第49話 祝! 収益化!
あの後、ナットはまあ……というわけで部活の時間。
特にベル部長を待つ必要もないんだろうけど、ミオンは動画編集してるし、俺はこの間のライブのコメントを見直してる。
日曜はIRO内で後片付けやら引っ越しに忙しかったせいで、ちゃんと見てなかったし。
でも、コメントの流れが早くなると、全く追えないな、これ。魔女ベルが登場した瞬間「は?」ってコメントいくつ流れたんだ……
俺が最初にゴブリンを釣るところまでは、ステータスの話とかで繋いでくれ、そこから先は罠の解説なんかを。
それにしてもベル部長遅いな……
「こんにちはー」
「あ、どもっす」
『こんにちは』
ヤタ先生が先に現れるのも珍しい。
「ベル部長が来てないんですけど、ひょっとして休みですか?」
「いえー、二年生はこの時期に進路相談が始まるのでー」
ああ、それに捕まってるってことか。
ベル部長、すでにだいぶ稼いでるわけだけど、まさかこのままバーチャルアイドルを本業にするつもりなんだろうか?
「長く捕まってるのはー、ベルさんが何も考えてなかったからだと思いますよー?」
「見透かしてくるのやめてください……」
でも、実際、二年になったばっかりで進路とか考えてないよな。
俺だって、エスカレーターで美杜大にってぐらいしか考えてないし。
「さてー、ミオンさんのバイトの許可が降りましたのでー、収益化の申請をしましょうかー」
『え、もうですか?』
「はいー。去年の実績がありますからー」
いつの間にやらその辺は進んでたらしい。
『ショウ君、欲しいもの考えておいてくださいね』
「え、いや、俺はゲームしてるだけだしなあ……」
実際に動画の編集したり、ライブしたりの苦労はミオンがやってるわけで。
「それにしても、ミオンのご両親はあっさりオッケーしてくれたんだな。うちみたいな放任主義だったりするの?」
『うちは母親しかいませんし、母は会社の経営をしているので、働くことには基本賛成ですよ』
「え? そ、そうなんだ……」
ちょっと聞いちゃいけないこと聞いちゃったか?
「税金周りの話が早かったので助かりましたー」
『先生にはいろいろとお手数をかけました』
なんか俺の知らないところでいろいろあったらしいけど、要するに「いいけど、どういうバイト?」みたいな話になって、先生も交えてちゃんと話したそうだ。
『ショウ君は何も心配しなくて大丈夫ですよ。あ、母から一度会いたいとは言われましたが』
「待って! それめっちゃ不安なんだけど!」
「覚悟しておいた方がいいですよー。まあー、男の人なら人生で一度は経験することでしょうしー」
やべ、胃が痛くなってきたかも。無人島行きたい……
「お待たせ」
入ってきたベル部長はだいぶんお疲れの様子。
VRHMDも被らず、ゲーミングチェアに深く腰掛ける。
「八坂先生に随分と絞られましたかー?」
「……将来、何をしたいって聞かれたので『ゲーム』って答えたら怒られました」
「それは私でも怒りますよー」
ヤタ先生の威圧感のあるニッコリから目を逸らす部長。
俺もそう答えかねないし、もうちょっとちゃんと考えとかないとダメかな……
『先生、これでいいでしょうか?』
「確認しますねー」
そのやりとりに「説明しなさい」という視線が飛んでくる。
「学校のバイト許可が降りたんで、収益化の申請をしてるところです」
「そう! じゃ、収益化が通ったら、またコラボしましょ!」
ガバッと身を乗り出すベル部長だが……
「ベルさんとミオンさんとのライブはしばらくはダメですよー。じゃ、これで送信してください」
「えっ? なぜです!?」
『はい』
納得行かない様子のベル部長と、粛々と申請を行うミオン。
「あまりベルさんが出過ぎるとー、誰のチャンネルかわからなくなりますよー。ベルさんだって自分のチャンネルを疎かにしてるー、なんて言われたくないでしょー?」
「うっ、そうですね……」
とクールダウンして座り直す。
同じ部の活動とはいえ、外からはそれは見えないわけだし、ベル部長がずっとミオンのライブにいるのもおかしいよな。
「次のライブはもっとのんびりした内容がいいですねー。まー、急ぐ必要はないですしー、ライブは週に一度とかでいいかとー」
『はい』
「りょっす」
俺としてもそれくらいゆるい方が助かるかな。
ゴブリン戦はちょうど良かった感じだけど、次は多分あの熊——アーマーベアなんだよな。
それも1匹なのかどうかも不明だし、戦うにしてもせめて武器防具をまともにしてから戦いたいところ。
そうだ! 武器防具の話で思い出した……
「そういや、セスは大丈夫でした? なんか、部長の周りの人に失礼なこと言ってたりとか」
「そんなこと全然ないわよ。あの喋り方だって、ゲームの中ならキャラ付けって済ませられるもの」
俺があいつのライブを見てる時も、あの喋りのままだったけど、野良パーティーの人たちも特にどうこうはなかったっけ。
ちょっと変な話し方ってぐらいで、別に礼を失してるわけじゃないか。
「タンクとしての動きもトップ組に劣らない動きだったわ。そうそう、あの長剣に大盾、鎧は店売りじゃなさそうなんだけど……」
「あー、そっすね。本人に聞けば教えてくれると思いますよ。ソロでふらふらしてるんで誘ってやってください」
「でもいいの? 妹さん、中3なんだから、あんまりゲームばかりってわけにもいかないと思うんだけど」
まあ、普通はそう思うよな。けど、
「あー、それは大丈夫です。あいつ、ああ見えて、全中模試で満点一位とか取るアホなので、遊んでても美杜は余裕かと」
「え? 満点一位……って、え?」
ベル部長の中で何かがバグってフリーズした模様。
『先生、通ったみたいです』
「早いですねー。ベルさんの時は1時間ぐらいかかった気がするんですがー」
とミオンのチャンネルを確認するヤタ先生。
軽く確認したのち、
「じゃー、収益化しましたーってお知らせを出しましょうかー」
『はい。ショウ君も見てください』
「おけ」
ちゃんとお知らせで「皆さんのおかげで収益化できました。ありがとうございます」ってのを報告するらしい。
先生とミオンの方で用意してあったらしく、俺も確認のために目を通すように言われた。といっても、俺が突っ込む場所とかないんだけど。
「うん。大丈夫だと思う」
「じゃー、出しちゃってくださいー」
『はい』
お知らせが上がって、ちゃんと表示されてるか確認して、気がつくと午後5時をまわってた。今日の部活IROはどうしよ……
『ショウ君、ごめんなさい。もう5時まわってますけど、どうしますか?』
「うーん、ちょっと確認にだけ入って、ルピにご飯あげて戻ってくるよ。一応、配信はしておくけど、すぐに戻るからアーカイブ確認でいいと思う」
『はい』
それは良いんだけど、ベル部長はいつフリーズから解けるんだろ。