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ファムータルの章 2,文通 1,
ファムータルの章 2,文通
「兄様!
アドアは何処ですか!?」
「何が愛妻だ。うるせえよ」
やっと丁鳩邸までやってきた弟に足払いをかけると、容易く転んだ。
「身体、動かねえだろ? 魔力喪失だからな」
倒れている弟の胸倉を掴んで立たせ、
「なんであんな馬鹿な事した?」
ファムータルは、兄のこんな形相を見るのも、兄にここまで冷たくされるのも初めてだった。
しどろもどろに、
「アド……彼女を、助けたくて……」
「お前が彼女に惚れてたことは知ってる。……だがな」
顔を間近に近付け、大声で、
「王族ってのは全ての民に平等でないといけねぇんだよ!
お前、死にそうな奴隷が居たら、片っ端から全魔力付与して助けるのか!?」
あまりの兄の変化に、思わず泣き出す弟を、その場に放る。
「じゃあな」
言って、丁鳩邸の扉を開き、一人入っていく。
「…………
……にいさま……」
ファムータルは、兄が去ったほうを見ながら、ただ涙を流していた。
その頬に、顔に。
春の陽射しが照り付けていることにも気が付かずに。