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ファムータルの章 1,越えてはならなかったもの 5
邸に戻ると、準備は出来ていたようで即、使用人たちが出迎えてくれる。
「お祖父様は?」
「少々お待ちください。今いらっしゃいます」
少年が帰ってきたことを聞いた祖父が来てくれた。
「礼竜。……大丈夫か?」
「お祖父様! 僕のアドア!」
祖父の言葉の空気も読まず、必死に腕の中の彼女を紹介する。それを見た祖父は、
「そうか、愛妻か。
だが、我々まで愛妻とは呼べないな」
「あ……」
少年は腕の中で眠る彼女に目を落とし、
「そっか、僕にとってアドアでも、他の人からはそう呼べないんだね」
無邪気に、優しく語り掛ける。
祖父はこの時、少年の態度が見送るもののものではないと気が付かなかった。
優しく少年の頭を撫で、
『安らかに逝かせてやりなさい』
初めて人の死を目の当たりにするであろう孫に神聖語で、そう言った。