不幸の重なり
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宮良と万鈴は空を見上げる。
素晴らしい夜空だ。何百もの星々がきらきらと輝いている。
「すごい…!綺麗だね…!」
「き、綺麗なのは凄くわかるんだけど、この状況はどうすればいいの!?」
「うーん。なんかよく分からないけど、凄く心地が良いよ、ここは」
呑気に夜空を眺めて感動している万鈴をそっちのけに、宮良は焦った。
家に帰らなければ。
宮良はひとまず、このよく分からない世界のことを知ろうと思った。
「万鈴、ちょっと一緒に移動しよう」
「ん、分かった〜!」
なんだか、この世界に来てから万鈴はふよふよしている。どうしたのだろう。
「万鈴、大丈夫?頭おかしくなってない?」
いや、こんな風景が見えているのだから自分自身がおかしくなったのかもしれない。
「は!?何をぉ!失礼なっ!」
いつもの反応が返ってきた。大丈夫そうだ。
万鈴の手をひいて宮良は歩き出した。
周りを見渡せば、煉瓦や土のようなもので出来た家などしかない。ここは何処かの、住宅街なのだろうか。
とにかく、道に沿って歩くしかない。
…それにしても、人が1人もいない。それに、全ての家の窓を見ても内側にカーテンのようなものを引いているようで、中が全く見えない。
灯りも、道に沿って七メートルほどの間隔で置いてある小さな街頭と、夜空に浮かぶ星の明かりしかない。
広い道幅をもつ道だが、広いからこその寂しさがある。
コツ、コツ、とローファーで地面を叩く音がこだまする。
不安になってギュッと万鈴の手を握った。
「大丈夫だよ、宮良。きっと帰れる」
「……うん」
万鈴は宮良の不安を察したのか、ギュッと手を優しく握り返した。
その時。
ガシャ、ガシャ、ガシャと不気味な音が進行方向から響いてきた。
「え!?」
「なんか嫌な予感がする…宮良、一応引き返そう」
「え、あ、うん」
宮良と万鈴は今来た道を引き返そうとして後ろを向いた。
…だが。
「きゃぁっ!?」
宮良の右腕をかすって前方へと飛んでいったそれは、背後から放たれたであろう弓矢だった。
「へ…?」
宮良はその場にへたり込んでしまった。
冷や汗がどっと出る。立ち上がらなければ、と本能が警告を発する。
弓矢が掠った右腕からは血が垂れてきた。掠っただけなのに、頭がジンジンするくらい痛く感じる。
何も考えられない。ただ、これは現実なのか夢なのか。痛いという事実が頭を混乱させる。
「大丈夫!?宮良、行ける!?」
万鈴が宮良に駆け寄る。その声に、現実に引き戻された。
「あ、うん。大丈夫…」
立とうとしたが、足がすくんで動かなかった。
「宮良、捕まって!!!」
万鈴が、へたり込んでいる宮良の前にまわっておんぶをした。
「ごめん…」
「良いって!!」
宮良をおんぶしているのに、万鈴は軽やかなステップで住宅街を駆け抜ける。
宮良は弓矢が飛んできた背後が気になって、万鈴の背の上で恐る恐る、後ろを振り返った。
「……っ!!」
暗闇の中に、鈍く光る銀色の鎧を着た者が何人も立っている。その中にいる、リーダーのような黒い鎧を着た者が弓をこちらにひいていた。
「万鈴、弓矢がくる!!横に避けて!」
「えぇっ!?わ、分かった!」
万鈴は運動神経の良さを活かして、反射的に体を道の左に避けた。その直後に万鈴と宮良の右側を弓矢が飛んでいった。
「ひぇっ!!」
間違いなく、あのまま右側に居たら弓矢は彼女達を貫いていただろう。
「はぁっ…はぁ、はっ」
「万鈴…もう良いよ、自分で走るから」
あれから3本ほどの弓矢が飛んできた。
それを宮良の指示で万鈴が避ける。それを繰り返していた。
流石に元陸上部のエースであった万鈴でも、同年齢の少女をおんぶして走り続けていたのでは体力が尽きてきた。
