第491話 隣にいる人
金曜日
金曜のお昼過ぎ。バーチャル部室に来たら、ミオンだけが待ってくれていた。
先に行ったセスは、ベル部長や『白銀の館』の人たちと、南の島の古代遺跡、採掘施設の調査をするらしい。
『収録の日程が決まったみたいです』
「いつから?」
『来週の月曜からです』
午後2時から4時までで、1週間ほどらしい。ちなみに土日はなし。
バーチャルスタジオだけでなく、リアルのスタジオでの収録が1日あるらしい。
「結構かかるんだ」
『いえ、かなり短い方だと思います。母の話だと、何ヶ月もかける方もいるそうなので』
「マジか……」
まあ、そんな期間だと二学期が始まっちゃうし、そもそも学校が許してくれないもんな。
俺たちが学生なことも考慮してくれてるのか、ミオンの歌を先に収録して、それに楽曲を合わせてくれるらしい。
「じゃあ、俺も時間空けておくよ」
『はい!』
椿さんが付いててくれるだろうけど、一緒にいた方がミオンも落ち着くだろうし。
それはいいとして、
『ぁ、ポリーさんから招待が来ました』
「りょ」
ナットたちが開拓し、新たに作った港から、初めて帆船が進水するらしい。
その様子を見ないかという話が俺に来てたんだけど、いいんちょからミオンにも来てたそうで。
『聞こえてるのかしら?』
『大丈夫だろ。ショウ、見えてたら返事しろ』
「おう、見えてるぞ」
俺の反応に、揃ってびっくりする2人。仲良いな。
『お、おう。で、見えてるか?』
「ああ、見えてる。結構でかいな……」
『すごいです』
ナットが見せてくれているのは、ドックに収まっている全長30m弱の帆船。
例のラムネ島にあった設計図で、一から作り上げたものらしい。
「進水式が終わったら、どこかへ向かうのか?」
『いや、今日のところは練習航海ってやつだな。沖に見える島の周りをぐるっと回ってくるって話だぜ』
「へー、……そこって無人島?」
『さあ? まあ、誰か住んでるって話なら、もっと前に気づいてそうだけどな』
その辺りの確認も含めて、ぐるっと回ってくるという話らしい。
ただ、島に近づきすぎると座礁するかもなので、あくまで遠巻きにだそうだ。
「そういや、前に人魚がいるかもとかいう話を聞いた気がするんだけど」
「ぁ」
『それはクリーネの話じゃないかしら。あそこの沖に見える島には、人魚が住んでいるっていう話よね?』
「それそれ」
あれは確かベル部長に聞いたんだっけ?
NPC住民から、揉め事が起きて漁に影響が出ると困る、とかいう話を聞いた記憶。
『クリーネはこっから北に行った漁村の方だな。そっちの島とは関係ないから大丈夫だろ』
「ああ、それなら平気か」
『お、そろそろ始まるぞ』
カメラが向いた先で、いかにもな服を着たプレイヤーが進水式の開幕を告げる。
いかにもなって思ったけど、どっちかっていうと海賊船の船長の服なのでは……
「やっぱ、操船スキルとかってあるんだよな?」
『ああ、ただの操船スキルはコモンだな。で、スキルレベル5になると、アンコモンの操帆スキルが取れるんだってよ』
操船スキルは舵での船の動かし方で、操帆はその名の通り帆の動かし方。
それ以外にも地図スキルとかあった方がいいし、そう考えると空間魔法で測位できた方がいいのかもなあ。
「ぁ」
『進水するわよ』
おっと、見逃すところだった。
船尾にかけられていたぶっといロープが切られると、船がゆっくりと滑るように海へと向かっていく。
ポリー曰く、船台進水とかいう方法なんだとか。
『おお! うまく行ったみたいだな!』
「すげえ」
「すごいです」
さらにここから向きを変えてなんだけど、張った帆に向けて元素魔法で風を送って操船するんだとか。
なんかずるい気がしなくもないけど、そうでもないと大変すぎるもんなあ。
「ところで、2人は乗船しないのか?」
『俺んとこのギルドは港を提供してる方だからな。実際に船を作ったのは別のギルドだし、そりゃそっちが優先だろ』
「なるほど」
リアルには海運会社なんてのもあるわけだし、IRO内だと海運ギルドになるのかな?
試験航海が終われば、ベル部長たちが作る港へと向かうらしい。
陸が見える範囲での航海になるそうだけど、それが落ち着けば新大陸探しとか始まるのかな……
***
「そういや、なんで、い……、ポリーがいたんだろ?」
「白銀の館の代表代理ということでだそうです。部長もセスちゃんも他の方々も、死霊都市にいるので……」
「ああ、そういうことか」
ベル部長たちが死霊都市にいるのは、南の島へ来るためだから、実質、俺たちのせいな気がしなくもない。
「うーん、ちょっと申し訳ないような」
「良かったと思いますよ?」
「ん? ああ、なるほど」
ミオンもわかってるのか。っていうか、いいんちょもってこと?
「ニャ」「ブルル」
「あ、シャル、リゲル、おはよう」
リゲルは結局ずっとついてきて、教会横の馬小屋に住むことになった。
ちょうどパーンがいてくれて、キャロッタ(ニンジン)やレグコーン(トウモロコシ)、モーブプラ(サツマイモ)なんかを用意してくれることに。
畑も広がったし、リゲルがたくさん食べても大丈夫との保証つき。
「ブルル?」
「馬具を作ってくるから、それができたらね」
「ブルルン」
リゲルの「乗らないの?」アピールは嬉しいけど、今日は馬具を作るために、鍛冶場に籠る予定。
いろいろと調べてみた感じ、轡と鐙は金属製らしいし、魔銀で作ろうかなと。
時間が余ればメイン武器を新しくしたいけど、まずは重銀鋼インゴットを作らないとだ。
「あ、そうだ。土曜はライブやるよね?」
「はぃ。久しぶりになりますし、お料理と雑談と……ピアノはどうしますか?」
「うーん、演奏できたら、かな」
今日の夜、修理が終わったピアノをアズールさんが持ってきてくれることになっている。
まずはミオンに弾いてもらうつもりだけど、俺もちょっと教わる予定……
「っと、じゃ、俺はこもるから、時間になったらお願い」
「はぃ」「ワフン」「クルル〜」「〜〜〜♪」
ミオンは今日はルピ、ラズ、スウィーたちを連れて、パーンたちの集落へと。俺が鍛治仕事でこもってる間に、ウリシュクたちの神樹に挨拶に。
ちょっと寂しい気がするのは、二人でいることに慣れちゃったからかな……










