海ですか!?ファミレスですか!?
どんよりとした空。
肌寒いではすまない寒さ。
それを変える凍て付く風。
来てしまった湘南の海に。
昨日の温かさが嘘のような寒さだ。
王子さんの勢いに負けて連れて来られてしまった正樹と僕。
「モウ!寒いのだけど!監督さん!やっぱり寒いんですけど!分かってたけど。」
正樹が泣き叫ぶように訴える。
「いや〜この前来た時は冬だけどなかなか爽やかな感じだったんだけどね〜」
「それっていつです?」
思わず僕が聞いてしまう。
「うーん、2ヶ月前かな?」
「もう!それ秋だし!今12月だから!やっぱり街中!海の近くは寒さが違うし。」
「あはははっいいじゃない〜なんか冬の海っていうのもいいよね〜」
まだ出会って間もないけど何があっても王子さんはポジティブだと思った。
「せっかく来たんだし〜、さっさっ画人はここに座って〜この流れ着いた流木があるところあたりに。」
そういうと僕を木の上に座らせる。
そうすると海の波が来て靴が濡れるのもお構いなしに王子さんが波打ち際に立ち、背筋を伸ばしそこから大きな手を広げて、満遍な笑みでこちらを見つめながら。
「さー画人。海を見てごらん!悩みなんてこの海に来れば小さいだろ!?」
なんだろう、セリフは何回も聞いたようなセリフだ。
でも背景に大きく広がる海、さらに王子さんの凛とした姿、それを強調するかのように多いか広げられた手。
それらがそうさせるのかもしれないけど、このありふれたセリフに凄い説得力を感じた。
「えーそれ言うだけにここに来たの!?良く聞くセリフじゃない?」
「そうだよ!このポーズ込みで海の前でやらないと絵にならないだろ〜?」
「そうかも知れないけど!もぅ寒くて死にそうなんだけど、人の事考えてよね!」
正樹は寒がりだから人の何倍も着込んでるけど、ちょうど寒気が来てしまっていて今日の寒さは例年より寒いらしい…。
「あははっ正樹くん良く分かってるね〜良くあいつらにも言われたな〜。でもだよ、この風景でこのセリフはやっぱり来ないと伝わらないと思わないかい?」
まぁねっと小さく正樹も呟く。合理的な正樹には王子さんの行動は理解し辛いだろうけど、それでも説得力はあったようだ。
僕は脳天を打たれたような衝撃だった。
これが漫画なら見開きにして描きたい、それだけ絵になるし説得力のあるシーンだった。
あいつらって誰の事だろう。
「どうなの?画人が解決したならいいけど」
正樹が聞いてくる。
「僕にはかなり響いたよ!王子さんの言う通りだなって思ったんだ。なんだが最近家と出版社の往復位しか家から出てなかったから外に出て、この広い海を見て、王子さんのその佇まい、ポーズ、そして声色全てを聞いてみて、確かにって思いました。」
本当にその通りなんだよね、後ろ向きで考えていても仕方ない。
今回感動を与えてくれたナオちゃんもきっとネガティブになった事はあるはずだけど、それをみんなには見せずに常に頑張っていたんだ。
前向きじゃなきゃあんな事は出来ない。
「僕は、ずっと自分の頭の中で小さく、縮こまって考えていたのかもしれません。まだ答えが出たわけではないですが、すっごく前向きになれました!」
「まっ僕は画人が良くなったならなんでもいいや」
「ほらほら~、ね〜悩んでたら海に限るんだよ〜僕も悩んだら海を見るんだ〜」
意外だな。王子さんでも悩むことがあるのか。
「へー監督さんも悩んだりするんですね、そんなタイプには見えないけど。」
正樹がズバッと言う。こんなに初対面の人にズバズバ言う正樹は初めて見た。
「ひどいな〜僕だって人間だよ〜悩むことだってあるさ〜。」
「人間ならこんな寒い中、立っているの無理なんですけど、なんか画人も前向きに慣れたから良いけど、そろそろ僕が寒くて死にそう」
確かに正樹の唇が白くなっている…これはまずいかも。
「そうだね〜そこにファミレスがあるから入って暖を取ろう〜」
正味外にいた時間はそんなに長くなかったが凄いこの時間は本当に大きかったな。
正直もう少し海を眺めていたかったが正樹が限界なので僕らはファミレスに入った。
冬の海ということもあり空いており、すぐに席に通してもらえた。
「あーほんと身体が冷え切っちゃったからドリンクバーもだけど、なんか温かいモノ食べたい!でもおなかはそんなに空いてないしーうーん。」
