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改稿版ショートストーリー

改稿版オマケショートストーリー

 ~花婿衣装とその後~



 礼竜が雪鈴を浚って結婚式をすっぽかした。


 王族の間では、気まずい沈黙が流れていた。真っ先に礼竜を咎める祖父が――

「その……すまない……」

 がっくりと項垂れている。


 その場――花婿控室には、5人の男が居た。

 一人。礼竜の祖父にして前国王。

 一人。礼竜の異母兄丁鳩。

 一人。丁鳩の異父兄。つまりは礼竜の義兄サティラート。

 一人。礼竜の乳母兄にして義理の従兄イオル。

 そして最後の一人――今日この日まで極秘に花婿衣装を作っていたデザイナーだ。


「見せるべき……いえ、魅せるべきでございます!

 ファムータル殿下の背中にはもう傷はなく、雪鈴妃の愛のアマリリスが刻まれていると!」


 この主張で、デザイナーは前王の信頼を勝ち取り花婿衣装の制作権を得た。

 だが――エルベット王族の予見の知が、身内にどれだけ的外れかを立証する形になった。


「……ただの透けるレース……だな……」

 黒いトルソーが身に纏うそれは、ホルターネック。

 背中の身頃はなく、腰のあたりでエプロンのように結んで固定する仕様になっている。


 それが――裏地もない、レース一枚だ。

 レースの制作を依頼された雪鈴も、これをどう使うか分からずに織っていたらしい。


「魅せパンもご用意致しましたのにーー!!」

 ああ悲劇! と言わんばかりにハンカチを噛んだデザイナーが魅せパンと呼ぶそれは、上身頃の結び目から続く、レースを捩って臀部の溝に渡し、前にレースを垂らすコレのことだろうか?

「彼岸花の島国に伝わる伝統勝負下着、フ!! ン!! どぉ!! しぃィィ!!!!」

 デザイナーがいちいちポーズをつけながら叫ぶさまが、余計に兄たちの神経を逆立てた。


「おい。

 下着とか上着とか、付属品は他にねぇのか?」


 ひきつったサティラートの声に、

「魅せるべく、これが最善でございます!!」


 イオルは嘆息し、

「じゃ、女性陣入れるぞ」


 言って扉を開けて待機していた女性王族を入れる。


「何よこれ!? シースルー!!?」

「こりゃ、ライくん逃げるわ……」


「義祖父様。

 義祖父様も恥ずかしい思いしてドレス着て結婚式挙げたかもしれねぇ。


 でも、これを着せられそうになったライの気持ちが分かるか?」

「……すまない……」


「予備の衣装はございませんの?」

「……このバカがいい仕事をすると思って……用意させなかった。すまん」


 微妙な沈黙がかなり続き――


「前国王陛下。

 こうなったら礼竜の民事婚、ご許可願えませんか?」

「み、民事……婚……!?

 そんな、次の王が……」


「サティ義兄様冴えてる! はい、賛成!!」

「同じく!」

 真っ先に賛成した双子を見ながら、


「リデ、どう思う?」

「とても良いと思いますわ。早速、国中の鳥の口を借りて礼竜に伝えましょう!」


「あ、でも衣装が……」

 イオルの呟きに、妻が、

「衣装ならあるわよ! ライくんの結婚式に合わせて城下のお店がお祝い衣装展示してたの! 非売品って話だったけど、式後にライくんたちに贈るって言ったら売ってくれてね……民事婚ならあれがいいわ!」

「アム! いい仕事したな!」


「ぐ……う……。仕方ない……か」

 元々は自分の判断ミスだと、前王は項垂れた。



◆◇◆◇◆



 かくて、前代未聞の王位三位の民事婚が密やかに王城内の神殿で行われた。

 リディシアの人選により、いつか礼竜が祝福を込めた花を与えた兄妹が、主役の二人をエスコートしたという。



◆◇◆◇◆



 一年と少しが経ったころ……礼竜はそわそわと落ち着きがなかった。

 何しろ、雪鈴の命と魔国の運命がかかっている。……ついでに礼竜のその後も。


「ライ、ほら、これ飲め」

 兄が渡してくれた薬草茶をちびちびと飲みつつ、知らせを待つ。


「礼竜。アムの時も半日かかったろ? 半日かかっても安産なんだよ。落ち着け」

 ぽんぽんとイオルが肩を叩く。


 礼竜はずっと無言だ。


 やがて――


「お生まれになりました! 母子ともにご無事でございます!」

 部屋の鳥籠から聞こえてきた声に、風成で駆けつける。


 雪鈴は後産があるしまだ会える状態ではないからと、赤ん坊を先に手渡される。


 雪鈴そっくりの――女の子だ。

 公務で赤ん坊を抱いたことは何度もあるのに、初めて触るように震える手で受け取る。


「……初めまして。僕と雪鈴の……」

 そこまで言って、涙で声が出なくなる。

 手の中で必死に泣く小さな命。魔国の呪いは解けたのだ。


 と、涙でいっぱいの目を兄に向けると――

「にいさ、ま、……め、……目が!」

「あ! 丁鳩の目が……」

「ん? どした?」


 礼竜ほどではないにしろ涙ぐんでいた兄の瞳は――濃紺だった。


 ――雪鈴に、ありがとうをたくさん言わないと……!



◆◇◆◇◆



「祝言が下りました。読み上げます」

 長女リーリアントの洗礼にて、神官長が厳かに言う。


「父親ではなくこの娘を王位に据えよ」


 集まっていた王族や神職者はざわめいた。19年前の祝言が上書きされたのだ。

 当のリーリアントは、何も知らずすやすやと眠っている。


 丁鳩は安心していた。最初から次期王として教育をしていけば、礼竜のように急な厳しい教育に泣くこともない。……泣きたくなる時は多いだろうが、自分たちが支えればいい。


 結局、礼竜には男女3名の子宝が授けられた。




   おしまい。




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