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第6話 魔女ベル

「ぃせくん……」


 ホントに小さく手を振ってくれたのが、めっちゃホッとするんだけど、


「1年B組、伊勢翔太君。出雲さんのクラスメイトなのね」


 呆けてる間に姫カットの先輩に入部届を奪われていたらしい。


「あ、はい。えーっと……」


「2年A組の香取鈴音よ。この部の部長やってるわ。よろしく」


「どうも」


 流石に先輩に握手を求められると答えないわけにもいかず応じてしまう。

 これは今から逃げるわけにもいかないか……


「さあ、改めて部室をご覧なさい」


 そういやそうだったと思い出し、改めてちゃんと部室を見回すと……

 え、これって最上級のPC(パーソナルコア)とVRHMD!? ってことは、IROできるの?

 いやいや、その以前に普通の部費で調達できるレベルじゃないでしょ、これ。俺が高校入学祝いで買ってもらった最新式PC&VRHMDと同じだし。


「えーっと、部費がお高いようなので辞退させていただきたいかなーと……」


「何言ってるのよ。生徒から部費や機材を徴収なんかしないわ。これは学校から降りてくる部費と、部活動で手に入ったお金で揃えてたのよ」


 部活動で? 手に入った? は??

 俺の脳内が真っ白になっているのを見てとったのか、香取部長が続ける。


「さて、入ってもらう以上は話さないといけないんだけど、このことは他言無用でね」


 そう言って一呼吸置いたのち、


「私のネットでの名は『ベル』。ゲーム実況バーチャルアイドル『魔女ベル』とは私のことよ」


「はあ、なるほど……って、えええええ!!」


 ゲーム実況系のバーチャルアイドルは数多くいるけれど、ここ一年で急激にファンを増やして上位勢になった『魔女ベル』がこの香取部長……だと……

 もちろんこんなことを他の誰かには言えない。中の人について言及しないのは、それが当然のこと……


 がっくりと崩れ落ちた俺の頭が誰かの手で撫でられる。というか出雲さんだ。

 出雲さんはここにくる前にこれを知ってたのか。いや、驚いたっていう感情を出雲さんがどう表すか想像できないな……


 ただ、そういうことなら部室のPC(パーソナルコア)やらVRHMDやらが最新なのも理解できる。

 彼女は活動で得た資金――投げ銭や広告収入なんか――を部費として還元してるんだろう。


「把握……。中の人などいない……」


「よろしい」


 細かく聞きたいことは山ほどあるけど大筋は理解。

 俺はゆっくりと立ち上がると、出雲さんにありがとうと声をかけた。


「ぃぃ……」


「二人が顔見知りで良かったわ。出雲さん、人付き合いが苦手そうだものね」


 うん、俺もそう思うけど、それ本人の前で口に出す? まあ、出雲さんもコクコク頷いてるけどさ。


「さて、伊勢君も適当なところに座って。立ち話もなんだし、お茶ぐらい出すわよ」


 香取部長の席は既にいろいろとカスタマイズされた形跡があり、その対面に出雲さんが座っている。

 残り空いている席は二つあるので、とりあえず出雲さんの隣に座った。なんか部長の隣は怖いし……


「はい、どうぞ」


 冷蔵庫まで備品にあるのかよ、などと思っている俺と出雲さんの机に置かれたのは……エナドリをお茶って言うな!


「ど、どうも」


 軽く引きつった笑いで返してみたものの、香取部長には全く通じてないようだ。手強い。

 あと、出雲さん、エナドリ飲んで大丈夫なのかな。急にテンション変わったりしそうで不安だ……


「さて、部の主な活動についてだけど、説明の前に……二人ともウェアアイディは持ってるわよね?」


 ウェアアイディとはPC&VRHMD用の装着者固有番号。

 フルダイブ黎明期に乱立した規格は六条グループの主導によって統一され、共通規格として一本化された。その共通規格に基づく個人データを本人と紐づけるために割り振られたのがウェアアイディ。

 PC&VRHMDを使ったゲームなりソフトなりを使ったことがあれば、必ずその前にウェアアイディを作っているはずなので……


「俺は持ってます」


「はぃ……」


 出雲さんも持ってるのか……って、この部に入ろうっていうなら持ってるか。


「良かったわ。アレの初期設定は面倒だものね。じゃ、部員同士のウェアアイディ交換会と行きましょう」


 あ、しまった。ウェアアイディ交換したら、俺がIROでぼっちプレイしてるのがバレるのでは?

 いやいや、今日からもう配信しなければいいんだよ! もともと配信も人を集めようとかそういうつもりなかったし大丈夫大丈夫!


 香取部長がVRHMDを被り、リアルビューモードで起動する。現実世界の方を認識できるように、システムウィンドウだけがホロ表示されるモードだ。

 そのまま俺と出雲さんに『はよやれ』という表情で促すので、覚悟を決めてVRHMDを被る。

 起動音がすることしばし、虹彩認証が走って俺のウェアアイディでのログインに成功した。ディスプレイネーム『ショウ』は世界的に見ればありふれた名前だから大丈夫だよな。


「じゃ、フレンド申請するのでよろしくね」


 香取部長が右手を俺に向け、左手を出雲さんに向ける。近くにいる人間にフレンド申請する時は、その相手が装着中のVRHMDに手のひらを向けるという手順があるからだ。


 そいや、香取部長が『魔女ベル』だとすると、相当レアな人がフレンド登録されることになる。これ熱狂的なファンにバレたら刺されるぞ……


 ポロンと音がして、フレンド申請ダイアログが目の前に現れる。


【最寄りのユーザー「ベル」のフレンド申請を受諾しますか?】


 迷わずに「はい」を押す。ここで「いいえ」を押すと、いったんブラックリストに行ったりして面倒なことになる。ネタでやって痛い目を見るトラップだ。

 右側のフレンド一覧のオンラインの一番上に「ベル」と表示された。同一名のフレンドがいた場合にこの表示をカスタマイズすることもできるが、今のところその必要はない。


「じゃ、伊勢君から出雲さんへ」


「りょっす」


 俺は右手を出雲さんに向けてフレンド申請を送信した。と、出雲さんが固まっているのだが?


「あれ? 送れてない?」


「ぁ、ぃぇ……」


 ポロンとフレンド申請が受理された音がしたので、フレンドリストを確認する。

 そして俺は硬直した。そこにある『ミオン』という名前に……


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