「それなら、お汁粉なんてどうだい~?」
「あっ確かに丁度良いかも!画人決まった?オーダーしちゃうよ!」
かなり焦っている正樹に遠慮して僕と王子さんはドリンクバーだけにした。
「二人は何飲む?とってきてあげる!」
暖かいところにはいって、少し上機嫌になった正樹に、二人ともホットコーヒーをお願いした。
そうこうしていると僕らの隣の席に高校生4人が入店してきた。
皆それぞれ違う制服だ。
ピアスを3つあけたちょっとやんちゃな感じの男の子から、スポーツやっているのだろうか?坊主の子、さわやかな感じの男の子に、少しオタクっぽい子までいる。
なんだか不思議な組み合わせだ。
「ねーねーなんか不思議な感じの組み合わせだよね?」
ドリンクバーから僕らのコーヒーを持ってきた正樹がいう。
「僕もそれ気になってた、なんだかタイプがみんな違うから不思議だね」
「う~ん、そうだね~あういうタイプが集まる時って、幼少期からの付き合いだったりするかな~制服違うし~」
確かにそうなのかも知れない。タイプもテンションも各々違うが仲良く談笑している。
「そういえば~画人の悩みは少し晴れたのかもしれないけど、平気~?まずは画人を尊重と思っているけど重たかったら言ってね~。」
そうだ、まだ解決しているわけではない、僕は僕なりの答えを出してしっかり王子さんに答えたい。
「はい、ありがとうございます。でもしっかり自分で答えをだします。今ストーリーを大枠どちらの方向で進めるか悩んでまして・・・」
王子さんがじっとこちらを見つめている、かなり真剣なまなざしだ。言葉を発さずうなずいている。
「僕としてやりたいことはあるのですが、観る人がそれを求めているか気になってしまって・・・」
「なるほど、それが画人の今の想いの根幹にあるんだ。」
いつもの語尾が伸びる感じでもなく、真っすぐな視線で、王子さんが話す。
「それって・・・」
と王子さんが話した時に、急に隣の高校生たちが盛り上がって王子さんの発言を遮る。
「ちょっそこはやっぱりレイアップでしょ?俺はあれきっかけでバスケ始めたし!」
坊主頭の男の子が店内に聞こえる大きさでテンション高く話す。
「いやー俺は地獄白書だね。あの人は断然バトルものほうが面白い。」
ピアスの少年がこれまた大きな声で返す。
「二人マジうるさい!」
さわやかな男の子がいがみ合っている二人に一喝する。
「気持ちは分かるけど、迷惑だから。ちなみに俺はグリーンロード。」
ここまでくると偶然ではないようだ。これは僕の作品について語ってくれている。
「ねーねーこれって画人の作品について話してない?」
正樹が小声で話しかける。
「そうだな、2作品までは偶然かと思ったけど」
「そうみたいだね~ちょっとどんな話か聞いちゃおう~」
王子さんはいつもの雰囲気にもどっている。
「いやーお前らメジャーな作品が好きだなーちなみに俺は”L”かな。あの推理モノは面白かったのに、短期連載だったのは残念だ。」
オタクの男の子が続く。
「あー解るー俺それでいったら”イークルース島戦記”めちゃくちゃ世界観が広がったとこで終わって、マジかーってなったよ。絶対面白そうって思ってたのにさー。」
”L”とか”イークルース島戦記”って打ち切りに終わった作品にまで話題にしてくれるなんて随分好きていてくれているようだ。
「ね~ね~君たちは森山画人が好きなの~?」
「んなっ何言っているのよ?」
思わず正樹が叫ぶ。俺も叫びたいけど・・・それ以上にめまいの方が先にして、それどころではない。
「ま~ま~名乗るわけではないから~」
王子さんが子声で言う。王子さんの今までの行動力を考えるとにわかに信じがたい。
「あっはい、そうっす、僕ら森山先生が好きで同中時代によく集まってたんです。」
ピアスの少年が快く返事をくれる。
「そうなんだ~へ~。ちなみに4人は森山画人の何がすきなの~?ぼく実はちょっと先生の事を知っていてね~伝えておいてあげるよ~」
「まっマジすか!?」
4人の返答が全く同じ。こういったところで4人は息があるのか。
4人ともすごい興奮してワイワイ話している。
「あっじゃー俺から良いですか?自分先生の影響でバスケ始めました。もうレイアップのキャラとバスケ愛です。すげーバスケ好きですよね、先生。それにキャラの個性がさらにバスケの試合に深みをますっていうか。」
