第9話 コーディネート
「いい感じに映ったわね。でも、ミオンさん、デフォ衣装しか持ってないのかしら?」
ヤタ先生の指導の元、ミオンさんがグループ限定での配信を開始した。
二人はバーチャル上のスタジオでセットアップしているが、残る俺とベル部長でその配信を見ている。
画面の中央にバストアップが映ってるのは、いかにもバーチャルアイドルの配信って感じだが、確かに衣装がデフォのままなのはいただけない……
『ミオンさんー、デフォルト以外の衣装は持ってませんかー?』
『持ってないです。服とか興味ないので……』
画面上のミオンさんがそう答える。
まあ、リアルのほうでも興味ないんだろうなあって感じだけど、せめて髪はもう少し梳かした方がいいと思うんだよな。
『ベルさん、ちょっと余ってる衣装とか貸せませんかー?』
「私の衣装ってボディーラインが出やすいから、そんなの着せられませんよ……」
あ、やっぱりそういうの意識した衣装なんだ。
うん、ベル部長は色々と凹凸が激しいから、そういう衣装も似合いますね!
『じゃー、部費で出すのでー、私とベルさんで服を選んでいいですかー?』
『はい』
その答えを聞いて、ベル部長もバーチャルビューに行ってしまう。
二人はミオンさんをどうコーディネートするんだろ……
一人ボーッとそんなことを考えていたら、配信に映っているミオンさんの服が誰が見ても「アイドルです!」というフリフリでファンシーな物に変わった。
『ショウ君的にはどうですかー?』
「……ヤタ先生の趣味全開なんですか、それ? そりゃ可愛いとは思いますけど」
あとやっぱり髪はもう少し梳かした方が……
『じゃ、次は私の番ね』
そう聞こえた次の瞬間に、ミオンさんの衣装はOLっぽい、いや、受付嬢っぽい感じのスーツに変わる。
うーん……
「これはこれで良いんですけど……」
なんというか、ミオンさんのイメージに合わない。もっとこう……
『はっきりしないですねー。そういう優柔不断な態度は女性に嫌われますよー?』
『そうそう、もっと直球で「可愛い!」とか褒めないと』
二人してボディーブローはやめてもらえますか? っていうか、俺そもそも女性の服を選んだことなんかないんすよ……(姉・妹はカウントしないとする)
『あの……ショウ君に選んでもらっていいですか?』
あああああ!
勘弁してください、ホント。でも、断れる雰囲気でもないし……はあ……
「わかりました。そっち行きます」
目を閉じて……しばらくして目を開けるとスタジオの隅の方に立っていた。
それを見つけたミオンさんが手を振ってくれる。うう、プレッシャーが……
「えーっと、衣装棚はこれか……」
すぐ近くにあった衣装棚を開くと、目の前に衣装一覧がずらーっと並ぶ。結構高いんだよな、アバター衣装。
上下個別にコーディネイトとか高等な技は無理なので、セット衣装が安パイだろう。セット割引もあるし。
つらつらと眺めながらスクロールする途中に、ベル部長やヤタ先生の選んだやつもあった。
あの二人もセット衣装だったんじゃねーか……
「うーん……」
ひたすらスクロールを続けている俺に視線が集まっていてつらい。
とはいえ、ミオンさんの晴れ舞台の衣装だし、安直に決めていいものやら。
「あっ、これどうかな」
俺は一つの衣装を取り出して、ミオンさんに渡す。
こういう時、試着だけなら無料なのはありがたい。
『うん。これにします』
いや、まだ着てないよね? とりあえず着て?
「おー、いいですねー」
「へえ、やるわねえ」
俺が渡したのは探検家っぽい衣装。
カーキーのシャツに胸ポケットが二つあり、腰にはブラウンの太いベルト。
下はハーフパンツだが、まあこれは配信では見えないか。
「あー、あれが足りないのか」
衣装棚をもう一度漁って目的のものを見つけると、それをミオンさんに手渡した。
「これ、どうかな?」
『うん』
赤いネッカチーフが首に巻かれると……いいね! グッと魅力が増した。
いかにも探検家って感じの服装が、少しくせっ毛なミオンさんにあってる感じ。
「なんか負けた気がするんですけどー……」
「そうですね……」
うなだれる二人。
「無人島だし実況中継っていうことなら、こういう服だとちょうどいいかなって思っただけで」
『似合ってる?』
「もちろん。他にもスポーティーな服とか合うと思うよ。テニスウェアっぽいのとか?」
『今度着てみる』
あ、うん、嬉しいんだけど、女性陣の圧がやばくなってきたわ。
とりあえず逃げた方が良さそうな気がしてきたし、俺はさっさとIROに行こう。
「じゃ、俺はIRO行ってきます。個人限定配信でミオンさんにすればいいです?」
「ええ、それでお願い。ヤタ先生の方でスタジオのスクリーンに繋いでくれるから」
「りょ」
俺はそう言い残して離脱!
スタジオを抜けてIROへとインする。
そいや、昨日は簡易テントで寝て落ちたんだっけ。どうなってることやら……
***
「ん……、大丈夫だったか。よしよし」
目を開けると簡易テントの天井が見えた。天井ってレベルじゃねーけど。
さて、配信の設定を開いて、まずは【配信開始:自動】を手動に変更。次に【個人限定:ミオン】にセットして配信開始っと……
「今日もIROはいい天気だなあ」
外に出ると青い空と綺麗な海が広がっていて、改めてフルダイブのすごさを実感する。
【ミオンが視聴を開始しました】
『こんにちはー』
「はい、ミオンさん、こんにちは」
『スタジオのスクリーンとの接続はしましたよー。あとはお好きにー』
グループ通話でヤタ先生の声が聞こえる。
なるほど、この通話なら配信に乗らないから、指示出しできるってことか。了解の代わりに頷いておく。
ただ、服選びに時間かかりすぎて、これから時間かかる探索とかは無理だよな……
『じゃ、当面はライブの練習をして、慣れてきたら全体公開にしましょ』
つまり今は、
[ショウ]—<個人限>—[ミオン]—<グループ限>—[ヤタ先生・ベル部長]
ってなってるけど、将来的には、
[ショウ]—<個人限>—[ミオン]—<全体公開>—[視聴者のみなさん]
こういう風になる予定と。
俺は直接文句を言われることはないけど、ミオンさんがちょっと心配かな。
ライブだと変なやつが湧いたりするし、そういうやつに変な絡まれ方されたりしないといいんだけど。
まあ、ヤタ先生とベル部長でミオンさんのフォローしてくれると信じてやってみますか。