私の好きな人が変な性癖を持っていたが、実際に自分もやってみたら意外と合っていた件
私の名前はミルザラード・フォーエン。
私には好きな人がいる。
我がクラン、『黄昏の宴』の団長ブラン・シュトラウスだ。
そしてその団長には愛して止まない存在がいる。
クランのアイドル、魔術師のミランちゃんだ。
ミランちゃんは女の私から見ても、とっても可愛い女の子だ。
たまにドジっ子属性を発揮しているが、それがよりミランちゃんの可愛らしさを押し上げている。
私はそんなミランちゃんとは正反対のような女だ。
同じ魔術師なのに、ミランちゃんみたいにみんなの補助なんて出来ない。
私が出来るのは凍らすか、燃やすかの二択だ。
私はここ最近、胸が苦しくなる光景をよく目にする。
団長とミランちゃんのイチャイチャする光景だ。
団長が満面の笑みでミランちゃんの頭を撫でているのは序の口で。
最近のお気に入りはミランちゃんに対する餌付けだ。
よくミランちゃんを自分の隣に座らせお菓子を自ら食べさせている。
それからこの間見たのは、寒い日にミランちゃんの手を握って自分のポケットに入れている光景だった。
他にもいろいろあるけど、その光景を見る度に私は自分の顔が歪むのがわかる。
無性に泣きたくて、叫びたくなるのだ。
だからと言って本当にそんなこと出来ない。
私は団長も好きだが、ミランちゃんだって好きなのだ。
だから私はグッと我慢する。
泣きたくなるのを我慢して一回ギュッと目を瞑り、その後は笑顔になるのだ。
たぶんその笑顔は歪かもしれないけど、誰も気にしてないだろうから問題はないはず。
そんなある日。
私は、自分が怒りのあまりおかしくなるイベントに当たった。
「はあ〜、ミーが可愛すぎる」
「ま〜た始まったよ。団長の惚気が」
「いや、だってアレ可愛すぎるだろう? もう、俺いつ襲いかかるかわからん」
「止めろ、ケダモノ」
団長と団員で団長の友人のバインが話している。
これはどうやらまたミランちゃんの話題だろうか?
ほうほう、ついに襲いそうだと?
はあ〜、そろそろこのクランともお別れかな。
「だって見たか? あの俺とミランを見る目。もう俺、あの嫉妬まじりでこっちを見てくる目を見るだけで胸がキュンキュンするんだ」
「まあ、見事な変態だな」
「ああ? 変態じゃない。ただ俺はミーにあの目で見られるのが良いんだ。俺のことが好きで堪らないのに我慢している顔を見ると………はぁ〜、なんか胸が痛い」
「もう、心臓マヒでくたばればいいと思う。お前、このままで良いのか? 俺が思うに、そろそろ愛想を尽かされて他の男のところに行かれるんじゃないか? むしろそうなれと思っている」
うん? 今の話の流れだと『ミー』と言うのはミランちゃんではないと言うことか?
じゃあ、誰だ?
「あー? ミーが俺以外のヤツのところ行くわけないだろう? アイツは俺のことが好きだし、俺だってミーのことが好きなんだから」
「お前がミルザラードのこと好きだなんて本人気付いてないぞ。何回も注意してきたけど本当に止めた方がいい。絶対に後悔するから」
ああ〜ん?
今なんつった?
今私の名前出てきたよね?
今の話の通りだとすれば団長は私のことが好きだが、私にヤキモチを妬かれるのが嬉しくてミランちゃんとイチャイチャしていると………。
それが本当なら………団長、許すまじ!
正直、団長が私のことを好きだと聞いて嬉しい気持ちもある。
だけどアレだ。
可愛さ余って憎さ百倍、このままやられたままなんて私の性格上許せない!
