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10 出張先での社交とお土産

 竜払いは六日にわたったが、ようやく区切りがついた。


 雷竜はずいぶんとこの辺りの山や空を気に入っていたらしく、逃げたと思ったらまた戻ってきて、というのを繰り返していたが、ついに空を渡っていった。


 昼夜問わず魔法を放ち、合間合間に仮眠を取って――という六日間で、すっかり疲れ果ててしまった。


(魔道具を持ってきてよかった……楽しみがなければ乗り越えられなかった)


 夜中の心弾む交流のひと時だけが癒しだ。まだ様子見で、数日間は滞在しなければならないが、頑張ろうという気持ちになれる。


 山頂の野営地で朝食を取った後、一度、麓の街に下りることにした。


 中腹には別荘地が広がっているので、山道も舗装されていて歩きやすい。

 気晴らしの散歩がてら、一人でうろついていたのだが――……予期せず、面倒な社交に巻き込まれてしまうことになった。


 髪を後ろに撫でつけた中年の男が、こちらに気が付くや否や、ニコニコと上機嫌で寄ってきた。


「おはようございます、ルイヴィス・オルブライト様。後で野営地にご挨拶に伺おうと思っていたのですが、まさかこんな道端でお会いできるとは思わず。いやはや、連日の竜払い、お疲れ様でございます」

「あ……はい。……ええと」

「あぁ、申し遅れました。私は財務院に勤めております、ギレルモ・ブラウンと申します。姪のグレイシーが魔導院で庶務女官をしておりまして、あなた様のご活躍はかねがね伺っておりますよ」

「あぁ……そう、ですか……」


 名前を出されたところで、まったくわからないので困る。愛想笑いで誤魔化したくても、それすら引きつってしまうからどうしようもない。


 女官は結婚などで入れ替わりが多いので、名前も顔も覚える努力をしていない。使用人は言わずもがな。

 

 挨拶の後、ギレルモと名乗る男は流れるように世間話へと移ってしまった。


「いやぁ、王城が竜払いに腰を上げてくれて、本当によかった。実を言うと、私の別宅が酷い被害を受けましてねぇ……ほら、あちらです」

「……あぁ、半年前に焼けてしまったと、お噂は耳にしております」

「ははっ、まったくついていないことに、すっかりやられてしまいました。老後に移り住む予定でしたのに」


 ギレルモが指し示した方を見ると、工事中の屋敷があった。土地も屋敷もかなり大きくて、金を注いでいることが伺える。全焼したと聞いたが、しっかり再建工事が進んでいる様子。


(羽振りがいいな……)


 世間話にさりげなく財力アピールを盛り込むのは、貴族男の悪癖だ。


 ギレルモは他にもいくつかの話題を、勝手にペラペラと喋っていた。こうして度々連休を取って、別宅の様子を見に来ているのだとか。


『年度末にいいご身分だな。働けよ。こっちはヘトヘトの身だというのに……』と、胸の内で悪態をついてしまったが、もちろん口には出さない。避けられない社交は、相槌に徹して乗り切るに限る……。


「――おっと、長々と呼び止めてしまい、失礼いたしました。麓の街も賑わっておりますので、お時間がありましたら是非」

「はい、行って参ります。それでは……」


 解放されてホッと息をつき、山を下りる道へ歩を向けた。



 中腹からさらに下って、麓の街を散策する。


 この国では新年度の始まりに、三日間の祝日が設けられていて、連休目前の今の時期はどこもかしこも浮かれた雰囲気に満ちている。


 通りには露店が並び、国のシンボルである『大翼(たいよく)のグリフォン』をモチーフとした雑貨が売られている。


 何の気なしに目を向けた店先で、羽飾りを買った母親が子供の頭に飾っていた。父親は羽根をモチーフにしたネックレスを身に着けている。祝日前後には馴染みの光景だ。


 羽根をモチーフにしたアクセサリー類も、グリフォンの翼にあやかっての物だが……小さい物だと、グリフォンというより小鳥の羽根サイズである。


(小鳥の羽根か……)


 今まで何とも思ってこなかったモチーフだが、どうにも意識してしまう。

 近くの露店を覗き込んで、アクセサリーを見てみた。


(お土産に何か一つ……。小鳥様はどういうものを好むのだろう)


 肩に下げていた革鞄から、チラッと魔道具を出して確認するが、返事は来ていない。


 連日、朝一番にメッセージを送っているのだが、返ってくるのは決まって夜が更けてからだ。城畜を自称するだけあって、小鳥様は日中は忙しいらしい。


(また竜が戻ってきたら野営地から出られなくなるし……今のうちに買っておこう。髪飾りなら、仕事の邪魔にもならないだろう。よし!)


 羽根をモチーフにした、真鍮の髪飾りを買うことに決めた。


 会計に移り、ふと気が付くと、女性の人だかりができていて怯んでしまったが……店主は上機嫌で、『客引きの礼だ』と言っていくらか値引いてくれた。


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