第458話 困った時の先輩頼み
「ふう」
寄生虫がポップすることもなく、ザックマンティスは無事解体。魔石(小)、蟷螂鎌、甲殻をゲットしたんだけど……魔石以外はいらないよな。
蟷螂鎌は武器に、甲殻は軽くて硬いので防具向きって鑑定結果だけど、それなら魔銀で間に合ってるし。
「リュ」
「ありがとな、パーン」
なので、パーンのミスリルの鍬で粉々にしてもらって、道の端っこに埋めた。
その間もルピ、レダ、ロイに警戒は続けてもらってるけど……
「〜〜〜?」
「いや、見に行かなくても大丈夫」
スウィーが崖上を見てこようかって言ってくれたけど、1人で行かせるのはちょっとなあ。ザックマンティス以外のモンスターがいるかもだし。
「じゃ、行こうか」
「はぃ」
俺とルピが先行してたのをやめて、みんなで固まって進む方針に変更。上から来る可能性を考えたら、分かれて行動する必要もないなと。
前にも上にも注意しつつ進み、教会の入り口、大きな門の前まで来た。
「開ける前に、ラズ、ちょっと向こう見てきてくれる?」
「クル!」
ラズなら格子の隙間を通れるので、ちょっとだけ向こう側を覗いてきてもらおう。
しゃがんで手を伸ばすと、たったかと走っていって、格子の間をするっと抜けて行った。
「大丈夫でしょうか?」
「ラズは足も速いし、玄関まで近いから大丈夫だと思うよ」
屋敷がボロボロだった頃に、でっかい蛇からちゃんと逃げてたし、なんなら屋敷の中にいたネズミのところに誘導しようとしてたっぽいし。
「ワフ」
「うん」
感知共有でラズの気配感知を確認……、意外と慎重に進んでるんだけど、特におかしな反応はないかな?
玄関の前まで行って、キョロキョロと左右を確認し、今度は駆け足で戻ってきた。
「おかえり。ありがとうな」
「クルル〜♪」
肩に乗って頬擦りするラズ。
フードへと戻ったところで立ち上がり、大門の扉に手をかける。
「開けるよ?」
「はぃ」
いつものやりとりをやって解錠完了。
えっと、こっち側に引いて開けるのが正解か。
「よっと!」
ギイィィっと重い音はしたけど手応えは軽め。
少し開いたところで、ルピたちがするすると中へと侵入。
「ワフン」
「うん、大丈夫っぽい」
中に入って左右を確認。
レダとロイがそれぞれ警戒にあたってくれてるけど、本当に狭いなここ。
「建物はうちの島と同じだけど、周りがずいぶん違うな」
左右の崖が結構近くて、馬小屋スペースもなく、2人並んで歩くぐらいの幅しかない。
ここだけ、本当に斜面をくり抜いて作ったみたいな感じだ。
「裏庭があるか気になります」
「うん。ついでに、どこか壁が崩れたりしてないか確認しようか」
「はぃ」
時計回りにぐるっと一周コースで。裏庭にちょっと期待してたんだけど、ただただ狭いだけで終わってしまった。
まあ、建物自体はしっかりしてる感じ。というか、島の教会よりも新しいような?
「壁に穴が空いたりもしてないみたいだし、中は大丈夫そうかな?」
よくよく考えると、スタート地点からあまり離れてない場所なんだし、さっきのザックマンティスもそんなに強くなかったっぽいし警戒しすぎたか。
玄関扉に手をかけて、いつものやりとりをやって静かに開く。
「〜〜〜♪」
スウィーが出してくれた光の精霊のあかりが、すーっと飛んでいって中を照らす。
ルピたちが足元をスルッと抜けていくのを追いかけて入ると、そこにはやっぱり見慣れた室内があった。
「一緒だなあ。特に違うところもなさそう」
「ニャ」
「女神像もないです」
中の作りも同じ。
長椅子が並んだ先が少し高くなっていて、その上の教壇の奥には女神像を置く場所らしい台座だけが残っている。
「キュ?」
「リュリュ」
「ニャー」
あ、トゥルーたちは教会もその中も見たことないんだっけか。
パーンとシャルたちが説明してくれてるんだけど、俺が彫った翡翠の女神像のことに興味津々っぽい。
今度、島の教会に連れてきてあげないとだよな。
「地下室があるか見てみませんか?」
「あ、そうだね。えっと、まずはこれを退けて……」
教壇を持ち上げてわきへと避けると、うん、あった。
巧妙にってほどでもないけど、隠れていた取っ手を持って引き上げると、これまた見たことのある階段が。
「キュキュ〜!?」
「あはは。これはうちの島の教会にもあるよ。まあ、今はただの物置だけどね」
死霊都市のは隠し通路があったりしたけど、多分それは無い気がしてる。つながる先が海になっちゃうだろうし。
「ワフ」
「うん、一応調べておこうか。ミオンたちはちょっと待ってて」
「はぃ」
スウィーとは別に精霊のあかりを出して階段の先へと送ると、ルピが先行して降りていく。
もう仔狼って感じでは無いけど、それでもちょっと心配なんだよな。そんなことを思いながら追いかけると、
「お?」
「どうしました?」
「本棚があって、本もたくさんある。ミオンも降りてきていいよ」
「はぃ!」
地下室自体は同じだけど、右側に大きめの本棚があって、そこに本がぎっちりと並んでいる。
背表紙の雰囲気的に神聖魔法関連っぽいし、ミオンのために全部回収して……いや、ベル部長とも相談しないとだよな。
「〜〜〜♪」
ミオンたちが降りてきたんだけど、レダ、ロイ、トゥルーのお付き2人は上で残ってくれてるとのこと。ここは狭いしありがたい。
「ワフン」
「あ……」
ルピがお座りして呼ぶ先には、これもまた見たことのある縦長な木箱。
サイズからして、等身大の名も無き女神像が入ってるんだろう。
「あれだろうなあ」
「どうします?」
「今回はさすがにベル部長に任せるつもり。アズールさんにも相談するけどね」
覆い被さっている亜魔布を取り払うと、予想通りのもの、名も無き女神像が大事に横たわっていた。
「やっぱり」
「ですね」
これって死霊都市に置くために用意されてるのかな?
うちの島にあったのは翡翠の女神として設置されたけど、他の女神像にした方が良いとかあるんだろうか……
「キュ?」
「あ、ごめんな。用は済んだし戻ろうか」
いろいろと面倒ごとになりそうな気がするし、これはベル部長に任せちゃった方がいいよな、絶対に。
それよりも、せっかくトゥルーたちを連れてきたんだし、南の海を楽しむことにしよう……










