第559話 ただしショウ君に限る
俺の言葉にアージェンタさんが顔をこわばらせる。
ただ、パッと思いつくレベルで問題がありそうな古代遺跡ってどこだろう?
「アズール。悪魔たちが支配下に置きたい古代遺跡に心当たりは?」
『死霊都市が一番だろうけど、もう壊れちゃってるからねー。次点で南の島のヒトミさんかな?』
「え? あそこですか?」
『古代遺跡の施設にもいろいろあるけど、虹銀を産出する場所ってあそこだけでしょ。今は行けそうにないけど』
『他の遺跡にはないのか?』
『僕が知ってる限りではないねー』
虹銀って、そんなレアな金属なのか。
地下11階に降りるところで湧く黒蟻。まだ誰も突破できてなくて、未実装領域とか言われてるらしいけど……
「その虹銀って、どういう金属なんです?」
『簡単にいうと、マナを注ぐと重くなったり軽くなったり、硬くなったり柔らかくなったりする金属だね。魔導多態鋼にも含まれてるよ』
「あー、それは確かにすごい……」
武器や防具としてめちゃくちゃ優秀な素材だそうで、悪魔たちも間違いなく欲しがるだろうとのこと。
『アズール。引き続き、渡島への警戒を怠らないよう』
『了解ー』
あとでベル部長とセスにも伝えないとだな、これ。
そう思っていると、ミオンが小さく手を挙げて、
「あの、副制御室の再起動は問題ないんでしょうか?」
「あ、そっちも気をつけないと。転移魔法陣の固定を外して盗まれたりしたら……」
『アズール』
『人手が足りないんだけどー!』
そうだよなあ。なんだか申し訳ない気持ちになる。
バーミリオンさんは、国境沿い(?)で悪魔たちの監視を続けないといけないし、本当に人手が足りない……
「しばらくの間、エメラを南の島にやりなさい」
「ふぇっ?」
クッキーを口に入れたまま、変な声をあげるエメラルディアさん。
白竜姫様が急に覚醒したのも驚いただろうけど、あっちにしばらく滞在しろっていうのも……
「エメラルディアに任せて大丈夫でしょうか?」
そして、アージェンタさんがひどい。
「普段はキジムナーたちのそばにいればいいわ。何かあった時にすぐ動けるようによ」
『それくらいならなんとかなるか』
『まずはキジムナーたちを守ってくれればだねー』
確かにガジュたちを守ってくれるのは嬉しい。最悪、竜篭に乗せてうちの島へ退避することもできるだろうし。
ただ、エメラルディアさんは南の島の場所は知らないはずだし、一度行っておかないとだよな。
「明日にでもみんなで行こうか」
「はぃ。そうしましょう」
ガジュたちにエメラルディアさんのことを紹介して、まあ、うん、よろしくお願いしておこう。
***
「アージェンタさんからの話はそんなとこです」
悪魔たちの狙いが魔石、それを集めて大きな魔晶石を作ること。
尋問で得られた情報なので、まあまあ確度は高いはず。
「魔石を再結晶化することができるのは初耳よ……」
「ショウ君以外に試した人はいないんでしょうか?」
俺もそれ気になってたんだよな。
<粒化>と<晶化>は俺が見せたし、使える人もいそうなものだけど。
「<粒化>と<晶化>は私もまだ使えないのよ? それに錬金術スキルも関係しているみたいだし」
「あー……」
錬金術スキルのレベル上がったもんな。
どれくらいのレベルが必要なのかわからないけど、やっぱり5までは上げないとって気はしてる。
「ふむ。その上で、どこかの古代遺跡を再起動させることが狙いであると?」
「そこは俺の予想だけど、他に使い道が思いつかないし」
「そうよねえ」
ただ、問題があって、
「魔石を再結晶化してできたやつ『再生魔晶石』っていうんだけど、使ってるうちに壊れるっぽいんだよな」
粗悪品なら数回で、普通の品質でも30回ほどで壊れてしまう。
実際、マナを込めたあとで使ってみてを繰り返すと、粗悪品は3回目、普通のでも32回目のマナ充填の最中に粉々になってしまった。
「それってかなり効率悪いわね」
「俺もそう思いました。ただ、使い道のない極小サイズの魔石を集めて作るならありなのかなって」
今は普通の品質でしか作れてないけど、品質が上がるにつれて利用回数が増えそうだし。
「それで、このことは話してもいいのかしら? 魔石の再結晶化については隠した方がいい?」
「あ、信頼できる人には全部話しちゃっていいです。というか、魔石を集めて、大きな魔石にする話は、悪魔を捕まえてくれた人たちには話すって言ってましたし」
サバナさんたちの救出に行って悪魔を捕まえてくれた人たちも、何か情報が得られたら教えて欲しいと。当然だよな。
アージェンタさんも、それに応えたいのでって相談されたわけだけど、俺の許可を取る必要とかないと思うんだよな……
「ふむ。では、明日にはその話はもう広がっていそうだの」
「一応、魔石をまとめて大きくする再結晶化については、秘密のままにしてもらったよ」
「それに関しては、公表するならライブで見せた方がいいわね」
その必要あるかなと思ったんだけど、実際にやって見せないことには、信憑性の問題もあるだろうと。
それに、俺が実際にやってるところを見せれば、他にも試そうとする人が増えるんじゃないかっていう話。
「あれ? 錬金術の本って本土にもあるんでしたっけ?」
「ええ、南の島の古代遺跡にあった本は、ほとんど『知識の図書館』で買えるようになってるわよ」
「おお……」
錬金術だけでなく、応用魔法学も全種類、空間、結界、重力魔法の魔導書も出回ってるとのこと。俺が独占してた感じもあったし、ちょっとホッとする。
「本土の人たちも上位の魔法スキルが使えるようになってるんですね」
「それがねー……」
「ベル殿のようなクローズドベータ組ですら、SPが足らんと嘆いておるのだぞ? 兄上のように潤沢なSPを持つプレイヤーなど他にはおらんということよ」
はい……