このまま団長の前に行って文句を言ってやろうかと思ったが、今のこの考えがまとまらない感じで行ったら団長に丸め込まれるような気がする。
それは嫌だ。
とりあえず戦略的撤退だ、と私は親友の家を目指した。
「よし、もごう! 」
私の話を聞いた親友の第一声はそれだった。
何を? とは聞かない。
「まあ、もぐ、もがないは一先ず置いておいて、あんたはどうしたいの? 復讐するなら手を貸すよ? 」
復讐か………でも、好きなんだよね、許せないけど。
「団長がなんでそんなことするのかわからないけど、このままも嫌だな」
「確かにわからないよね………あ! ねえ、それなら同じことしてみればいいんじゃない? 」
「同じことか〜、でも私特に仲のいい男性いないんだけど? 」
「それなら当てがあるからちょっと待ってて! 」
そう言うと親友は部屋を飛び出して行った。
しばらくすると部屋のドアが開き、親友ともう一人誰かが入ってきた。
「あれ? もしかしてソルマックさん? 」
「こんにちはミルザラードさん。申し訳ないけど話は聞かせてもらったよ」
ソルマックさんは同じクランに所属している。
ただあまり一緒に組んだことはないのだ。
驚くことに親友とソルマックさんは従兄弟とのこと。
世間は狭いね。
んで、もう一つ重要な話、なんとソルマックさんとミランちゃんは幼馴染らしい。
「ミランのヤツ、団長とイチャイチャしているところわざと俺に見せてくるんだ。まあ、それを見て俺もアイツのこと好きだったって気付いたんだけどさ。正直………イライラする。それで今ミルザラードさんと団長の話を聞いてもしかしてアイツもと思ってさ。ねえ、俺達協力しないか? 」
ソルマックさんからのお誘いに私は迷う事なく飛びついた。
私達は固く握手を交わし、お互いに明日からの生活を楽しみにしていた。
「ねえ、ソル。今日も一緒にご飯食べに行かない? 」
「ああ、もちろん良いよミルザ」
私達のやり取りを目をグワッと大きく見開き見てくる二人。
もちろん団長とミランちゃんだ。
いつものように仲良さげに二人並んできたから、ここぞとばかりに私とソルマックさんは会話を聞かせるように大きめの声で話した。
「この間のオーク肉も美味しかったけど、今日はどうしようか? 」
「そうだね、じゃあコカトリスのパイ包みが美味しい店があるからそこにしない? 」
団長とミランちゃんの表情が面白いくらいに変わる。
なにこれ、楽しいんですけど。
私が考えている事が分かったのか、ソルマックさんもミランちゃんをちょっと確認して私に微笑んだ。
「じゃあ、ちょっと早いけど行こうか? 」
私とソルマックさんはクランハウスを出て、誰も見ていない事を確認してから笑った。
「ねえ、見た? あの顔!」
「ああ! 見た見た! お化けでも見たような顔だったな」
団長とミランちゃんは面白いくらい引っかかった。
その後も私とソルマックさんは、今までのお返しとばかりに二人の前で演技をしまくった。
「ミルザ、ほっぺにクリーム付いてるよ。………ほら、取れた」
「へへ、ありがとうソル。そう言うソルだって口元に付いてるじゃない………ふふ、取れたわよ」
「ミルザ! ミルザが欲しがっていた魔術書、知り合いが譲ってくれるって。今日、一緒に取りに行かないか? 」
「本当に? わあ、ずっと欲しかった物なの! ありがとうソル」
最初の頃は競うように私達の前でイチャイチャしていた団長とミランちゃんだが、最近はその勢いがなくなってきている。
「ソルマックの奴、あんなにミーに近付きやがって! 」
「ふえ〜ん、ミルザラードさんにあんなにくっついているよ〜」
俺とミランはちょっと離れたところでイチャつくミーとソルマックを見ている。
あの二人はある日急に仲良くなった。
今までそんな風に話すこともなかった二人が急にだ。
「いや〜、二人ともついに愛想つかされたか〜。うんうん、そうだよな。普通に考えて、好きなやつにヤキモチ妬いてもらうためにこんなことしている変態より良いよな」
「「うるさい!!」」
バインの言葉に俺とミランがキレる。
最近ミーは俺とミランが一緒にいても全然気にしない。
むしろソルマックとの仲を見せつけてくるような素振りを見せる。
俺のことが好きじゃなくなったのか?