坊主の少年が作中のポーズも込みで熱く語ってくれる。
「あー俺それでいくと俺はストーリー展開が好きかなー。一番好きなのはグリーンロードですけど、先生って必ず多くの作品でどんでん返し的な展開入れてくるのが面白くて好きですね!その点もちろんレアアップもあの田東戦で最後の最後でレギュラーメンバーの2人が退場に追い込まれながら控えの2人が奮闘する、追い込まれてから踏ん張るの激アツなんで。」
さわやかな少年は今日一番の笑顔を見せてくれる。
「僕は・・・ちょっと・・・違うかもです。僕は先生がもつセリフセンスが好きかも・・・です。それってキャラと近いかもですが・・・ちょっと違うんです・・・プロローグの文章とかも含めて、あの・・・ワードセンスが好きなんです・・・うん、どの作品も」
ちょっとオタクの子もたどたどしくだけど、興奮気味に話してくれる。
「お前はどうなんだよ?茂!?」
「さっきはバトルって言っちゃったけどさー、さっきから考えてたんだよーでも選べないなー俺、先生の作品のすべてがすきだなー3人がいう事も分かるけど、それって選べない。それに俺たちの青春を彩ったって段階で、理屈じゃない部分もあるっていうか。」
ピアス少年が悩みながらも答えてくれた。
「お~みんな熱いな~でも今のはぜ~ぶ覚えたよ~あとで写真撮らせてよ~先生にコメントと共の送っておくから~」
「おーマジすか!?」
また4人のコメントがぴったりだ。
王子さんが写真を撮った後も少年たちの興奮は鳴り止まずだ。
また4人の会話に戻っていく。
「どうだい?さっき画人は見る人の事が気になってって言ってたよね?そしてファンの声を聞いた。みんなバラバラだったろ?でもそれでいいんだよ。だってさっきも、画人の作品を好きな4人でも好きな理由は違うんだ。そこを意識しちゃうと、俺だって何にも作れないよ。そこは自由にやっちゃえばいい。誰にも縛られる必要なんてないんだよ。僕はあの会場で画人と一緒になったのは運命の出会いだと思ってる。きっと画人なら俺を、そして見てくれるファンを納得できるモノを作るさ。新しい作品を嫌いってやつも出てくると思うけど、気にする必要なんてないんだよ。好きって言ってくれる人に向けて作ろう。まぉーとは言え今回僕は監督だから納得いかなかったら口は出すけどね〜」
あっこれだ…これだったんだ、ずっと僕が求めていた答えは。
そう、昔は自由にやっていたけど、ヒットが続いて、いつのまにかファンの声を気にするようになって、そうしたらどんどんわからなくなっていた。
“自由にやればいい”とは本当にその通りなんだけど…、僕は自分のやりたい事よりも一つではないファンの声に答えようとして自分を見失っていた。
これだ…全てのつかえが取れたと思ったら急に涙が出てきた。
「ちょっ平気?画人?」
正樹が咄嗟の涙にハンカチをよこす。
「ごめん、なんか長く痞えていたものが取れたと思ったら、急に涙が…ははっダメだ、止まらない。」
「どうだい〜画人?海には来るものだろ〜?」
目の前が開けるってこういう事言うのかというくらいに頭がすっとする。
王子さんの言葉にうなずきながらも、僕は頭の中の想いを伝える。
「僕は決めました、ずっとストーリーの展開で悩んでたんです。シンデレラストーリーで行くべきか、それとも這い上がっていくようなストーリーにすべきか。見てくれる人はどんなストーリーの方が受けるんだろう、漫画とアニメって違うのかなって。でも僕が描きたい今回のストーリーは、一度栄光を味わった女王のリベンジです。逆境からの復活を描きます。」
さっきの王子さんと同じ真剣なまなざしで聞いてくれている。
「僕はどうしてもあの会場で見たナオちゃんのポーズが脳裏から離れない。だから挫折からの復活のストーリーが描きたいんです。そして単純な復活のストーリーではなくて、孤独に打ち勝ちそれでもみんなに元気を与える、そんな魅力ある女性を描きたいです。」
カップにあるコーヒーを飲み、ひと呼吸おいて王子さんが語り掛ける。
