔道具を覗き込み、画面越しに会話をしてしまった。


『これ、ちょっとしたお喋りに最適ですね!』

『小鳥様にあげる(*´∀`*)』

『よろしいのですか?』

『あなたといつでも、楽しいお喋りをしたいから。あと愚痴話も』

『愚痴メインになりそうで草』


 ルイヴィスは顔を上げて笑いかけてきた。


「俗語を使うと文を短くできていいな。もっと色々教えてほしい」

「ふふっ、愚痴に使える言葉もたくさんありますから、コッソリお教えしましょう。ググレカスとか、ハントシロムレとか。あまりよろしくない言葉ですから、わたくしたち、愚痴友達の間だけで、どうぞ」

「呪文みたいだな。さすが呪詛士の小鳥様だ」


 呪詛士とは? と、キョトンとしてしまったが、まぁ、気にしないでおこう。


 クロアは前世のスマホでの通信を思い出しながら、新たな提案をしてみた。


「この小型魔道具を複数作って、送信先を指定してメッセージを送ることはできないでしょうか?」

「妖精の調教が必要だが、やってみよう。上手くいけば、城内の情報伝達に役立つ魔道具を作れそうだ」


 ルイヴィスも乗ってきて、しばらくの間、交流の魔道具話に花を咲かせることになった。


 そんなお喋りの中でふと思ったが、彼は『雑談が続かない口下手』と言う割に、普通に会話が出来ている気がする。


「ルイヴィス様、お喋りが苦手とおっしゃっていましたが、楽しく会話が続いているではありませんか」

「小鳥様は喋りやすいから。というか、喋りたいから、頑張っている」

「あら……気を遣っていただいていたのですね。ええと、そう気負わずに」

「気負いたい時があるのだ。男には」


 そう言うと、ルイヴィスはクロアの頭をポンと撫でた。


「この先、仕事中に小鳥様と呼ぶのは障りがあるから、名前で呼んでもいいだろうか」

「え、えぇ、もちろんです……! どうぞ、クロアとお呼びください」

「あなたの本当の名前を知って、こうして目の前で、顔を見ながら呼ぶことができて、心から嬉しく思うよ、クロア」


 ニッコリと微笑んだルイヴィスは、もはや魔王のマの字も浮かんでこない雰囲気だ。


 最初の頃に『コウモリさん』に対して抱いていたイメージが、まさにこういう感じだったなぁ……なんてことを思い返す。

 襲いくる照れからの現実逃避として、初期コウモリさんに思いを馳せてしまった。


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