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ファムータルの章 1,越えてはならなかったもの 8
「……ん……」
気が付けば朝だった。
身体が酷く重い。起き上がるのも辛い。
――そっか、これが魔力喪失か……
兄から聞いていた症状と合致するなと思い、真っ青な顔で、少年は自分が寝台の横に倒れていたと自覚する。
あの後、手を繋いで少年は魔力を残らず彼女に送り込んだのだ。
――あ、じゃあアドアは!
「……アドア……元気になった?」
どうにか起き上がり、寝台の上を覗き込むと
『この馬鹿が!』
見慣れた兄の筆跡でそう書かれた紙が一枚あるのみで、彼女は何処にもいなかった。
少年――ファムータル殿下は、訳も分からずその場に頽れた。