Prologue:『Katharsis』
Prologue:『Katharsis』
昔々、とある一柱の神がいました。彼は機械のように感情を持たず、人のように想いを持たず。己の魂に刻まれた『世界を創造し、維持する事』、ただその使命を果たすためだけに生まれた存在でした。
彼はある日ひとつの世界を創り、やがてその世界に暮らす生きとし生ける命を大地に海に空に、数えきれぬ程沢山芽吹かせていきました。そして最後に自らの手で、世界へと祝福をもたらす精霊樹とその守人である虹龍族を創りました。
邪神の死と共に世界中に降り注いだ、金色の雨の中。三つの世界へと分離したかつて存在したその世界の名は『カタルシス』。そして一億年以上も永き時を経た現代。カタルシスの転生体とも言えるその三つの世界は、一つの生者達の国と二つの死者達の国として存在していました。
かつて世界に祝福を与えた精霊樹と瓜二つの青緑色の髪と瞳を持つ、魔族の王家の末裔が支配する生者の国エーアデ。エーアデで死亡した者達が生前自らが犯した罪を裁かれ、教皇が許した者だけが天使となり次の転生を待つ死者の国レーゲンボーゲン。レーゲンボーゲンでその罪を裁かれた死者達の中でも重罪を犯した者が吸血鬼となり、贖罪のためだけに生きることを義務付けられた死者の国、ヴァッサー。
現在一人の国王と二人の管理者によって治められているその国々は、本来ならば真白き神殿にて民を愛し慈しむ一柱の王が治めているはずでありました。その王の名は、創生神エア。かつて存在していた世界であるカタルシスを創った張本人でした。
ある時は『世界カタルシスを黄金の雨と共に滅ぼした邪神』。またある時は『大勢の罪無き人々を銀色の塵と化し殺害した愚王』。そしてまたある時は『エーアデ国王家の先祖である勇者と異世界より召還された聖女とその仲間達に倒された世界の悪』。
「世界を救った勇者さまと聖女さまは、
幸せに末長く暮らしました」
そんなエピローグで締められた物語の、その裏側で。
世界のための人柱となり砕け散った創生神エアは、
人々にとっての『悪』となりました。
『喪われた愛しき存在を、取り戻したい』
人も神も関係なく願われるその願いを奥底に、
絶えず繰り返される争いがありました。
気の遠くなるような数の時戻りを経て、
行き止まりの世界の結末に
一石を投じる者がおりました。
たった一つだけ遺された救いの道を選び取るは、
命を城覆う氷華へと芽吹かせた哀しき女王の涙。
血潮それその物が真白き雷を呼び寄せる、
最高の触媒だったのだと。
『めでたし めでたし』
そうして世界の終末を斬り開き、
ハッピーエンドを迎えたエンディング。
これは其処では語られる事の無かった、
誰もが知らぬ物語とその続きの御伽噺。
It will start soon.