第476話 魔法の一言
「ジュ?」
「ニャフニャ〜」
シャルが自分たち以外のケット・シーが人とどう付き合っているのかの説明をしてくれている。
俺もベル部長から聞いた話だけど、ケット・シーたちはラムネ島に残ってる子と、死霊都市から本土のあちこちへ行く子に分かれているらしい。
そういえば、シャルの話だとラムネさんの島にも神樹があるらしいんだよな。
スウィー以外にも『妖精の道』を開けるような子が現れる可能性もあるし、ちょっと不安材料ではあるけど……
このあたり、いずれトゥルーやパーン、クロたちに聞いておかないと。
「「「ジュジュ〜」」」
「おー! どう? 問題ない?」
「ジュジュ!」
石で作り直した砦、石壁の上からキジムナーたちが手を振ってくれる。
俺一人だったら大変だったろうけど、そこはベル部長がさすが純魔ってMP量だったし、石壁作るの得意だよな……
門は仮だけど、板を幾重にも重ねたものに。
キジムナーたちには重いかなと思ったんだけど、彼らは見た目によらず力持ちで、あっさりとそれを開け閉めできた。
「これで安心ですね」
「だね。前に来たコボルトの投石なんかは、全く効かないと思うよ」
強めに叩いてみたけど、びくともしない。
土木魔法も駆使して、基礎から建て直したもんなあ。
「さて、じゃ、ちょっと行ってくるよ」
「ジュジュ」
今日やっとかないといけないのが、古代遺跡の地下10階にある転移魔法陣の回収。
幸蓉の神樹を使って行き来できるようになったし、あれは持って帰っておかないと何か起きそうで怖い。
「そういえば、この道は整備するんでしょうか?」
「その辺は『白銀の館』の人たちにお任せかな。まあ、作った方がモンスターも減るかなと思うし」
「ぁ、そうですね」
コテージからキジムナーの集落前まで、いい感じの観光コースができるといいなあと。
ほどなく、途中にあるアームラの林に到着。
「〜〜〜♪」
「はいはい」
スウィーのおねだりに応え、いい感じに熟したアームラの実を一つもぐ。ミオンと半分こしてもらおう。
「ショウ君も。はぃ」
「さんきゅ」
ひとかけ食べさせてもらったんだけど、やっぱり甘くて美味しい。
「そういえば、最初に見かけたキジムナーちゃんたちがこの林まで来てましたけど、あれはどうしてでしょう?」
「あー、あれはコボルトたちが来てないかの偵察らしいよ」
「ぁ、そうだったんですね」
普段から警戒には出てるらしいけど、このアームラの林にくる子たちは、おみやげ感覚で採って帰ってるんだとか。
俺たちに会ったことは、その日のうちにガジュには伝わってたそうだけど、コンタクトを取る前にコボルトたちと戦闘があってってことらしい。
「〜〜〜?」
「いいけど、知らない人に見つからないようにね?」
「〜〜〜♪」
明日から俺たちがいない間、スウィーたちには自由にしていいと伝えてある。
コボルトの襲撃がまた起きたりしてないかの確認もあるし、この島に来るのは全然いいんだけど、あんまりハメを外されてもというのもあって……難しいところ。
「シャル君。ちゃんと見ててくださいね」
「ニャ!」
ミオンのお願いに敬礼して応えるシャル。
こういう時、きっちりしてるシャルが一番頼りになるんだよな。
コテージまで来れば、古代遺跡はもう目の前。
ルピがかけっこを期待してるので、ミオンに伝えてからダッシュ!
「ワフ〜」
「あはは、もうルピに勝つのは無理だって!」
古代遺跡の入り口まで行って、折り返して戻ってきたルピを受け止める。
体も大きくなったし、そろそろレダやロイに追いつきそうなんだよなあ。
………
……
…
「そういえば、ヒトミさんはショウ君に答えてくれるんでしょうか?」
「あ、確かに気になるかも……」
地下10階まで降りてきて、転移魔法陣の部屋まで来たところで、ミオンの素朴な質問が。
ここの管理者はベル部長。ただ、そうなった時に俺がいたことはヒトミさんも知ってはいるんだよな。
「えーっと、ヒトミさん、返事できる?」
[はい。最上位権限の所有者であれば、対応は必須となっています]
「マジかよ……」
「すごいです! ショウ君だけですよね!」
確かに今のところは俺だけかな。いや、誰かが蒼月の指輪を持ってたりしたらっていう問題はあるな。
「あれ? じゃあ、俺がお願いすれば、転移魔法陣の固定も外せた?」
[いいえ。施設の設備等に関連する権限は、現在の管理者のみが可能です。最上位権限の所有者は問い合わせのみ可能です]
「あー、今どうなってるのか聞くことはできるけど、それを変更することはできないってことであってる」
[はい。その理解で間違いありません]
なるほど。
まあ、最上位権限を使って査察に入る、みたいなのもあるかもだしなあ。
どうしても変更したかったら、制御室まで行って、管理者になれってことだよな。
「えっと、前に固定を外した時のことを聞いてると思うけど、この転移魔法陣は俺が回収していくから」
[はい。了解しました]
ということで、転移魔法陣をインベントリに収める。
あとはこれを持って、島へ帰ればオッケーだけど……
「どうしました?」
「いや、なんかこの部屋が空っぽなのって、ここに来たプレイヤーがどう思うんだろうなって」
「ぁ……」
現状の転移エレベータで降りて来られる一番下、そこに唯一ある部屋の中身が空っぽっていう……なんか隠し扉とかないか探しそうな気がする。
「〜〜〜♪」
「ん? 扉を開けたままにしとけばって? ……ああ、もう誰か来ちゃって、何かあったかもしれない風にってことか」
「なるほどです」
そうなると空っぽの宝箱とか置いておきたくなるけど……、ベル部長やセスあたりに、やりすぎって怒られそうだよな。
………
……
…
「じゃ、留守の間は頼んだよ?」
「ワフ〜」「〜〜〜♪」
神樹を通って屋敷へ帰宅。転移魔法陣はひとまず蔵へと。
幻獣組はルピ、妖精組はスウィーをリーダーに指名。指名しなくてもそうだったけど改めてかな。
あ、そうだ。魔法の一言を言っておこう。
「ちゃんと留守番しててくれたら、また美味しいもの作るからね」
「ワフ!」「〜〜〜!!」
***
「あれ? まだ来てないか」
『ですね』
明日からのこともあるので、IROをログアウトしてバーチャル部室へと。
ベル部長もセスもまだかと思ってたら、
「おう、翔太、澪ちゃん」
『ぁ、お義姉さん』
マリー姉が現れ、続いて、ベル部長とセスも。
ベル部長たちはライブの後に『白銀の館』のコアメンバーとアズールさんの顔合わせをしてくれたらしい。
ちなみに、セスとマリー姉はその間、ゲイラさんたちと手合わせしてたそうだ……
「じゃ、明日からお願いします。コボルトの襲撃も、あの砦があれば大丈夫だと思うんですけど」
それ以外にもコテージからアームラの林、キジムナーの集落までと道を通した方がいいかもという話をしておく。
「了解よ。まずは明日、現地を見てもらってからね」
【更新履歴】
3/8 第473話 ショウ君は心配性 〜 本話まで
ヤングエースUPにて、コミカライズ連載開始しました!
https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000255/
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