第479話 伊勢家を継ぐ者
「じいちゃん。元気そうだね」
「翔太はずいぶん背が高くなったなあ」
両手を俺の両肩に置いて、嬉しそうに言うじいちゃん。
一昨年の夏にじいちゃんの背を追い越したけど、そこからは高くなったって言うほどかな?
そして、ゆっくりと隣に立つミオンへと優しい眼差しを向ける。
「そちらの娘さんは?」
「えっと、同じクラスで同じ部活で……、その、仲良くしてる出雲さん」
「ぃ、出雲澪です。よろしくお願いします」
そう答えると、すごく嬉しそうにしてくれる。
「翔太をよろしくな。ちょっと頑固なところもあるが、いい子だから」
「は、はぃ!」
頑固? 頑固だとはあんまり思わないんだけど……
「真白と美姫も来てるんだろう?」
「うん、ばあちゃんとおやつの準備してる」
「そうか。ちょっと長靴を洗ってくるから、この子を小屋へ連れて行ってやってくれ」
そう言って黒柴の頭を撫でる。
中庭の玄関に近いところに犬小屋があるらしいけど、さっき気づかなかったな。
「わかった。そういえば、この子の名前は?」
「カゲマルだ。忍者みたいでかっこいいだろう」
「ワフン!」
じいちゃんがドヤ顔で同意を求めてくるんだけど……
ネーミングセンスの無さも遺伝なのかな?
………
……
…
夕飯は焼肉。
俺たちが来た時の夕飯はわかりやすく、かつ、手間のかからないご馳走ということで、焼肉かカレーになる。まあ、真白姉がめちゃくちゃ食べるし……
食後もお約束のアイスを出してくれて、いつも通りの雑談っていうか、お互いの近況を話す感じなんだけど……
「え? じいちゃんたちもIROやってるの!?」
「ああ。最近になって、すみれと一緒に始めたんだ」
すみれっていうのはばあちゃんの名前で、じいちゃんはずっと名前で呼んでいる。
ちなみにばあちゃんもじいちゃんを、翔一さんと呼ぶんだけど……仲良いよな。
「二人はどこをスタート地点に選んだのだ?」
「魔王国ってところだよ。雨の日なんかの仕事が少ない時に限るんだけどね」
そう言って熱いお茶に口をつけるばあちゃん。
俺たちはアイスだけど、二人はいつも通りのほうじ茶だ。
「ゲームとかやらないと思ってたけど……」
「小学生ぐらいの頃に、柏原の子とゲームで遊んだのを覚えてないかい?」
「あー、あった気がする……」
真白姉と美姫、俺とナット、じいちゃんとばあちゃんの3人で古い対戦すごろくゲームをやった記憶が。
あの時は、俺とナットがめちゃくちゃ凹まされたんだよな……
「あたしはフルダイブは初めてだったけど、若い頃に帰ったようで楽しいねえ」
「すみれさんの若い頃を見て惚れ直したよ」
「もう、孫の前だよ、翔一さん」
……本当に仲が良さそうで何より。
真白姉と美姫は苦笑いしてるけど、ミオンがニコニコなので何も言えない。
とはいえ、二人は必死にレベル上げをするようなプレイングではなく、魔王国の王都の東にある小さな村でのんびり過ごしてるんだとか。
「むう。じいちゃんやばあちゃんと遊べるかと思ったのだが……」
「ははは。まあ、いずれそういうこともあるだろう」
「年寄りの道楽に付き合う必要はないよ」
その言葉にホッとした様子の真白姉。
じいちゃんもばあちゃんも鬼人キャラでプレイしてるとのこと。真白姉がぽそっと「鬼ばばあ」と呟いて、ばあちゃんに……
二人で森へと狩りに出かけたり、畑で野菜を作ってたりと、なんか、やってることが俺たちとあまり変わらない感じ。
「あれ? ひょっとして……俺とミオンのこと知ってたりする?」
「そうじゃないかと思ってたけど、今日、澪ちゃんを見て確信したねえ」
ばあちゃんが驚いてたのは、そういうことか……
「翔太、教えたことをちゃんと実践できてるな」
とじいちゃん。
褒めてもらえるのは嬉しいけど、なんかいろいろとやらかしまでバレてると思うと……めちゃくちゃ恥ずかしいな。
………
……
…
「風呂が沸いたよ。女の子は揃って入りな」
「おう! 行くぞ」
「うむ」「は、はぃ」
居間でベル部長の昼のアーカイブ(美姫への限定配信)を見てたところ。
白銀の館から4人、南の島へと来て、この後はガジュたちキジムナーとの顔合わせかな?
俺だけ見てもしょうがないし、一時停止して3人を見送る。
「翔平と律子ちゃんは元気にしてるか?」
「あー、うん、元気にしてるよ。母さんは行ったきりだけど、親父はたまに帰ってくるかな」
「そうか……」
俺も真白姉も美姫も、母さんが帰ってこないのはもうしょうがないと思ってるんだけど、じいちゃんはやっぱり納得してないっぽい。
「もう今さらだよ。翔太がしっかりしてるんだから、任せとけばいいのさ」
「それはわかってるんだがなあ」
「それよりも、あの話をしときなよ」
「ああ……」
あの話ってなんだろう?
「この家も山も畑も、相続先は翔太にしておこうと思ってな」
「えっ!?」
普通に親父にすればいいじゃんと思ったんだけど、俺に直接渡す方が相続税が安く済むらしい。
どうせ親父は母さんにつきっきりで、農業を継ぐつもりはないだろうしってことだけど……
「待って待って。俺だって、別に農業を継ぐつもりはないんだけど」
「今すぐって話じゃないよ。私たちも長生きするつもりだからね」
「その後の話だ。いらなくなったら、誰か農業をしたい人か、最悪、国に売ってしまえばいい」
「うーん。まあ、そういうことなら……」
もう家を継ぐとかそういうのは古いけど、家とか山とか畑とかは、結局、俺にっていうのは納得はできる。
真白姉はあんなだし、美姫に背負わせるのはなんか違う気がするしなあ……
「ところで……澪ちゃんはいい嫁になりそうなのか?」
「あの子は律子よりいい子だよ。ちゃんと目を見て挨拶できたからね」
「あー、えーっと、まあ、うん……」
【更新履歴】
3/22 第477話 伊勢家本家にご招待 〜 本話まで
ヤングエースUPにて、コミカライズ連載開始しました!
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