「画人がそれを心の底から描きたいなら描けば良いよ。失礼だけどナオちゃんと同じく栄光と挫折を味わっている画人だからこそ描けるものがあると思う。僕は見てみたいな!そして描いてみて、つまらなければそもそも僕やこの先にいる人たちが認めないと思う。それでいいじゃないか?でも、しつこいけど君が描くこの挫折からの復活ストーリーはおもしろいものになると思うな。僕は君があの会場であのイラストを描いた時からそんな予感しかしていない。きっと今までの画人にとっての失敗も、この作品をヒットにするための準備だったんだよ。もっと自分に自信を持って!この作品は日本国民全員に愛される必要はない。フィギュアスケートとアニメを愛する日本、いや世界のファンに認めてもらえばよい。アンチは上等だ。僕にはアンチがたくさんいるけどその分ファンもいてくれていると思っているよ。好きな事しかしてないのにね。とことん好きな事をやろうよ!あははははっ」
やばいな、再び心に刺さった。これ以上泣くのは恥ずかしいからこらえてしまう・・・。
今まで僕が、もやもやしていた事を全部言ってもらった気がする。
そうなんだよな。僕はずっと迷子になっていた。自分の描きたかった作品が今まで通りの反響がなかったから、自分の本当の描きたいものよりも、ファンの気持ちを勝手にくみ取ったつもりで作品をつくって、またそれがまた受けなくて・・・。
そんな事を繰り返すうちに見えなくなっていたんだ。何が本当にやりたいことが。
自分の心よりも聞こえてくる作品への批判に声を傾けてしまったんだ。
そんな状況だからせっかく見えた自分の描きたい題材にも躊躇してしまったんだ。
でもさっきの子たちはそれでも僕を認めてくれていた。そういう子もいるんだ。
そうだ、ここまで来たら一部の読者の事を気にする事はやめよう。もう好きな事をとことんやってやるんだ。
そしてその内容でファンに納得してもらうんだ。
「ちなみに俺は今回のナオちゃんの復活には、元フィギュアスケーターのお姉さんの存在は大きいと思っているんだ。彼女が振付師になってから振り付けもだけど、精神的に安定したというか。なんかそんなのも盛り込んじゃうとか。あくまでフィクションなんだから想像して楽しんでいこうよ~」
そうなんだよな、引退がささやかれながらもシニアデビューからの恩師である川島コーチとお姉さんのミエさんが振り付け師としてナオちゃんを支え続けてくれていたんだよな。そう考えるとフィギュアのような個人競技の孤独な闘いというポイントにも彼らのような存在があり打ち勝てている。そうするとストーリーにも広がりがみえる。
そしてそこから復活を遂げるんだ。僕自身が今、彼女のように復活をしたいと思っている。そう考えると
より描きたい事がはっきりと見えてきた。
一度どん底を味わった女王の復活。改めてこれが今回の作品のテーマだ。
「王子さん!ありがとうございます。僕はっきり見えてきました。僕は王子さんの言う通り、どん底からの復活を描きます。とことん描きたい事を描いてみます!」
「うんうん、良かったよ~!」
「監督さんも役にたつじゃん!」
正樹にも心配を掛けたけど、また頑張れる。
テンションが上がる!本当に海に来てよかった。王子さんのおかげだ。
そしてまた僕の作品で夢中になって話している若者たちのおかげでもある。
本当に素晴らしい日だ。
「実はね、昨日画人の事を調べた時に思い出したんだ~。昔、レイアップのアニメの監督をオファーされた時があってね~。その時は本当に忙しくて漫画を見ながらも、断らざるを得なかったんだ~。」
そうなんですね、と答えながらそういえば当時途中までオファーしていた監督が都合で変更となったと当時の編集が言っていたかもしれない。
「あっあったよその話。覚えてる」
正樹も覚えているようだ。
「その時の印象が凄く強くてね~。すごいまっすぐな主人公だなって。実は昨日の夜、電子書籍で購入してほとんど読んだよ~。本当にどの主人公もまっすぐな性格だよね。まるで画人みたいだ。」
そう、面と向かって言われると恥ずかしくなる。
「そんな漫画なら家にあったのに」
「いや、そうしたら画人が気にするだろ?まっそんな事は置いてて、画人が描く今回の女性もきっと魅力的なまっすぐな主人公になる。絶対うまくいく!」
王子さんがその話をしたら考えが広がってきた。
そう、さっきの女王の復活にはキーパーソンが必要だ。
どういったキャラクターにするかは決まった。
語尾に~がつく、空気を読まない陽気な女性コーチにしよう。