はじめの一歩!?
目の前が太陽の光で赤く、温かさを感じる。
どうやら朝を迎えたようだ。
目が覚めると、僕は机に突っ伏したままだった。
そうだ、やっと昨晩プロットが書き終えそうだったのでそのままの勢いで描いていたら寝てしまったようだ。
エアコンをつけているのに、温かいと思ったら肩には毛布が掛けられていた。
昨日王子さんが朝ジョギングに行くと言っていたから、出発しようと俺の部屋を覗いたら、寝ていたから掛けてくれたのだろう。
この全面にナオちゃんのミニキャラがプリントされた毛布の持ち主は間違いない!
正樹自身はそこまでフィギュアスケートを好いているわけではないし。
今回の物語は僕と王子さんが想像で描いた、もう一人のナオちゃんのストーリーといったところの話しだろうか。
ここまで納得のいくプロットが書けたのは、レイアップ以来かな。
しかし、ICE PRINCESSに関して、同じスポーツ作品とはいえ勝手が違う。
今回は主人公が女の子、しかもチームプレイの作品とも違う。
その点はかなり意識しながらプロットを書いてみたけど、これから王子さん以外の人に見てもらった時の反応が楽しみだ。
プロットを見てもらうのが楽しみって思えるのも本当に久しぶりだな。
「やぁ画人~、おはよう~風邪ひいていないかい~?」
ジョギングから帰ってきたと後と思われる王子さん。
12月だというのに、半袖半ズボンのジャージでジョギングだなんて・・・しかしこの人に無用な突っ込みを入れるのはやめよう。
「おはようございます!この毛布掛けてくれたんですね!ありがとうございます!」
王子さんのやさしさに感謝を込めて自分史上、こんなに大きな声を出したことがないってくらい元気な声で朝の挨拶をした。
「いや~いいんだよ、そんなこと~。でも分かってくれただろ~?ナオちゃんの公式ブランケットだよ~!アニメ化された暁には俺たちのアニメ主人公 ユキちゃんの毛布も作って欲しいところだね~。」
ユキちゃんとは昨日帰りがけの車の中で主人公のイメージを僕が伝えて、昨日二人で名前を決めたのだ。
漫画の名前はそのストーリーやキャラクターを表す名前にする事が多い。
本来ICEだから氷のイメージがあるが、あえて同じ冬のイメージで響きも良い“雪”になぞらえてユキにしたんだ。
「たしかに!?いいですね。今まで僕も自分の作品のグッズは作ってもらってましたけど男子キャラが多かったので、女子キャラらしいグッズ作って欲しいです!」
少年誌らしく男子キャラが多いのだが、買ってくるのは女の子のファンが多いようで、良く僕宛のファンレターも女の子からが多かった印象だ。
「うんうん、良いと思うよ~。この作品はフィギュアスケートアニメだからね、本当のフィギュアスケート会場で重宝されるようなものも作りたいよね~」
「たしかに!そうですね、折角ならそのままフィギュアスケートの応援に活用してもらえるグッズっていいですよね!」
うんうん。こういう話ができるというのは、いよいよ動きだしている感がある。色々な夢が広がる!
イメージは大事だ。
「ところで遅くまで根を詰めていたようだけど、平気かい~?」
さりげない気遣いが嬉しく思う。自分だって結構無茶なスケジュールで監督作業をするって聞いているから、人の気持ちがわかるのかな?
「はい、頭にあったイメージがあって、方向性が見えたので一気に書き上げちゃいました。2日くらいに分けようかと思ったのですが、かなり乗っちゃったので徹夜しちゃいました!」
「いいじゃないか~見せてよ~!正樹君が作ってくれた朝ごはんもできているし~。朝はごはんにわかめの味噌汁、焼き鮭だって。もう超おいしそうだよね~。」
普段は朝食までは作っていたわけではならいが、正樹らしい、シンプルだけどしっかりした朝食だ。
「さぁさぁ座って~。食べながらプロット読ませてもらってよいかな~??」
「ちょっと、食べながらはやめてもらえる?監督さん」
夫婦のようなやりとりでなんだが・・・母が正樹で、父が王子さんのような関係に見えてきた。
仕方がないといいながら王子さんは正樹の食事に舌鼓をうちながら食べ始める。
「正樹君この焼き鮭ってこんなにおいしいってどこの鮭だい~?」
「これは普通の鮭ですよーただ、砂糖を振っているんですよーこの前ネットで見かけて試したらめちゃくちゃ美味しかったから。」
「へ~砂糖!?それでこんなに~。」
2人は食事に拘るという点では本当に似ている。
僕は割と食べられればいい方だ。
食事も終わり少し落ち着いたタイミングでどうぞと言いながら、僕は印刷したプロットを王子さんと正樹に渡した。
「実はまだラストは書いていないです。このあと王子さんに話をしたあとに決めようと思ってます」
OKと返して王子さんがプロットを読み進めている。編集の人のネームの読みも早いけど、王子さんも早い。
ほどなく、読み終えた王子さんは「いいね!いいね!いいよ~ラスト気になるじゃない~どうするの?」と返してくれた。
そう、あえて最後の部分は”続きは話し合いで”と記載しておいた。
「最後はすごい悩んでますが・・・、やっぱりナオちゃんと一緒で、SPが不調、でもフリーで改心の出来となって2位になるという感じで考えてます。これだと、そのまんま過ぎますかね?ナオちゃんは3位ですが・・・」
これはかなり迷っている。でも最後にドラマティックな展開を持ってくるには、ナオちゃんの史実に基づいたほうがやはり面白い。
「う~ん。俺もそれで良いと思うよ~。だって小説からのドラマ化された作品とかも結構有名な話をモチーフにしていたりするじゃない~?俺たちはその日本女子フィギュア史上最高にドラマティックな展開を生で見た、いわば生き証人だよ~。やっぱりラストはこの展開じゃないと盛り上がらないよね~。平気だよ~!大枠のストーリーも大事だけど、その時のユキの心情とか、演技、音楽、俺たちなりのナオちゃん改め、ユキを創り上げて、アニメを見てくれるみんなにあの時のような感動を味合わせてあげよう~!」
良かった。王子さんは僕が欲しいときに、最高の言葉をくれる!