「ごめんね、ありがとう万鈴」
「う、うん…はぁっ、ふぅ」
鎧を着た者達は追いかけてきてはいるが、大分歩くのが遅い。そのお陰で、もう鎧を着た者達の姿が見えることはなくなっていた。
宮良は万鈴の背からゆっくりと降りる。
右腕からは気付かぬうちに多くの血が地面へと落ちていて、半袖の制服の袖を赤く濡らしていた。
「宮良…それ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。それよりも、この世界から元の世界へ帰る方法を探そう」
息が整い終わった万鈴がかけてくる心配そうな声に対して、なるべく明るい声で答えようと務める。一応、ティッシュをバッグから取り出して押し当てた。
「ちょっとこの本が気になるんだけど…やっぱり、この本がこの世界に来た原因じゃないかと思うの」
「そうだね…その本を開いたらここに居たんだもんね」
あたりを探して、なるべくゆっくり休めそうな路地裏を見つける。今まで歩いていた大通りよりは暗いが、鎧の集団が来た時に路地裏にいたほうが見つかりづらいだろう。
本当に、何なのだろうか。あの鎧の集団も、この世界も。
そんな疑問を打ち消す。考えたって仕方がない。とにかく、この状況をどうにかしなければ。
持っていたバッグから本を取り出す。開いてみるがどうにもならない。
文字も読むことが出来ない本なんて、どうすれば良いのだろう。
万鈴も宮良と一緒に頭を抱えた。
ヴァウッ
本当に、気づかなかった。
気配さえも、物音さえもしなかったから。
え?、と彼女達が思った頃にはもう遅く。
『目のない、不気味な犬のような鳴き声をする生き物』がこちらへと飛びかかってきた。
「いやぁぁぁぁぁ!?!?」
「きゃぁぁぁ!!」
その不気味さから宮良と万鈴は悲鳴をあげる。
犬は、万鈴の方へ飛びかかっていった。
「や、やだ!?何!?痛いっっ!!」
「万鈴!!!!!!!」
万鈴は犬に押し倒され、犬のもつ鋭い爪が肩に食い込んでいた。
急いで万鈴から犬を引き離そうとする。それでも、なかなか引き離せない。
「万鈴から離れろっての!!!!」
何故、嫌なことというものはこう何度も重なるものなのだろう。
背後からガシャ、ガシャ、ガシャとあの鎧の集団の足音が聞こえてきた。
「う、嘘でしょ…」
後ろを振り向くと、鎧の集団が路地裏にいる私達を大通りに出さないよう、大通りへの出口に立ち塞がるようにして立っていた。
良かれと思って路地裏に入ったが、逆にそれが仇となってしまった。
「なんなのよ、あんた達!!!!」
怖い。
だが、万鈴を助けなければ。
宮良は万鈴に覆い被さる犬に全力で体当たりした。それでも、女子高生である万鈴に覆い被されるほどの大きいからだをもつ犬だ。びくともしない。
【そこのお前、止まれ】
鎧の集団のリーダーであろう黒い鎧を着た者が低くしゃがれた声で、彼女達に向けて、始めて口を開いた。
そして、腰に差していた剣を抜き、宮良の首筋にそっと当てた。
再度犬を万鈴から引き剥がそうとした宮良は、その行動をやめなければならなくなった。
万鈴はずっと痛みに呻いたままだ。はやくどうにかしてやりたい。
【お前はミヨリだな?その本を渡せ】
「…本?本ならあげるから、その犬を万鈴から退かして。それとこの剣も」
内心冷や汗でいっぱいだが、なるべく冷静に考え、声を発する。
何故、私の名前を知っているのだ。
【駄目だ、お前らはここで殺す】
「…え?」
いやいや、見逃してよ!!
そんな宮良の願いも虚しく、黒い鎧を着た者は宮良の首筋に鋭い刃を押し付けた。
疾風が力強く宮良の頬を撫でたのは、その次の瞬間の出来事であった。
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