確かにヤキモチ妬く仕草が可愛いから、ミランとよく行動を共にしていたが俺はミーを大事にしていた。
クエストに行く時は必ず同じチームだったし、ミーが困っているときはすぐに原因究明に努めた。
それに俺はいつもミーの瞳の色のピアスをしている。
俺の髪は短いから周りから見てもわかるはずだ。
「あ〜、団長もミランも自分は好かれていると思って好き勝手やってたんだから自業自得だろう? それよりお前達このままでいいのか? あの二人はどうやら付き合ってはいないようだけど、このままなら付き合うんじゃないのか? 団長とミランに振り回された二人だから、お互いの気持ちが良くわかるんだろう。取り返しがつかなくなる前にどうにかしないと、このまま結婚だってあり得るぞ? 」
俺とミランは青褪めた。
ミーが俺以外と結婚………俺のミーが………俺のミーが?!
「うえーーーん! ソルがミルザラードさんと結婚しちゃうよーーー! 」
ミランが泣きじゃくっている。
俺だって一人だったらきっと泣いてた。
「あ、明日ミーと話す」
「ふーん? 話してくれるといいな? 」
バイン、お前友達じゃなかったのか?
「俺は今回の件はミルザラードとソルマックの味方だよ。もめそうなら俺も呼べ。クラン内で戦闘は御法度だからな」
「ミー………あ〜、ミルザラード、そ、その話があるんだが」
団長がミランちゃんと二人で私とソルマックさんのところに来た。
「話………ですか? 」
「ああ、ちょっと来てくれないか? 」
私とソルマックさんは団長達に連れられ、クランハウス内の会議室にやって来た。
中には団長の友達のバインもいる。
私の視線に気付いたバインは。
「俺は何かあった時に対処する係だ。別にコイツの味方なわけじゃないから気にしないでくれ」
ふーん、まあバインはこの間も団長を諌めていたようだしいいか。
「それで、話ってなんですか? この後ソルと用事があるんで手短にお願いします」
私の言葉に団長とミランちゃんはショックを受けたような顔をしている。
まあ、そうだよね。
私も前にそんな顔したことあるから。
団長とミランちゃんは視線を合わせると大きく頷きそして………。
「「すみませんでした!!」」
土下座した。
なんだこれ?
私はよく分からずソルマックさんと顔を見合わせた。
それを見た二人は団長は私に、ミランちゃんはソルマックさんにしがみついて来た。
「ごめん! 本当にごめん! ミーの俺を見る視線があまりに愛おしすぎて引けなくなっていた。俺、ミーが俺の側から離れるなんて思ってもいなかったんだ。本当に大馬鹿でごめん。もう、絶対ミー以外と一緒にいないから俺のこと諦めないでくれ!いや………俺がミーを諦められないんだ。もう一回チャンスをくれ! 」
「ソル〜ごめんなさい! 私、ソルが私のこと幼馴染としか思ってくれないのが悔しくって。団長と一緒にいるとソルが私を見てくれるのが嬉しかったの。でもソルとミルザラードさんが一緒にいるのを見て、ソルもこんな気持ちになっていたのがようやくわかったの。本当にごめんなさい! 」
二人は私達にしがみついて泣いている。
これは………私とソルマックさんの心は今一つになった。
『『これはクセになる!!』』
まあ、私とソルマックさんもそろそろこの復讐もやめようかと思っていたところだった。
私とソルマックさんは趣味が悪いのか、お互いに団長とミランちゃんのことが好きなままだ。
この出来事があってから、団長とミランちゃんが一緒にいることはなくなった。
それまでの反動のように私とソルマックさんにそれぞれベッタリだからだ。
そんな二人は私とソルマックさんがちょっと話すだけで大変なことになる。
「またミーはソルマックと楽しそうに話している! ああ!ミー、そんな可愛い顔でソルマックと話さないでくれ! その笑顔は俺のものなのに………」
「ソル〜、ヤダよ〜、離れないでよ〜」
なんか性格がよりおかしくなっているような気がするけど、ちゃんと好きだから大丈夫。
束縛すらも嬉しいと思ってしまう私とソルマックさんは似た者同士だ。
バインには「ほどほどに頼む」と言われている。
幸せのかたちは人それぞれ、誰になんと言われようとも私は幸せだし、団長のことだって幸せにするつもりだ。