正樹は作品の事なので口は出してこないが、強く頷いてくれている。
「ありがとうございます!あと、もう1点気になる事があって。これは僕のオリジナルのストーリー展開の方ですが、ナオちゃんは最後まで韓国のキム・ハユンにSPもフリーも勝てなかった。僕の方は前日SPでユキに勝っていたキム・ハユン改め、キム・ソアはフリーで国からの期待や、諦めないユキの姿勢、そしてロシアの新星ソフィア・イワノフからのプレッシャーから大ブレーキがかかって大きく後退して3位まで落ちます、そして優勝をそのソフィアが取るって流れです。どう思いますか?」一気にまくし立ててしまった。
しばらく、沈黙が続く、かなり考え込んでいるようだ。ちょっと不安になってくる。
僕としては”フィギュア界に起こるリアリティ”、”ストーリーとしての面白さ”共に兼ね備えた展開としてこの流れは面白いと思った。
「それは確かに面白い。僕も良い流れだと思った。でも僕らのユキが新星に負ける形で終わってよいのかな?ずっとライバル関係にあったキム・ソアに負ける、でも本来既にピークを過ぎたアーティストが自分と向き合ってある種の奇跡を起こして終える。戦いには負けるけど記憶には残って有終の美となる。これなんじゃないかなって思ったよ。ここでソフィアに負けてしまうと・・・」
そういった後、しばらく王子さんは考えている、これは僕の思惑に気付いてくれるか?
「・・・そうか!だから最後を書いていないのかい?」
「はい、わかって頂けましたか?」
「なるほどね、続編を意識していると?」
「はい!僕はこの話をここで終えたくないと思ってます。もちろんアニメは売れないと続きが作れない、それは漫画と同じなのは解ってますが。でも僕はここでキム・ソアには勝って、新たな新星が現れたところで、ユキが奮起するという展開にしたいんです。ストーリーもその為にソフィアの登場を増やして伏線を張っていきます!」
その言葉に王子さんが大きく机を叩く。
ちょっと僕も正樹もびっくりしてしまった。
「いいよ!いい!すごくいい!その流れ最高だよ!僕らのユキはそうじゃないと!ナオちゃんは年齢もケガもあって、やはり限界だった・・・。しかしそれまでにたくさんの功績を残した。僕らのユキは当日のナオちゃんよりも若干若い設定にしていたね!
同じ状況ならきっとナオちゃんも奮起したはずだ!」
王子さんも乗ってくれた!よし!俄然やる気が出てくる。
「ありがとうございます。そうしたらこのラストに向けてプロット修正かけちゃいますね!ヒットさせて次を作りましょう!」
少し前の僕なら絶対言葉にしなかったような言葉を発する。
「OK~!OK~!最高だね~!」と王子さんから返答がある。
じゃぁ、まずはひと段落だねと、正樹が濃いコーヒーを煎れてくれる。
「ちなみに、それっていつ位に修正できるかな~?」
今まで明確な時期などを話した事がなかった王子さんがめずらしく時期を聞いてきた。
「今日はこのあともうひと眠りしようと思います。そこからソフィアの出番で微修正が掛かるので、そうですね、明日の夜には完成させたいと思いますが、どうですか?」
そう答えると、王子さんは手でOKマークを作り、こう続けた。
「そのスケジュールなら問題ないよ~!実は昨日の状況を受けてそろそろプロット完成だと思っていたから昔から付き合いのある映像メーカーのプロデューサーにアポを取っているんだ~。」
僕は正樹が入れてくれたコーヒーを口に含みながら聞いてしまう。
「そりぇって、もう、持ち込みでぇすか?」
凄い勢いで聞き返してしまった。やっぱり物を口に入れながらしぇべってはいけないな。
「落ち着いてよ~そうそう、アニメ監督から持ち込みで行う事もあるからね~。せっかく画人が早く書いてくれたのだから~早く持ち込まないと。良いスタジオは空きがないからね~」
そういうものなんだ。
しかし考えてみたらそういったものかも知れない、良いものは先に無くなる、自然の摂理だ。
今までの漫画は出版社に持ち込んで話が進んでいたが、王子さんから聞いている限りアニメは色々な形で進行するようだ。
純粋に僕もある程度は関わっていきたい。
それは原作者としての、把握をしたいという意味よりは、純粋な興味だった。
「僕も同席させて頂いてよいですか?」
「もちろん~一緒に作り上げるなかだからね~正樹君はどうする~?」
「あっ僕はもちろんパスしておくね。さすがに一マネージャーが出過ぎた真似過ぎるわ。」
「え~正木君もチームとして居て良いのに~。もちろん画人は同席ね~。漫画の持ち込みともまたちょっと違うシビアな感じになると思うけど平気かな~?特に僕は業界から嫌われているからね~」
正樹は“さすがに”と言って固辞する。
王子さんが嫌われている?そんな話今まで出ていなかったな。そもそも確かに王子さんに過去について僕は何も知らない。
「じゃぁ来週アポを取るね~!」
はい、と答えながら王子さんのコメントが気になっている。
でも考えても仕方がない。僕は王子さんを信じて動くだけだ!
そういって、まずはプロットを修正するべく部屋に戻った。